Rondo Capriccioso ~調律徒然日記~

Piano Labo.(代表)竹宮秀泰によるブログ。
「ピアノ」を主題に気まぐれなロンド形式で綴ります。

YAMAHA L101 ジャックスプリング交換

2013年08月06日 | 作業レポ

ジャックスプリングの交換修理は、さほど頻度の高い修理ではありません。
それでも、破損等の不具合により、数本だけ交換することは時々ありますが、全交換となると、オーバーホール以外では滅多に発生しない修理です。

今回は、幾つかの要因が重なり、全交換を行うことになりましたので、レポートにまとめました。



まず、このL101という機種ですが、約30年程前に製造された小型のアップライトピアノで、インテリアの要素が強いながらも、全高105cmにしてはバランスよく響く、今でも根強い人気を誇るピアノです。





小型ピアノ特有の欠点もあります。
中でも、一番影響の大きな構造上の欠点は、鍵盤が短いことです。

もちろん、短いと言っても、演奏者が弾く部分の長さには違いはありません。
短いのはその奥の部分、つまり、見えない部分が短いのですが、鍵盤が短くなるほど鍵盤の回転運動も小さな円を描くことになり、その分、タッチ感も不利になるのです。
従って、このL101も含めた小型のアップライトピアノは、本格的にピアノに取り組む方には、個人的には強くお勧めしないように心掛けています。

さて、今回のユーザー様は、実は専門はピアノではなく、声楽なのです。
ピアノは、声楽のレッスンの為の補助的な役割り(音取りや伴奏など)として、使用されていました。

初めてご依頼頂いた時、ピアノのコンディションはかなり酷いものでした。
キチンと調律はされておりましたが、メンテナンスは出来ていませんでした。

調律以外のメンテナンスを蔑ろにすることはもちろんのこと、それよりも、設置環境に問題があったのですが、その対策について、何の助言もしなかったことが一番の問題でしょう。
我々調律師の役割りの一つとして、使用や環境についてのアドバイザーも含まれる筈ですから、ピアノを痛める環境について、何も助言しなかった調律師の責任は大きいでしょう。



さて、何がいけなかったのか?
前述した通り、ユーザーは声楽家です。
声楽家にとって、一番大切な道具は、ピアノではなく「喉」なのです。

常に喉に気を遣う生活の為、乾燥を極端に嫌い、常に加湿器を入れるお部屋だったのです。
慢性的な高湿から、弦は錆び、アクションはスティックし、ハンマーもふやけ気味で、タッチも重く、鳴らない楽器になっていました。

何から修理するか?と考えるよりも、先ずは環境の改善をしないことには、意味がありません。
確かに、乾燥は喉によろしくないでしょうが、多湿になるまで加湿するのはピアノによろしくありません。
湿度計を設置し、頃合いを探って頂かないことには、修理しても無意味なのです。



さてさて、そんなこんなで、そのユーザーとは長いお付き合いとなり、お部屋の環境の改善に努めて頂き、その間にアクションのスティックの修理を始め、ファイリング、バットコード交換、バットスプリング交換などを順々に行い、このL101は、なかなか良いコンディションを取り戻して安定しておりました。

ところが、先日「急に音が出なくなった!」と連絡があり、駆け付けてみると、ジャックスプリングが折れておりました。
その時は、その折れた一本だけ修理したのですが、実は他のキーのジャックスプリングを見て、これはヤバイな、と思ったのです。

その数ヶ月後、またまた音が出なくなったとのこと。
前回同様、ジャックスプリングが折れておりました。
多湿にしていた時代、様々な部品を傷めてしまったのですが、実はこのジャックスプリングも錆びてしまっていたのです。





おそらく、この先も次々とジャックスプリングが折れてしまう可能性が高い為、全部交換することになったのです。



まずは、アクションを持ち帰り、ウィペンアッセンブリを全て外します。







錆びたジャックスプリングは、ラジオペンチなどでそっとはがし取ります。








残った接着剤は、ドリルで取り除きます。






あとは、接着剤でスプリングを取り付けていきます。
厳密には、「接着」するのではなく、接着剤を利用した「固定」です。








接着剤が乾いたら、アクションに取り付けます。
念の為、数年前に修理したウィペンとジャックのセンターピンもチェックしつつ、間隔調整とジャック合わせを行いながら取り付けて完了です。








ちなみに、アップライトピアノのアクションには、通常3種類のスプリングが使われております。
そのうちの2つ、バットスプリング、ジャックスプリングは、これで交換済みとなりましたが、残るダンパーレバースプリングも破損しないか……
実はその可能性も否めず、またそうなるとかなり面倒な修理となりますので、ちょっとドキドキしています。
まぁ、見た目には、さほど錆びてはいないかったので、大丈夫でしょうが。

 


2 コメント

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懐かしい世界 (山本新)
2013-08-11 21:05:42
お久しぶりです<(_ _)>お元気そうで何よりです(笑)

懐かしい世界だなと、記事を読ませていただいていました。今は、ピアノとは程遠い仕事をしていますが、はじめて仕事が楽しいと感じ、仲間も良く、天職と思える仕事をしています(笑)

認証後の反映と言うことでコメントさせていただきました。認証せず削除してもらって構いません。元気にやってるんだな、と嬉しく思ったのでコメントしてしまいました(笑)失礼しました(笑)
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あらら、 (竹宮)
2013-08-12 10:10:40
新さん、お久しぶりです。
当ブログへお立ち寄り頂き、またコメントまで残してくださりありがとうございます。

お仕事に恵まれているようで、大変喜ばしい限りですね。
では、またお暇な時にでも、当ブログをご覧頂ければ幸いです。

追記:同級生の何人かとは、FBで交流していますよ!
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