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静かに海は広がる

駆け出しの弁護士が思いつきで書くブログです

司法修習について(刑事裁判起案)

2016-09-19 02:56:55 | 司法修習
3.刑事裁判

(1) 事件記録の概要

公判前整理手続きから、被告人質問終了までの一連の手続に関する資料になります。
具体的には、証明予定事実記載書面・予定主張書面、公判調書、証拠等関係カード、各書証、尋問調書、被告人質問調書などです。


(2) 設問の概要

私の年次から傾向が変わったようで、公判前整理手続から刑事手続の進行に沿って、事件を扱う裁判官の視点から、主に争点整理や事実認定を検討させる問題が出題されました。

争点整理に関する設問は、公判前整理手続における当事者間のやり取りを想定し、証明予定、予定主張及び証拠等関係カードのみを見て、担当裁判官の視点から本件でどのような事実が争点になりそうかを予測し、答えさせるものです。
公判段階の記録を見たうえで解答することも可能ですが、先入観を持ってしまうとかえって重要な点を落としてしまうこともあるので、素直に指示に従っておいた方が無難です。

争点となる事実は、犯人性、又は殺意・不法領得の意思等の主観的構成要件事実のいずれかであることが多いです。
解答では、これらの事実を基礎づける間接事実レベルの争点も指摘することになります。

事実認定に関する設問は、公判段階の記録にもすべて目を通したうえで、争点となる事実が認められるかを検討させるものです。大抵は公判供述の信用性が問題となります。

その他、小問として、勾留・保釈の要件を検討させる問題や、量刑を判断させる問題も出題されます。


(3) 解答のポイント

争点整理に関する設問は、導入されて間もないということもあり、総じて修習生の出来が悪く、教官の解説もつかみどころがなかった印象なので、本年から何かしら改善がされているかもしれません。

もっとも、教官が口酸っぱく注意していたのは、同様のテーマが争点となる事案でも、その中で重要となる事実は事案により異なるので、紋切り型の解答はよくないということです。

例えば、「殺意」が争点となる事案では、まず同じ「殺意」でも「突発的殺意」又は「計画的殺意」のいずれにあたるのかをまず検討し、そのうえで「殺意」を基礎づける間接事実(例えば「凶器の形状」や「創傷の部位」)のうち、検察官がどれに重点的を置いて主張しているのかを吟味しなければなりません。メリハリをつけず、教科書的な「殺意を基礎づける事実」をべたっと貼り付けたような答案は評価が低くなると思われます。

どの事実が重要になるのか(すなわち推認力が強いか)は、知識というより感覚の問題になるので、その意味で綿密な対策が必要になるところではないかもしれません。

事実認定においても、公判供述の信用性は一定のメルクマールに従って検討することになりますが、それ以上の知識が必要となるわけではなく、むしろ相場感を養っておくことが必要です。

大まかな流れとしては民事裁判と同様、間接事実を拾い出したうえで、要証事実に対する推認力の強さを検証します。ただし、民事裁判よりも事実を認定する心証レベルが高い印象なので、推認過程においてどのような反証可能性があるのかを丁寧に検討することが必要です。
その意味で、刑裁教官曰く、答案上に悩みを見せることが点数につながるとのことです。

刑裁では各設問で解答の目安となる枚数が指定されており、事実認定問でも10枚程度と、書く分量はそれほど要求されておらず、時間にも余裕があると思います。しかし、限られた枚数内で要を得た解答を仕上げないといけないので、民事裁判起案のように量を書いてカバーすることができず、外してしまうとダメージが大きい点に注意が必要です。

なお、保釈要件を検討させる問題や、量刑を答えさせる問題は、逆に教科書の知識があれば簡単に点数を稼げるところなので、確実に解答しましょう(なお、身柄拘束については、近年被告人の権利を重視する傾向にあるようです。)。


