心房細動って結構脳外科で診ることが多いので、もう古いネタなのですがエントリーにしてみました。
*********************
医療過誤4900万円賠償命令 倉敷中央病院に心臓治療で後遺症 地裁判決
2007年6月22日 読売新聞
心臓機能が低下する「心房細動」になり、心臓に電気ショックを与える治療で脳に血栓が詰まって脳こうそくになり、機能障害が残ったとして、倉敷市の無職の男性(62)が、治療を行った倉敷中央病院(倉敷市)を相手取り、慰謝料など約6850万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が21日、地裁であった。広永伸行裁判長は「医師に過失があり、病院は使用者責任に基づいて損害を賠償すべきだ」などとして、病院側に約4900万円の支払いを命じた。
判決などによると、男性は2002年2月、同病院で心臓に電気ショックを与えて心房細動を止める「電気的除細動」治療を受け、2日後に頭痛や視覚障害に襲われ、脳こうそくと診断された。男性は字を書いたり、計算したりするのが困難な障害が残った。
広永裁判長は、治療の前後、医師が血栓をできにくくする薬を投与しなかったことに対して、日本循環器学会が定めた治療のガイドライン(指針)を正当な理由なしに守っておらず、過失があると認定。「出血の恐れがあり、別の薬を投与した」などという病院側の主張も退けた。判決について、同病院の内田璞(すなお)院長は「主張が認められず残念。判決文をよく読んで今後の対応を検討する」とのコメントを出した。
*********************
*********************
記事:毎日新聞社【2007年6月22日】
医療過誤:倉敷中央病院、男性に後遺症 4922万円支払え----岡山地裁判決 /岡山
◇不整脈治療の男性、脳などに後遺症 適切な投薬せず
不整脈の電気ショック治療を受けた際、病院側の不手際で脳などに障害が残ったとして、倉敷市の男性(62)が倉敷中央病院を相手取り約6850万円の賠償を求めた訴訟の判決が21日、岡山地裁であった。広永伸行裁判長は「適切な投薬をしなかった」として、病院側に約4922万円の支払いを命じた。
判決などによると、男性は01年2月、不整脈の一種、心房細動と診断された。02年2月に倉敷中央病院で、電気ショックによる治療を受けた後、「目が見えなくなった」などと訴えて別の病院を受診。脳梗塞(こうそく)と診断され、高次脳機能障害が残った。
男性は「循環器学会が定めたガイドラインは、電気ショック後に適切な投薬を薦めていた。投薬していれば、合併症である脳梗塞は防げた」と主張。病院側は「脳梗塞のリスクは低いと判断し、別の薬を選択した。ガイドラインに従って投薬しても、確実に脳梗塞を予防できたとはいえない」と反論していた。広永裁判長は「ガイドラインに記載されている投薬を行えば、脳梗塞にならなかった可能性は高い」として病院側の過失を認めた。
倉敷中央病院は「当院の主張が認めらず遺憾だ。今後、判決を読んで控訴も含めて検討したい」とコメントした。【石戸諭】
*********************
Skyteam先生が先月にエントリーにしております。
どのくらいの心拍数だったのかとかいう状況が全くわからないので、解説が難しいです。
個人的にはガイドラインは最低限の治療指針しか決めていないものが多く、
本当に役にたつの?ということもしばしば。
これを訴訟に利用されるというのはガイドラインの弊害です。
ガイドラインだけで治療可能であれば、高度な判断が要らないわけであり、
その点ではある意味医者の仕事で無くても構わないようなものです。
あつかふぇ先生も同様な意見をお持ちでしょう。
心房細動治療ガイドラインを読むと、
1. 治療の進め方
(1) 心拍数100以上の心房細動の場合:緊急の場合は、ヘペリン投与の後、電気的除細動を行う。レートコントロールのためには、心機能正常であれば、β遮断薬、ジゴキシン、ベラパミル、ジルチアゼム、ベプリジルを用いる。WPW症候群があれば、ベラパミル、ジゴキシンは禁忌である。
(2) 心拍数が99以下の発作性心房細動の場合:心房内血栓がなければ、ヘパリン投与後に除細動する。血栓があれば、ワルファリン投与し、3週間後に除細動する。
(3) 心拍数が99以下の慢性心房細動の場合:心房細動が1年以上持続、左房径が5cm以上、除細動歴が2回以上、患者が希望しない、などの場合は除細動せず、抗凝血療法、抗血小板療法を行う。
毎日新聞記事の「電気ショック後に適切な投薬を薦めていた。投薬していれば」
ということは上記の(1)若しくは(2)の心拍数99以下の発作性心房細動(心房内血栓無し)ということだったのでしょうか?でヘパリンは使ったと。
しかし、読売新聞では「治療の前後、医師が血栓をできにくくする薬を投与しなかった」と書いてあるのでヘパリンすら使わなかった?
