Rondo Capriccioso ~調律徒然日記~

Piano Labo.(代表)竹宮秀泰によるブログ。
「ピアノ」を主題に気まぐれなロンド形式で綴ります。

ファイリングとは?

2011年04月10日 | HP用

ピアノの音は弦振動から作られるので、ピアノは弦楽器と言っても良いでしょう。

余談ですが、弦楽器は、弦振動を共鳴させる楽器とも言えます。
例えば、ギターは弦を弾(はじ)いて振動させ、胴部で共鳴させます。
ヴァイオリンも同様ですが、弦を振動させる方法がギターと違い、こちらは弦を擦って振動させるのです。
前者、つまり弦を弾(はじ)いて振動させる弦楽器(他にはチェンバロや三味線、琴など)を撥弦楽器(はつげんがっき)と言います。
一方、後者、つまり弦を擦って振動させる楽器(他にはチェロ、ヴィオラ、胡弓など)は擦弦楽器(さつげんがっき)と言います。

さて、ピアノも弦楽器ですが・・・・
ピアノの場合は、弦を弾(はじ)いたり擦ったりしません。
ピアノの弦は、ハンマーと呼ばれる部品で叩かれることにより振動するのです。
これが、ピアノが打弦楽器と呼ばれる所以です。

さて、そのハンマーという部品ですが、これは木材にフェルトを巻きつけた部品です。
かなり大きな力で圧縮された非常に固いフェルトですが、それでも鋼製の弦の方がはるかに硬い素材です。
従って、何度も音を出していると(弦を叩くと)、次第にフェルトの弦に接触する部分が、少しずつ消耗していきます。

最初は、弦の跡が薄っすらと付き、その部分が硬化します。
実は、この時が一番良い音がするのですが、残念ながらこの状態はいつまでも続きません。
その内、徐々にフェルトは磨り減っていき、弦の跡は溝になってしまいます。
この溝はどんどん深くなっていく一方で、それに従い繊細な音色のコントロールが出来なくなっていきます。

ハンマーと弦の接触は、出来る限り小さな面積(点が理想)で、瞬間的な接触時間も短かければ短いほど、良い音、良いタッチが得られます。
しかし、弦跡の溝が深くなっていくに従い、接触面積も広くなり、また接触時間も長くなります。
もっと言えば、ハンマーが弦に食い込む形で接触するため、接触の瞬間、ハンマー自身が弦の振動を妨げているのです。

この場合、ダイナミクスのレンジは狭められ(pp及びffが出ない)、音色は荒れて硬化し、コントロールも利きません。
タッチ感も悪くなり、表現力を発揮出来ません。

では、どうすれば・・・?

ハンマーは消耗品です。
使用する限り、必ず消耗します。
演奏に差し支えるほど消耗すれば、ハンマーのフェルトを削り、形を整え直してあげればよいのです。
この作業を、ハンマーファイリング(ハンマー整形)と言います。

ファイリングを行なうと、一回りハンマーが小さくなりますが、弦の溝が消え、接触面積を点に戻すことが出来ます。
また、ポンッとはじく感じでハンマーが弦を打つので、接触時間も大幅に短くなり、タッチ感も快適になります。
弱音のコントロールが容易になり、ダイナミクスの幅も広がり、表現力が豊かな楽器になります。

弾きにくくなった、特にppを出しにくくなった、音が硬く荒れている、音量や音色がコントロール出来ない・・・などの症状が出ている場合、ハンマーが消耗している可能性があります。
一度、調律師に見て頂くとよいでしょう。



整音とは?

1010年12月21日 | HP用

 整音とは、文字通り、音(音色)を整える作業です。
 具体的には、弦を打つハンマーの形状や硬さ、弾力などを適切な状態に整えることにより、心地良い音色に揃えることです。

 しかし、音色の調整をハンマーだけで解決しようとすることは、大変危険な誤りです。実際、すぐにハンマーを触りたがる調律師も少なからずいらっしゃるようですが、ピアノの音は弦振動なのだという事実を見失ってはいけないのです。
 ハンマーは、弦を振動させる部品に過ぎません。