(4) 対策用文献

ア.白表紙

事実認定については「刑事裁判修習読本」と呼ばれる冊子が中心となりますが、難解かつ抽象的なので、入門のテキストとしての使い勝手としてはどうなのかなという感じです(もちろん、一定程度起案をこなしたうえで一読すれば、理解は深まると思います)。
導入修習前にちらっと見ておきたいという程度であれば、むしろ「事実認定ガイド」というホチキス止めのプリントで十分かと思います。

争点整理については、「プラクティス刑事裁判」という冊子に一連の流れが書いてあるので、こちらはよく読んでおきましょう。量刑の決め方についても解説が載っています。

イ.刑事事実認定重要判決50選(上・下)

テーマごとに判決において着目されている重要なポイントが整理されており、辞書的な使用を前提にすれば有用です。
ただし、これを熟読すれば起案の成績が上げるというものでもないと思います。内容は充実していますが、刑事系をどうしても極めたいという人でなければ必須ではないです。

ウ.予備試験法律実務基礎科目ハンドブック〈2〉刑事実務基礎(辰已法律研究所)

事実認定の際の考慮要素や保釈要件等、起案に必要な知識が端的にまとまっていて使い勝手が良いです。

エ.実例刑事訴訟法(Ⅰ~Ⅲ)

刑訴の細かい知識をフォローするのには最適ですが、起案の出題傾向の変化に伴い、そのような知識を正面から問うような問題は出されなくなってきているので、必須ではありません。


オ.非公式資料

修習生の有志が作成した事実認定のためのポイント集が出回っており、そこそこクオリティが高いものとなっています。起案直前や二回試験前に見直すための資料としてはちょうど良いです。

また、起案に関する資料は複写厳禁ですが、どういうわけか、過去の起案問題、優秀答案及び解説(と思われるデータ)が出回ってきます。

刑裁起案は、より多くの問題を検討し、事実認定の感覚を養っておくことが重要なので、運よく入手できた人は、修習生同士でゼミを組むなどして検討してみると、実力がかなり伸びると思います。

司法修習について(民事裁判起案)

2016-09-17 21:57:52 | 司法修習
2.民事裁判

(1) 事件記録の概要

当事者が裁判所に提出する訴状・答弁書・準備書面等の主張書面と、甲号証・乙号証、そして証人尋問・当事者質問調書から構成されます。


(2) 設問の概要

大まかには、①主張整理と②事実認定とに分かれます。

①主張整理では、当事者の主張書面から、要件事実に基づき、両当事者の主張を分析したうえで、争点となる事実を洗い出す作業です。原告については、主張する訴訟物及びそれを裏付ける主要事実、被告については、それらへの認否や抗弁として主張する事実を解答します。
近年の出題傾向では、当事者の主張の中で、失当となる主張(法律的に成立しない主張)についても指摘することが要求されます。

②事実認定では、①主張整理で洗い出した争点となる主要事実の有無について、証拠及び調書上認めらるかを検討します。

また、小問として、審理が進んでいく中で当事者が行った主張の撤回や変更につき、その理由を問われるものもあります。


(3) 解答のポイント

①主張整理では何よりも、訴訟物を間違えないということが重要です。
問題の構造上、ここで間違えると、以下の設問に点数が全くつかなくなります(2回試験の民事裁判の不合格要因として最も多いとされます)。
ただ、事件名や訴状のよって書きを見て、そのまま素直に解答すれば、ほとんど間違えることはないと思います。

訴訟物が決まれば、要件事実の知識に基づきブロックを組んで、請求原因事実、抗弁、再抗弁・・・という順に主張を整理していきます。要件事実はある程度暗記しておけば対応できますが、たまに白表紙や教科書にも載っていない訴訟物が問題となり、その際は実体法の要件から自分で要件事実が何かを考えないといけません。やる気のある人は、要件事実の暗記にとどまらず、何故その事実が主要事実となるのかを実体法を根拠に説明できる程度に教科書を読みこんでおけば心強いです。

なお、認否については範囲を間違えないように注意しましょう。準備書面中の認否対象となる文章に下線を引いて、相手方が認めるなら○、不知は△、否認は×をつけて見やすく整理する方法がオススメです(裁判官の中にも同様の手法をやっている人がいます)。

