久しぶりに、ずしりと重い舞台を見ました。(ただしWOWOWです)
アングラ劇だと、感覚で掴めばいいので、とくに台詞を集中して聞いていることはないんですが
(台詞のリズムや美しさを味わうのでね)
この作品はもともと井上靖の短編小説「猟銃」が原作とだけあって、しっかり台詞を聞いていないと
状況がつかめないなので、かなりの集中力が要りました。
3人の女のつづった手紙によって構成される芝居で、
「女」という生き物があぶりだされるような作品でした。
キャストは2人、男と女ですが、男には台詞はなく、女が手紙を語っていくので
実質一人舞台といってもいい感じです。
主演の中谷美紀さんが3役をこなします。
三杉穣介という男からみた関係からいうと
愛人の娘である薔子
妻のみどり
愛人の彩子
(登場順)
の三人。
そしてみどりと彩子は従姉妹にあたります。
つまり、従姉妹の夫と不倫しているのが彩子ということですね。
その他に
門田礼一郎:医師。彩子の離婚した夫で、薔子の父。
女:門田が過去に関係していた女
明石のおじ、おばも出てきたと思います。
薔子の手紙、みどりの手紙、彩子の手紙と話は進みます。
・薔子は無知で無垢な女
・みどりは決して愛されないことを知りながらも、鉄の仮面をかぶり続けた悲しい女
・彩子は愛されながら、愛することを貫いた強い女
だと、感じました。
薔子は、まだ若く、愛は美しいものと思っていましたが、母親と三杉の関係を知り
愛は、優しい母を極悪の罪人に変えるものだということを知ります。
母と三杉の愛は、みどりに絶対に知られてはいけないと、みどりを恐れ、また
三杉とも会うこと拒み、母亡き後、一人で生きていく決心をします。
みどりは、女の勘で、夫の不倫に気付き、また2人が一緒にいるところを見てしまいます。
しかし、一目彩子を見て、女として何一つかなわない敗北感に打ちひしがれます。
そして不倫には気がつかないふりをして、13年間三杉と形だけの夫婦を演じます。
「家庭というよりは、城塞」この言葉が示す通り、冷え切った夫婦となります。
そして、みどりは彩子と対峙し、三杉に本当は不倫に気づいていたことをぶちまけて
別れを宣言します。その姿は、いっそ殺してくれればという悲しみと怒りに満ちていました。
彩子は、13年前に三杉との不倫を決意します。三杉が「悪人になろう」というと、
「いっそ極悪人になりましょう。みどりさんだけでなく、世間も、全てをだまして」と答えます。
しかし、その胸中には「蛇」が潜んでいました。
その蛇とは、分かれた夫、門田を想い続ける心でした。それが彩子の宿命だったのでしょう。
「全てをだます」この中に、三杉も、そして、門田を愛する自分自身も含んでいたのです。
「愛されることを望むか」「愛することを望むか」女学校時代、授業の最中に回ってきた紙。
「愛されることを望む」に連なる○印。彩子もその一人でした。しかし、たった一人だけ
「愛することを望む」に○をした学生がありました。
そして彩子は、門田を愛した。そして、三杉に愛されながら、それを貫いた。
強い女の姿でした。
男は悪人にしかなれないけれど、女は極悪人にもなれる
そんな違いも感じました。
そして、猟銃とは、愛のために心に潜んだ殺意でしょうか。
愛は、女を極悪の罪人に変え、かくも、強く、狂おしく、そして美しくするものかということを
感じさせてくれる作品でした。
男である井上靖が、よくぞこれほどまでに女を描けたものだと驚くばかりです。
しかし、この作品、理解もできるし、それぞれの女性の気持ちを感じることもできます。
けれど、この芝居に女の真実をみるには、私はまだ若すぎます。
女として生を全うしなければ、真に全てを受け取ることはできないと感じました。
あと、40年か50年かして、晩年を迎えたときに、原作を読んでみたいと思います。
本当に女を生きたかどうかを試される気がしますね。
3役を演じた、中谷さん。
これが初舞台だったそうです。
発声と台詞まわしは、まだ舞台のものに慣れきっていない感じは受けました。
