Rondo Capriccioso ~調律徒然日記~

Piano Labo.(代表)竹宮秀泰によるブログ。
「ピアノ」を主題に気まぐれなロンド形式で綴ります。

YAMAHA C3A ダンパーガイドレールブッシングクロスの交換

2015年10月26日 | 作業レポ

グランドピアノのダンパー機構で、トラブルの発生頻度が高いパーツの一つが、ガイドレールのブッシングクロスです。

これは、ダンパーが上下運動を行う位置を決定し、同時にブレを防ぐ役割を担っています。

オーバーホール、ダンパー交換、弦交換などの修理の際には、必ずとも言える確率で交換する部品ですが、この部品のみを単発で修理することは稀だと思います。

と言うのも、グランドピアノでのダンパーの取り付けは、慣れていない技術者にとっては、なかなか時間の掛かる厄介な作業だからです。
いや、数本のみなら、大抵の技術者は対応出来ます。
しかし、全部取り外すとなると、残念ながら躊躇する技術者もたくさんいます。

このブッシングクロスが湿気等で膨らむと、ダンパーがスムーズに動かなくなり、止音不良という音が止まらなくなる症状が出ます。
この場合、ブッシングクロスを圧縮調整すれば容易に治ります。
しかし、その為には、必ず該当するダンパーを取り外す必要があります。
数本だけなら問題ありませんが、止音不良がたくさん発症している場合、症状が出ていないキーも確認する必要がある為、全てのダンパーを取り外す必要があります。
そうなると、なかなか手を出せない技術者も少なくありません。



今回のピアノも、ほぼ全鍵に渡り、ブッシングクロスがスティック(動きが鈍る症状のこと)しておりました。
なので、通常だと、一度ダンパーを全て外し、ブッシングクロスを調整し、ダンパーを取り付ければ済むことです。
しかし、このピアノに限っては、そういう訳にはいかない事情があったのです。

実は、ブッシングクロスが、ガシガシと音を立てるぐらいに硬化していたのです。

話を伺いますと、元々止音不良はよく発症していたようです。
その度に、調律師さんは、細いノズル付きのスプレーで油を差していたそうです。
つまり、ダンパーを取り外してのブッシング調整は行わなかったのです。

機械油は、その時、その場では効きます。
しかし、ブッシングクロスが膨らんでいるという問題の根本は解決しておらず、ただ単に「滑ってる」だけなのです。
それだけならまだしも、機械油はクロスや木材には適しておらず、時間と共に溶剤のみが吸収され、または揮発し、残留物が表面で硬化します。
そうなると、元以上のスティックになります。
そこでまた、油を差して誤魔化し……という悪循環を繰り返すうちに、ブッシングクロスは膨らんだまま硬化してしまい、雑音を伴う調整不能の状態へと悪化します。

つまり、やるべき調整を行わず、その場しのぎの誤った処置を繰り返した結果、ブッシングクロスは使い物にならなくなっていたのです。

というわけで、今回は、現地でダンパーガイドレールのブッシングクロスのみを交換するという、少しレアな修理となりましまた。



先ずは、ダンパーを全て取り外し、続いてガイドレールも外します。








レールの埃と汚れを綺麗に掃除し、ガイドレールのホールに嵌め込まれたブッシングクロスを除去します。




写真を撮り忘れましたが、木材にも油が浸透している可能性があるので、穴の中をベンジンで綺麗に拭き取りました。

そして、新しいブッシングクロスを取り付けます。
今回は、ヤマハの純正パーツを使用しました。
取り付けの際、雑音防止の為、接着はしません。




ブッシングクロスを専用の工具で圧縮調整し、レールをピアノ本体に取り付けます。






ダンパーを取り付けていきます。




折角の機会なので、使用により変形している中音部の三本止めのWフェルトは、先端部分をカットします。
この部分をカットすることにより、ダンパーが解放される時の抵抗が軽減され、ピアニシモが弾きやすくなり、止音時の微かな雑音も取れ、音質も改善されます。




左がカットしていないダンパーです。
この僅かな違いが、タッチにも音にも影響します。




最後に、ダンパーの諸々の調整を行い、完了です。




ちなみに、この修理を行う羽目になったそもそもの問題点は、未熟な技術者の誤った処置ではなく、ブッシングクロスが膨張したことにつきます。
その原因は、高い確率で湿気によるものと考えられます。

なので、何よりも環境改善に努める必要があり、再発防止のためにもお客様の御協力をお願いする他ありません。

その為のアドバイスは調律師の仕事に含まれると考えておりますが、実際の環境作りはお客様にしか出来ないのです。

 

 


3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
グランドピアノのダンパーについて (ミキティ)
2019-01-10 01:44:10
かつて私もピアノのダンパーが動くのを見るのが大好きで、私の母校(小中高全て)の音楽室にはグランドピアノがあり、誰かが弾いている時にダンパーが動くのを見て「この黒鍵みたいのがセクシーダンスしている。」と思っていたこともあります。
Unknown (piano-labo)
2019-04-15 11:14:55
ミキティ様

コメントを頂きありがとうございます。

最近は、FBとインスタでの更新がメインになっている為、折角頂いたコメントを数ヶ月も放置してしまい、無礼な対応になってしまい大変申し訳ありません。

さて、GPのダンパーの動きは不思議な吸引力があるようで、特に小さなお子様には大人気のようです。
「セクシーダンス(笑)」にキレがなくなると、何らかのトラブルを抱えている可能性があります。
Unknown (ミキティ)
2019-06-28 17:57:30
私も初めてダンパーのセクシーダンスを見たのは幼稚園くらいの時で、かつて入園前にヤマハに通っていたいたことがきっかけでヤマハのジュニアオリジナルコンサートをテレビで見ていた時にグランドピアノの中身が映しだされ、他のアングルに画面が切り替わると「最後まで一列になった黒い物体のセクシーダンス見たいのに…。」という思い出もあります。

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