②事実認定では、主張整理の段階で当事者間の争いのある事実を絞っていき、かかる事実の存否について判断することになります。
頻出となるのが契約(当事者間の合意)の存否で、契約書の署名押印部分の二段の推定に紐付けた出題がなされることが多いです。いずれにせよ、証拠から認められる間接事実を挙げていく作業を行うことになり、それぞれについての推認力の強弱を検討して、最終的に争点となる主要事実が認定される・されないを判断することになります。

間接事実の整理の仕方としては、争点となる主要事実の存在を裏付けるもの(積極的事実)と、主要事実の存在を否定する方向に作用するもの(消極的事実)とに分け、主要事実との関係でそれぞれがどのような推認力を有するかを分析します。

答案上は、例えば1.契約前の事情、2.契約時の事情、3.契約後の事情というような項目に分け、それぞれの項目内で、積極的事実・消極的事実をあげて行く形でOKです。
契約前の事情からすれば、契約の存在を認める方向の事実が多いという結論で書く場合には、契約締結の事実を推認させる積極的事実をいくつか挙げたうえで、

「積極的事実としては以上のものが考えられ、契約締結に向けて当事者が準備をしていたことが推認される。他方、消極的事実としては●●や××が認められるが、反対仮説としては△△の可能性もあり、積極的事実の存在を覆すに至らない。したがって、契約前の事情は、契約締結の事実を相当程度推認させる。」

というようなまとめ方になります。

そして、各項目で結論をまとめたうえで、最後に総括として、争点となる主要事実が認められるか否かを結論付けます。
この点、各項目でも主要事実に対する推認力は異なります。例えば、契約前の事情として、当事者に契約締結の動機があったという事実や、準備をしていたという事実を認定しても、契約締結時までに覆っている可能性もあるわけなので、主要事実との関係では類型的に証明力が弱いということになります。他方、売買代金を受領していたなどの契約締結時の事情は、売買契約締結の事実を類型的に強く推認させるものとなります。

ですので、各項目間の推認力の関係も意識しつつ、答案上で悩みを見せることも大事なのかなと思います。積極的事実と消極的事実との推認力の強さの比較になるわけですが、積極(消極)方向の結論とする場合は、消極(積極)方向の事実が認められるけれども、●●のような反対仮説が成り立つ可能性があるため、積極(消極)的事実の証明力を覆すに至らない、というように、自分の結論と反対方向の事実がなぜ結論に影響しないかを、具体的かつ説得的に答案に示すことが必要です。

間接事実は多く挙げれば加点方式で点が伸びていくという話も聞きます。主張書面中でも裁判官に着目してほしい間接事実を当事者がふれているので、その誘導に従えば十分網羅できます。

また、事実を挙げる際は、客観的証拠より得られる「固い事実」から先に書いていくことも、理解していることのアピールになります。民事裁判では客観的証拠が重視されるので、くれぐれも裏付けのない事実をあげないよう注意しましょう。


なお、小問は判例を含めた民法の基礎知識を問われることが多いですが、司法試験からブランクがあると結構答えられなかったりします。仮に間違えてもAを採る人もいるので、こだわりすぎる必要はありません。


(4) 対策用文献

私が起案対策として使っていたテキスト等を紹介します。

ア.白表紙(研修所から配布される教材)

要件事実は「問題研究」、事実認定は「事例で考える~」(いわゆる「ジレカン」)が基本となります。最低限の知識や考え方はこれらでカバーされると思います。
現在は配布されていませんが、「類型別」と呼ばれる教科書も「問題研究」より情報量が多く、よく使われています。

イ.完全講義民事裁判実務の基礎(上・下)

情報量としては白表紙よりも多く、上巻の要件事実については民法の知識に照らした丁寧な解説がなされているので、こっちをメインで使っても良いかもしれません。
下巻の事実認定についても、二段の推定を中心とした解説が非常にわかりやすく、純粋にオススメです。
最近この「入門編」なる新刊が出版されたようなので、要チェックです。