感情が高ぶったときに、声がかすれたり、台詞のリズムがほんの少しつまるような印象を受けましたが
それは、撮影した日がたまたまそうだったかもしれませんし、
中谷さんほどの女優さんなら、訓練でいくらでも上にいけます。
ほとんど朗読劇のような舞台でしたから、それで余計につまりを感じたかもしれません。
しかし、中谷美紀という女優の存在が、それを補ってまだ余裕がありました。
薔子、みどり、彩子、それぞれの女性の感情を、きちんと追体験して、舞台の上で輝きを放っていました。
特に彩子は秀逸で、自ら死装束を纏ながらの演技でしたが、その白い着物に包まれた姿が際立っていました。
着物をこれほど美しく纏える女優は、そうそういないと思いました。
ただ、その凛とした美しさに見惚れていました。
フランソワ・ジラールも、海外の演出家の演出に違和感を感じなかったのは初めてです。
私は、海外の演出家と相性が悪いようで、微妙・・・ということが多いんです。
心の奥底をえぐり出してくれなくて、ただ表面だけをみせるような演出が気に食わないんです。
でも、今回は、しっかりと内面を映し出してくれました。
3人の女性の立つ場所が、薔子は蓮の咲く水、みどりは石、彩子は木となっていて、それぞれの女性を
見事に描きだしていました。
薔子の純心、みどりの激情、彩子の真情を舞台からも感じました。
白い死装束の使いかたも、感心しきりでした。
ただ、一つ気になったのは、台詞のない男の役、おそらく三杉なのですが、
なんで日本人ではないのだろうということ。
外国人の役者にやらせることで、三杉を普遍的な男に仕立てたかったのかなとも思いますが
外国の方は、目を引くので、気になってしかたなかったです。
ちょっと気になる点は、ありますが、どっしりと重い、良質な作品を見せてもらいました。
感想もまとめるの大変でした。。。
それと、関西の馴染みのある地名もたくさん出てきましたよ。
芦屋など。
ここから、完全に余談ですが
藤原くんが、将来一人舞台に立つなら、こういう重厚な作品がいいなと。
そんなことも思いつつ。
アングラ劇だと、感覚で掴めばいいので、とくに台詞を集中して聞いていることはないんですが
(台詞のリズムや美しさを味わうのでね)
この作品はもともと井上靖の短編小説「猟銃」が原作とだけあって、しっかり台詞を聞いていないと
状況がつかめないなので、かなりの集中力が要りました。
3人の女のつづった手紙によって構成される芝居で、
「女」という生き物があぶりだされるような作品でした。
キャストは2人、男と女ですが、男には台詞はなく、女が手紙を語っていくので
実質一人舞台といってもいい感じです。
主演の中谷美紀さんが3役をこなします。
三杉穣介という男からみた関係からいうと
愛人の娘である薔子
妻のみどり
愛人の彩子
(登場順)
の三人。
そしてみどりと彩子は従姉妹にあたります。
つまり、従姉妹の夫と不倫しているのが彩子ということですね。
その他に
門田礼一郎:医師。彩子の離婚した夫で、薔子の父。
女:門田が過去に関係していた女
明石のおじ、おばも出てきたと思います。
薔子の手紙、みどりの手紙、彩子の手紙と話は進みます。
・薔子は無知で無垢な女
・みどりは決して愛されないことを知りながらも、鉄の仮面をかぶり続けた悲しい女
・彩子は愛されながら、愛することを貫いた強い女
だと、感じました。
薔子は、まだ若く、愛は美しいものと思っていましたが、母親と三杉の関係を知り
愛は、優しい母を極悪の罪人に変えるものだということを知ります。
母と三杉の愛は、みどりに絶対に知られてはいけないと、みどりを恐れ、また
三杉とも会うこと拒み、母亡き後、一人で生きていく決心をします。
みどりは、女の勘で、夫の不倫に気付き、また2人が一緒にいるところを見てしまいます。
しかし、一目彩子を見て、女として何一つかなわない敗北感に打ちひしがれます。
そして不倫には気がつかないふりをして、13年間三杉と形だけの夫婦を演じます。
「家庭というよりは、城塞」この言葉が示す通り、冷え切った夫婦となります。