いやでも毎日新聞では「電気ショック後に適切な投薬を薦めていた。投薬していれば、合併症である脳梗塞は防げた」とあるのでヘパリンは使ったのでしょうね。
除細動までは問題無かったと予想されます。いやどっちだろう?
ま、除細動まで問題ないと仮定します。
さて、次の脳梗塞予防の段階で訴えられたということでしょう。
又ガイドラインを読んで見ます。
2. 抗凝血療法の進め方
(1) 基礎心疾患をもつ場合:ワルファリンでコントロールする。INR2.5~3.5を指標とする。これで塞栓を発症したときは、アスピリンかチクロピジンを
併用する。
(2) 基礎心疾患をもたない場合:リスクをもつ場合には、抗凝血療法を考慮する。
70才未満ではINR2.0~3.0を目標とする。70才以上では1.6~2.6を目標とする。リスクをもたない場合には、60才未満では抗凝血療法は不要、75歳以下では抗血小板薬、75才以上ではINR1.6~2.6のワルファリン療法とする。
さて記事には「出血の恐れがあり、別の薬を投与した」とあります。
ということは恐らく抗血小板薬を使ったということになります。
(2)の基礎心疾患を持たない場合で、リスク(ちょっと何のリスクかわかりませんが)を持たない場合は抗血小板剤が推奨されるということになります。
基礎疾患を持っているのか持っていないのかを短時間で判断するのは簡単なことでしょうか?出血性の疾患の恐れが、他に無いかどうかの判断もすぐにできるのでしょうか?またガイドラインに定められているようにすぐにINRを目標値に持っていくことは結構難しいことだと思います。拙速は、頭蓋内出血、消化管出血、筋肉の出血(傍脊柱筋だとか大臀筋とか)などもたらします。
ワーファリンによる、出血性の合併症を経験したことがあるかたならばその悲惨さが身に染み付いていると思います。
この裁判は、心房細動の方がいたらガイドラインどおりにバッコリとワーファリンをとにかく早く使いなさいということです。
今度、ガイドラインどおりに投薬して出血性合併症が起きたときでも裁判に負けるようなことがあれば、我々はどうしたら良いのか全くわかりません。
参考までに脳梗塞慢性期の抗凝固ガイドラインです↓
http://www.jsts.gr.jp/guideline/066-067.pdf
http://www.jsts.gr.jp/guideline/082-085.pdf
*********************
医療過誤4900万円賠償命令 倉敷中央病院に心臓治療で後遺症 地裁判決
2007年6月22日 読売新聞
心臓機能が低下する「心房細動」になり、心臓に電気ショックを与える治療で脳に血栓が詰まって脳こうそくになり、機能障害が残ったとして、倉敷市の無職の男性(62)が、治療を行った倉敷中央病院(倉敷市)を相手取り、慰謝料など約6850万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が21日、地裁であった。広永伸行裁判長は「医師に過失があり、病院は使用者責任に基づいて損害を賠償すべきだ」などとして、病院側に約4900万円の支払いを命じた。
判決などによると、男性は2002年2月、同病院で心臓に電気ショックを与えて心房細動を止める「電気的除細動」治療を受け、2日後に頭痛や視覚障害に襲われ、脳こうそくと診断された。男性は字を書いたり、計算したりするのが困難な障害が残った。
広永裁判長は、治療の前後、医師が血栓をできにくくする薬を投与しなかったことに対して、日本循環器学会が定めた治療のガイドライン(指針)を正当な理由なしに守っておらず、過失があると認定。「出血の恐れがあり、別の薬を投与した」などという病院側の主張も退けた。判決について、同病院の内田璞(すなお)院長は「主張が認められず残念。判決文をよく読んで今後の対応を検討する」とのコメントを出した。
*********************
*********************
記事:毎日新聞社【2007年6月22日】