ウ.ステップアップ民事事実認定

事実認定のテキストとしてはメジャーなものです。ただし、抽象論が多いので、事実認定の考え方を理解するのには役立ちますが、起案対策に直結するかというと必ずしもそうではない気がします。

エ.要件事実マニュアル

マイナーな要件事実をフォローしており有用なテキストですが、辞書的な使用が前提とされています(それでも私は気合で通読し、ある程度暗記するという暴挙に出ていました)。
変化球的な出題にも対応したいという方は一度目を通しておくと安心です(実務に出てからも使える文献です)。

オ.要件事実問題集

こちらも岡口裁判官の著書で、研修所起案に近い言い分形式の主張整理に関する事例が20問ほど載っています。
内容としては複雑・高度なものですが、このレベルをこなしておけば二回試験対策としても十分かと思います。



司法修習について(起案総論)

2016-09-17 02:47:54 | 司法修習
第二 起案について

1.起案とは何か?


(1) 総論

司法修習における「起案」とは、民事裁判・刑事裁判・検察・民事弁護・刑事弁護の各科目において、配布される100頁前後の事件記録を分析し、設問で要求される事実認定や書面の作成を行ういわば「テスト」を指します。

私の場合、導入修習・分野別実務修習では各科目1回ずつ、集合修習では各科目2回ずつ実施されました。

(2) 時間

集合修習中の起案時間は、午前9時50分から午後4時40分までの6時間50分、一日がかりで行い、正午からの1時間はお昼休みとなっています。ただ、あくまで「昼食をとってもよい」というスタンスなので、実際はおにぎりやパンを片手に起案を続ける人がほとんどです。
なお、導入修習中や分野別実務修習中の起案は、3時間程度で終わるものでした(検察の実務修習だけは1日がかりだった気がします)。

7時間近くあると考えると時間的にも余裕がありそうですが、記録をすべて読むだけで午前中いっぱいかかり、その後答案構成・解答作成を行うと結果的には試験時間をめいいっぱい使うことになります。

(3) ルール

当日は事件記録と答案用紙(35枚つづり)の他に紐が配られ、答案を書き終わった際には、各ページ下に番号を振ったうえで、左側の穴に紐を通して綴ります。この作業が時間内に終了しないと、採点の対象外という厳しいルールになっています(この点は2回試験も同じです)。提出時に綴り紐がほどけてもアウトなので、特にこだわりが無ければ、かた結びで結んでおくのが無難です。
また、答案の完成が終了ギリギリになりそうなときは、10分ぐらい前には答案用紙に少し余裕を持たせて先に紐で綴ってしまい、答案を書き終わった後、余った用紙に×印を付けておく、というやり方もありです。

ページ番号の振り間違えにも注意が必要で、順番を間違えたり飛ばしたりすると、間違えたページ番号通りに答案が作成されたものとみなされて採点されるらしく、その部分の点数が入らないことになります。

いずれにせよ、内容面はともかくとして形式面には相当の注意が必要なので、ケアレスミスを犯さないためにも、莫大な量の記録を要領よく読み解き、時間に余裕を持つ
ことがカギになります。

(4) 評価

評価方法は、一般的にA~Eの5段階で、科目や教官によってはA~Cの3段階で評価されるものもあります(なお、導入修習中の起案には成績はつけられませんでしたが、任官志望者にとっては教官に良い印象を与えておくに越したことはありません。)。
あくまでクラス内の相対評価なので、自分の感触としては出来が悪くても、蓋を開ければまずまずの成績だったということもよくあります。
ですので、集合修習中の起案でDやEをとったからと言って、直ちに焦る必要は全くありません。

(5) 各科目共通のコツ

(3)でも申し上げましたが、とにかく事件記録中に出てくる事実を効率よく整理することがすべてだと思います。

司法試験と異なり、起案では事実が所与のものではなく、事件記録にある書証から、どのような事実を認定できるかを判断し、重要な事実をピックアップしていく作業が必要になります。