そして、みどりは彩子と対峙し、三杉に本当は不倫に気づいていたことをぶちまけて
別れを宣言します。その姿は、いっそ殺してくれればという悲しみと怒りに満ちていました。
彩子は、13年前に三杉との不倫を決意します。三杉が「悪人になろう」というと、
「いっそ極悪人になりましょう。みどりさんだけでなく、世間も、全てをだまして」と答えます。
しかし、その胸中には「蛇」が潜んでいました。
その蛇とは、分かれた夫、門田を想い続ける心でした。それが彩子の宿命だったのでしょう。
「全てをだます」この中に、三杉も、そして、門田を愛する自分自身も含んでいたのです。
「愛されることを望むか」「愛することを望むか」女学校時代、授業の最中に回ってきた紙。
「愛されることを望む」に連なる○印。彩子もその一人でした。しかし、たった一人だけ
「愛することを望む」に○をした学生がありました。
そして彩子は、門田を愛した。そして、三杉に愛されながら、それを貫いた。
強い女の姿でした。
男は悪人にしかなれないけれど、女は極悪人にもなれる
そんな違いも感じました。
そして、猟銃とは、愛のために心に潜んだ殺意でしょうか。
愛は、女を極悪の罪人に変え、かくも、強く、狂おしく、そして美しくするものかということを
感じさせてくれる作品でした。
男である井上靖が、よくぞこれほどまでに女を描けたものだと驚くばかりです。
しかし、この作品、理解もできるし、それぞれの女性の気持ちを感じることもできます。
けれど、この芝居に女の真実をみるには、私はまだ若すぎます。
女として生を全うしなければ、真に全てを受け取ることはできないと感じました。
あと、40年か50年かして、晩年を迎えたときに、原作を読んでみたいと思います。
本当に女を生きたかどうかを試される気がしますね。
3役を演じた、中谷さん。
これが初舞台だったそうです。
発声と台詞まわしは、まだ舞台のものに慣れきっていない感じは受けました。
感情が高ぶったときに、声がかすれたり、台詞のリズムがほんの少しつまるような印象を受けましたが
それは、撮影した日がたまたまそうだったかもしれませんし、
中谷さんほどの女優さんなら、訓練でいくらでも上にいけます。
ほとんど朗読劇のような舞台でしたから、それで余計につまりを感じたかもしれません。
しかし、中谷美紀という女優の存在が、それを補ってまだ余裕がありました。
薔子、みどり、彩子、それぞれの女性の感情を、きちんと追体験して、舞台の上で輝きを放っていました。
特に彩子は秀逸で、自ら死装束を纏ながらの演技でしたが、その白い着物に包まれた姿が際立っていました。
着物をこれほど美しく纏える女優は、そうそういないと思いました。
ただ、その凛とした美しさに見惚れていました。
フランソワ・ジラールも、海外の演出家の演出に違和感を感じなかったのは初めてです。
私は、海外の演出家と相性が悪いようで、微妙・・・ということが多いんです。
心の奥底をえぐり出してくれなくて、ただ表面だけをみせるような演出が気に食わないんです。
でも、今回は、しっかりと内面を映し出してくれました。
3人の女性の立つ場所が、薔子は蓮の咲く水、みどりは石、彩子は木となっていて、それぞれの女性を
見事に描きだしていました。
薔子の純心、みどりの激情、彩子の真情を舞台からも感じました。
白い死装束の使いかたも、感心しきりでした。
ただ、一つ気になったのは、台詞のない男の役、おそらく三杉なのですが、
なんで日本人ではないのだろうということ。
外国人の役者にやらせることで、三杉を普遍的な男に仕立てたかったのかなとも思いますが
外国の方は、目を引くので、気になってしかたなかったです。
ちょっと気になる点は、ありますが、どっしりと重い、良質な作品を見せてもらいました。
感想もまとめるの大変でした。。。
それと、関西の馴染みのある地名もたくさん出てきましたよ。
芦屋など。
ここから、完全に余談ですが
藤原くんが、将来一人舞台に立つなら、こういう重厚な作品がいいなと。
そんなことも思いつつ。