 つまり、整音は弦をどのように振動させるかを追求する作業なのです。
 その為には、弦を打つ際のハンマーの力や角度、スピード、弦との接触時間、接触面積、弦のどの場所を打つか、三弦の高さは揃っているか・・・・等、整音以前の整調で解決すべき問題がたくさんあるのです。
 もっと言えば、響板やボディに効率良く振動が伝わる状態なのか、弦そのものに劣化はないか、また、駒や響棒、フレーム等に起因する問題・・・・等、オーバーホールなどの修理によってしか解決出来ない問題が潜んでいることもあります。

 逆に言えば、修理を要さないピアノできちんとした整調を施し、正しい調律で倍音列とユニゾンを揃えて、初めて整音に取り掛かれるのです。
 しかし、この一連の流れを無視し、いきなりハンマーに針を入れる調律師が、少なからず存在することも事実です。
 もちろん、現場で行なえる作業には限界がありますので、応急的な音創りとして、理解した上での処置ならば致し方ないでしょうが、全てをハンマーだけで解決しようとする誤ったメンテナンスは、知らず知らずの内に、ピアノをダメにしてしまう恐れがあります。

 ピアノラボでは、定期的にタッチと音を揃え、最良のコンディションを保持することがメンテナンスだと考えております。
 従って、定期のお客様に関しましては、整音も基本料金内での作業の一部と考えてますので、別料金を頂くことはございません。

 音とタッチを切り離して考えるのではなく、いかにして音とタッチをコーディネートするか・・・ピアノのポテンシャルを見極めながら、様々な環境を考慮し、程好いバランスを創り上げることに注力します。

 


整調とは?

1010年12月13日 | HP用

 

 ピアノ業界では、タッチの調整のことを整調と言います。
では、整調とはどういった作業を行なうのか、簡単に説明致します。

まず、タッチの調整とは・・・?
演奏する際に指先に伝わる感触や感覚を、整える作業のことです。
ピアノで音を鳴らす時、鍵盤は10mm前後沈みます。(一般的には9.75~10.5mm)
この一瞬の動きの中で、内部では様々な部品が複雑に連動し、ハンマーが弦を叩くのです。

アクションの部品は、それぞれに適した位置があります。
しかし、それらは自然とずれてきます。
演奏による磨耗や消耗、劣化、または、温度・湿度の変化に伴う狂い・・・
常に正常な位置を保つことは、厳密には不可能です。

また、アクションの部品は全て回転運動を行ないますが、その回転軸の摩擦も変化します。
円滑に回転しない状態になっていると、個々の位置関係に問題がなくても、タッチ感は損なわれます。

他にも、スプリングの状態や鍵盤のコンディションも、タッチに影響を与えます。
部品同士が接触する箇所の材質の変化(劣化・消耗など)も、見極めないといけません。

整調とは、それら全てを踏まえた上で、鍵盤からハンマーまでの力や運動の伝達、その他一切の物理条件を、全鍵に渡り正しい状態に整えることです。

しかし、ピアノのアクションは主に天然素材(木、フェルト、皮革等)で構成されているため、同じ物理条件で揃えても、数値化しようのない感触の違いが生じます。
この微妙な差異を揃えるには、熟練した指先の感覚にのみ、委ねるしかありません。

タッチのばらつきは、音色のばらつきにも繋がります。
正しい整調が出来ていないピアノでは、表現力は発揮出来ません。
それ以前に、修理を要する状態のパーツが一つでもあると、整調も出来ません。

さて、定期的に調律を行なっている方はたくさんいらっしゃるでしょうが、調律後、ピアノは弾き易くなってますでしょうか?

当社では、アクションのコンディションを見極めずに、調律を行なうことはありません。
タッチが揃わない限り、音は決して揃わないと考えているからです。

タッチは、日々少しずつ狂います。
残念ながら、家庭にあるピアノの中には、整調が全くされてないものも少なくありません。
長年に渡る少しずつの狂いが積み重なり、演奏や表現に大きな障害となっているのです。
しかしながら、毎日少しずつ変化していくため、ユーザーはそのことに気付いていないことも多いのです。

従って、初めて当社にメンテナンスを依頼頂く場合は、説明の上、整調を一式行う場合がございます。
その際は、基本料金以外に、別途作業料金(当社規定を説明致します)を頂戴しております。

音とタッチは、決して切り離して考えてはいけないのです。
良い音は、良いタッチから・・・・整調は、とても大切です。