もっとも、修習生に求められる事実認定能力のハードルはそこまで高くないので、各科目ごとにポイントを押さえておけば大外しはしないと思います。。

また、科目によっては答案の型が決まっていないものもあり、どのように書き始めればよいか悩むだけでも時間のロスになってしまいます。起案を何回かこなしていく中で、自分なりのペース配分や記録の読み方、答案の型を身に着けて、本番の二回試験に向けて「起案慣れしていく」ことが大事だと思います。



次回から、各科目ごとにポイントと思うところを書いていきます。



司法修習について(集合修習~二回試験、就職活動)

2016-09-14 01:44:25 | 司法修習
前回からの続きになります。


(3) 集合修習

ある程度自由度が与えられた実務修習に比べ、集合修習は短期間で色々と詰め込まれます。

この修習の主な目的は、二回試験に向けた起案スキルの向上ということになります(起案のポイントについては別途詳述します)。

各科目2回ずつ、計10回の起案を丸一日かけて行うのと、その解説も各回丸一日かけて行われるので、日々のほとんどが起案に費やされます。修習後半になってくると、頭と利き腕の疲労を顕著に感じるようになります。
また、各科目の起案は1回目と2回目とで出題傾向が変わるものもあり、1回目の起案の失敗を活かして2回目に臨む、といった悠長なことはできません。

起案のほかにも、民事・刑事それぞれの模擬裁判や演習の準備もあり、スケジュールとしては非常にタイトなものになります。集合修習中に改めて要件事実を見直すなどの余裕はないため、裁判官志望で起案で優秀な成績を採ることが至上命題とされているような人は、分野別実務修習の段階から準備しておきましょう。

なお、二回試験との関係で付言すれば、集合修習中の起案成績が悪くても、二回試験で落ちるのは別の原因だったりするので、あまり心配しすぎることはありません。逆に考えすぎてしまうと解答があらぬ方向に向かったりするので、よくなかった点を冷静に分析し、次から気を付けるか~ぐらいの気楽な気持ちでいた方が良いと思います。

研修所に併設された寮に入寮している人はともかく、私は通所していたので、しょっちゅう遅れる電車とバスに揺られるというストレスフルな毎日が続きました。
また、昼食も弁護修習とのギャップがひどく、一時はカロリーメイトの方がおいしく感じる時期もありました。


(4) 選択型実務修習

二回試験開始までの1か月半ほどの期間、分野別実務修習の内容を補うことを目的として実務修習地の裁判所・検察庁・弁護士会にて各カリキュラムが設けられる他、自分でアポを採って一般企業に研修に行ったり、過疎地の事務所で研修を受けたりする機会が与えられます。

修習生は興味のあるカリキュラムを選択し、自分でスケジュールを自由に組むことができますが、人気のあるものは抽選になることもあります。

私は、裁判所の民事通常部での追加修習を2週間行いました。集合修習も経て事実認定能力に磨きがかかっていたということもあり、分野別修習の時よりも、より的確に事案を分析することができるようになっており、自分の成長を実感しました。
また、二回試験の直前期に裁判官からダメ押し的に起案のレクチャーを受け、そこそこの評価を得ることができ、例年不合格者が一番多い民事裁判起案に対する不安がなくなったことも、精神的にはすごく大きかったです。

何も予定を入れない場合は、弁護修習の配属先での修習になりますが、直前期ということで何かと気を遣われることが多いです(ちなみに、私の指導担当はそういう気遣いが苦手らしく、二回試験に関係のない課題をバンバン私に振ってきました笑)。

二回試験の成績が重要になる任官志望者の中には、選択型カリキュラムをあまり入れずに弁護修習先での自習に費やすという邪な考えの人もいたようですが(もちろんそのような背信的行為は禁止されています。)、自習でカバーできることは実はそれほどないですし、むしろ実務の感覚を養っていた方が試験対策としても良いような気もします。


(5) 二回試験

修習の締めくくりにして一番の山場です。
内容については追って書きたいと思います。


4.修習中の就職活動について

修習生活の中でも気になるのが就職活動かと思います。
以下の内容はあくまで修習生内の噂と私独自の見解に基づくものですでご注意ください。

(1) 裁判官

導入修習の段階から、裁判官に興味のある人は教官との面接の機会が設けられています。

正式に採用活動が始まるのは実務修習中だったと記憶していますが、司法試験の成績上位者や、分野別実務修習中の起案成績が良い人には、教官から水面下で働きかけがあるとの噂も聞きます。
もちろん、お声がかからないからと言って裁判官になれないわけではなく、門戸は想像よりも広いと思います。司法試験の成績や、分野別実務修習中の起案成績が重視されるようですが、私の知る限り絶対的な基準というわけでもないようです。

私の周りでは、学歴・年齢・性別関係なく、幅広い人材が採用されていきました。


(2) 検察官

検察官のリクルートでは、検察実務修習中の取調べ等の課題の出来や、実務修習中の起案成績が重視されるという話を聞きますが、個人的な印象では熱意のある人が歓迎される気がします。
そもそも、検察組織の雰囲気に合う人という向き不向きの問題もあるかと思われます。

他方で、学歴・年齢・性別ではじかれることはないと思いますので、やる気さえあれば誰にでもチャンスはあります。
検察実務修習中に志望者が集められ、面談が開かれていましたので、進路として考える方は実務修習で積極的にアピールしましょう。


(3) 弁護士

大手や中堅事務所では修習開始前から採用活動が始まり、修習開始時には既に内定を持っている人も少なくありません。
修習地が地方になってしまった人は、東京や大阪などの大都市まで就活に向かうのはかなりの負担となります。
修習前に内定を取れるに越したことがありませんが、取れなくても焦る必要はなく、修習開始後年が明けてからも募集はありますし、実務修習地の弁護士会に気に入られてその場で就職する人もいます。
修習でお世話になった先生からの紹介で就職が決まることもあるみたいなので、修習では人脈を広げておくことが大事かもしれません。



司法修習について(修習の概要~分野別実務修習まで)

2016-09-13 00:29:04 | 司法修習
お疲れ様です。

先週司法試験の合格発表があったということで、無事合格された皆様のために、修習や二回試験関係について、私が経験したところを書いていきたいと思います。
なお、開示は受けていませんが、私自身おそらく特段良い成績で司法研修所を卒業したというわけではないので、この内容がどこまで参考になるかわかりませんが、「この程度でも修習乗り切れるんだ」ぐらいの気休めにしていただければ幸いです。

第一 司法修習全般について

1.そもそも司法修習とは?


法律家として現場に出る前に、1年間実務家の方々からの指導を受け、プロとして働き始めるのに必要な知識や技術を身に着ける場です。
内容としては、和光市の司法研修所で講義を受ける導入修習・集合修習と、各地の地方裁判所・検察庁・弁護士事務所で指導を受ける実務修習に分けられます。
司法研修所での講義は、①民事裁判、②刑事裁判、③検察、④民事弁護、⑤刑事弁護の5科目からなり、各科目の教官(現役バリバリの実務家の皆さんです)から熱心に指導していただきます。
この5科目が卒業試験である二回試験の試験科目になっており、つつがなく合格すれば無事実務家デビューということになります。

タイトな日程で、体力的には結構きついですが、修習で知り合った同期とは末永く腹を割って話せる仲になりますし、将来の自分の進路とは違う職務の経験ができたり、実務家の方(弁護
士の私の場合、裁判官や検察官)と本音を交えながら話せる最初で最後の機会になります。私自身、今現在の仕事との関係では、修習で学んだことが全て役に立っているというわけではありませんが、今思い返せば貴重な経験を積むことができたと思います。
皆さんもぜひ有意義なものにしてください。


2.大まかな流れ

時系列としては以下のとおりです。

① 導入修習(11月下旬~年末)
本格的な実務修習に入る前に、研修所でその名のとおり導入に当たる講義・演習が行われます。

② 分野別実務修習(1月~8月中旬)
裁判所・検察庁・弁護士事務所を順に回り、各現場で実務家から指導を受けます。

③ 集合修習(8月中旬~9月下旬)
司法研修所で、いわゆる「起案」や模擬裁判等の演習を行います。

④ 選択型実務修習(10月~11月中旬)
分野別実務修習でフォローできなかった専門分野や自分が興味のある分野について、実務修習地にて希望するカリキュラムを受講します。
修習地によっては、③集合修習と時期が入れ替わるところもあります。

⑤ 二回試験(11月下旬)
1.で述べた5科目について、5日間かけて「起案」形式の試験を受けます。


3.各論

(1) 導入修習

修習地を基準に1クラス70人弱でクラス分けされ、各クラスごとに講義を受けます。
ちなみに、このクラスが後の集合修習でのクラスにもなります。
修習開始前にそれなりの量の事前課題が送付されてくるので、それを検討したうえで講義に臨むことになります。
司法試験とはまた違った頭の働かせ方をするので、最初はちんぷんかんぷんかと思いますが、教官の質問に答えられなくてもあまり気にせず気楽に受講すれば足りると思います。
(裁判官志望者の中には修習前からゼミを組んで対策を行う猛者もいたようです。)

それでも不安という人は、送られてくる教科書に目を通したり、要件事実の復習をしたり、民事執行・保全の勉強をしておけば精神衛生上良いかと思います。

1年間修習を共にする仲間との顔合わせ的な意味合いも強く、季節がら忘年会も兼ねた飲み会等が盛んに行われます(そこで教官とも仲良くなれます)。

ただし、冬場ということもあって研修所内でも風邪が流行るので、体調管理には気を付けましょう。


(2) 分野別実務修習

カリキュラムとしては、1クール2か月弱で、民事裁判、刑事裁判、検察、弁護の4クールが設けられています。

ア.民事裁判修習

修習地の裁判所の民事部に配属されます。私の場合は各部修習生2名の配属でした。
民事部は部長、右陪席(中堅の判事)2名、左陪席(若手判事)の構成で、書記官の方も5~6名いらっしゃいます。
内容としては、事件記録を検討したうえで、弁論を傍聴し、その後裁判官と意見交換を行ったり、検討レポート(※)を書いたりという感じです。

【(※)分野別実務修習中の事件検討結果の報告も便宜上「起案」と呼ばれているのですが、いわゆる研修所主催のテストとしての「起案」と区別するため、あえて「レポート」という表現を使用しています。】

裁判官は証拠からしか事件の全体像を把握できないので、代理人弁護士にとって証拠の出し方がいかに重要になるかが分かります。

その他、各種全体講義や家庭裁判所での調停の傍聴、起案もありますが、上記のような事件検討がメインになるので、毎日じっくり記録を検討でき、全クールの中で最も穏やかな日々が過ごせました。

部の雰囲気は部長のキャラにもよりますが、毎年修習生を受け入れているだけあって、指導熱心な方が多いと思います。
修習全体のメインテーマの一つとして、「事実認定」(証拠からどのような事実が認定できるか)が非常に重要になるのですが、この段階で事実認定の手法をマスターしておくと、後の研修所起案や二回試験にスムーズに臨めると思います。


イ.刑事裁判修習

裁判所の刑事部に配属されることになりますが、各部の修習生の配属人数は6人でした。
民事裁判修習と同様に事件の検討がメインですが、刑事裁判官は第1回公判まで記録に目を通せないため、記録を検討して臨むというよりかは集中して傍聴を行い、傍聴後裁判官との意見交換やレポート作成を行うことになります。

刑事裁判は争点整理(一つの事件の中でも、犯人性や故意の有無等、集中して審理する点を絞り込むこと)が重要なポイントになるので、公判前整理手続の傍聴などで、裁判官がどの事実に着目してどのように争点を絞っていくかを見ておくと、後の起案にも役立つかと思います。

また、事件の検討のほかに、各部に配属された修習生が裁判官役・検察官役・弁護人役に分かれてミニ模擬裁判を行います。
刑訴規則にある細かな公判廷でのルール(尋問における異議事由など)が非常に大切なので(研修所起案や二回試験でも出題されます。)、これを機に大まかに理解しておきましょう。

刑事裁判においても、刑法や刑訴法の解釈論というよりかはむしろ事実認定が重要になりますが、事実認定の手法が民事裁判と異なるので、民事裁判官との視点の違いを意識しておくと良いかもしれません。

その他、裁判員裁判、勾留質問や少年審判の傍聴、起案などがありました。部の裁判官もフランクな方たちで、修習生の配属人数が多いということもあり、比較的和気あいあいと過ごせました。


ウ.検察修習

私の場合、裁判所と異なり部ごとに配属というわけではなく、大部屋に修習生全員が集められ、その中で3~4名のグループに分けられます。
そして、グループごとに警察から送られてきた事件記録や証拠を検討し、被疑者や関係者の取調べや供述調書の作成を行い、起訴するかしないかを裁定する、といった捜査段階での一連の手続を体験します。

検察修習では「型」を重視する傾向にあり、身柄拘束の適法性、犯人性の有無、構成要件該当事実の充足性など、各ポイントについて定型のフローに従って記録を検討することになりますし、起訴状における公訴事実の書き方にも非常にこだわりがあります(この点は起案についても同様です)。
事件記録を検討する際には、公判まで見越して、捜索差押報告書や鑑定結果報告書、被疑者の供述調書などの各証拠に有罪を主張するのに十分な事実が含まれているかを検討し、足りない部分は自分たちの取調べや警察への捜査指示で補います。

検察修習でも事実認定が重要ですが、刑法における各罪の成立要件の解釈や、罪数論の知識も若干使うので、司法試験以来刑法なんかやってないよ~という人は軽く復習しておくとスムーズにいきます(後の起案にも役立ちます)。
取調べはなかなかスリルのあるものですが、よほどのことが無い限り被疑者が暴れまわるようなことはないと思うのでご安心下さい。

その他、公判段階についての修習として、公判担当検事の指導のもと、冒頭陳述や論告の作成を行う機会もありましたし、刑務所見学や希望者のみの司法解剖の立会もありました(もちろん、起案もです)。
検察官は裁判官と比べると個性の強い人が多いというイメージで、肌に合わない人や、イメージしてたのと違うという人もいるかとは思いますが、細かいことは気にせず粛々と課題をこなしていけば問題ありません。
私の場合は、グループに検察志望の人がいたので、私を含め他の班員は引き立て役に徹していました。
また、配属の修習生が一同に会するということもあり、私の周囲では淡い恋の炎が灯ったり消えたりしていました。


エ.弁護修習

修習地の各弁護士事務所に一人ずつ配属され、指導担当弁護士のもと、民事刑事を問わず、各種書面の作成や期日への立会い、法律相談への同席等を経験します。
扱う分野としては配属先の事務所の取り扱い案件に左右されることになりますが、そこまで大きく差が出ないようには配慮されていると思います。

2か月弱の間指導担当の近くで仕事ぶりを見れば、事件に対する弁護士としての着眼点や筋読みの相場感がある程度分かるようになってくるので、起案や二回試験の弁護科目において結論をはずさない力が相当養われると思います。また、弁護士費用の決め方など、ビジネス面に関わるところも見ておくと将来役に立つかもしれません。

全クールの中で一番自由度が高い修習だと思いますが、指導担当との相性が悪いと苦労する人もいるようです。私の場合も昔ながらの頑固一徹タイプの先生でしたが、途中でただ単にシャイだったことが判明し、修習の最後には激励の言葉をかけていただきました。
また、毎日おいしい昼ご飯をごちそうになり、若干ながらセレブ感を味わうことができました。

その他、弁護士会が主催する起案合宿(宴会付)にも参加しました。


長くなってしましましたので、集合修習以降の内容、起案のポイント等については、次回にしたいと思います。