医療過誤:倉敷中央病院、男性に後遺症 4922万円支払え----岡山地裁判決 /岡山
◇不整脈治療の男性、脳などに後遺症 適切な投薬せず
不整脈の電気ショック治療を受けた際、病院側の不手際で脳などに障害が残ったとして、倉敷市の男性(62)が倉敷中央病院を相手取り約6850万円の賠償を求めた訴訟の判決が21日、岡山地裁であった。広永伸行裁判長は「適切な投薬をしなかった」として、病院側に約4922万円の支払いを命じた。
判決などによると、男性は01年2月、不整脈の一種、心房細動と診断された。02年2月に倉敷中央病院で、電気ショックによる治療を受けた後、「目が見えなくなった」などと訴えて別の病院を受診。脳梗塞(こうそく)と診断され、高次脳機能障害が残った。
男性は「循環器学会が定めたガイドラインは、電気ショック後に適切な投薬を薦めていた。投薬していれば、合併症である脳梗塞は防げた」と主張。病院側は「脳梗塞のリスクは低いと判断し、別の薬を選択した。ガイドラインに従って投薬しても、確実に脳梗塞を予防できたとはいえない」と反論していた。広永裁判長は「ガイドラインに記載されている投薬を行えば、脳梗塞にならなかった可能性は高い」として病院側の過失を認めた。
倉敷中央病院は「当院の主張が認めらず遺憾だ。今後、判決を読んで控訴も含めて検討したい」とコメントした。【石戸諭】
*********************
Skyteam先生が先月にエントリーにしております。
どのくらいの心拍数だったのかとかいう状況が全くわからないので、解説が難しいです。
個人的にはガイドラインは最低限の治療指針しか決めていないものが多く、
本当に役にたつの?ということもしばしば。
これを訴訟に利用されるというのはガイドラインの弊害です。
ガイドラインだけで治療可能であれば、高度な判断が要らないわけであり、
その点ではある意味医者の仕事で無くても構わないようなものです。
あつかふぇ先生も同様な意見をお持ちでしょう。
心房細動治療ガイドラインを読むと、
1. 治療の進め方
(1) 心拍数100以上の心房細動の場合:緊急の場合は、ヘペリン投与の後、電気的除細動を行う。レートコントロールのためには、心機能正常であれば、β遮断薬、ジゴキシン、ベラパミル、ジルチアゼム、ベプリジルを用いる。WPW症候群があれば、ベラパミル、ジゴキシンは禁忌である。
(2) 心拍数が99以下の発作性心房細動の場合:心房内血栓がなければ、ヘパリン投与後に除細動する。血栓があれば、ワルファリン投与し、3週間後に除細動する。
(3) 心拍数が99以下の慢性心房細動の場合:心房細動が1年以上持続、左房径が5cm以上、除細動歴が2回以上、患者が希望しない、などの場合は除細動せず、抗凝血療法、抗血小板療法を行う。
毎日新聞記事の「電気ショック後に適切な投薬を薦めていた。投薬していれば」
ということは上記の(1)若しくは(2)の心拍数99以下の発作性心房細動(心房内血栓無し)ということだったのでしょうか?でヘパリンは使ったと。
しかし、読売新聞では「治療の前後、医師が血栓をできにくくする薬を投与しなかった」と書いてあるのでヘパリンすら使わなかった?
いやでも毎日新聞では「電気ショック後に適切な投薬を薦めていた。投薬していれば、合併症である脳梗塞は防げた」とあるのでヘパリンは使ったのでしょうね。
除細動までは問題無かったと予想されます。いやどっちだろう?
ま、除細動まで問題ないと仮定します。
さて、次の脳梗塞予防の段階で訴えられたということでしょう。
又ガイドラインを読んで見ます。
2. 抗凝血療法の進め方
(1) 基礎心疾患をもつ場合:ワルファリンでコントロールする。INR2.5~3.5を指標とする。これで塞栓を発症したときは、アスピリンかチクロピジンを
併用する。
(2) 基礎心疾患をもたない場合:リスクをもつ場合には、抗凝血療法を考慮する。
70才未満ではINR2.0~3.0を目標とする。70才以上では1.6~2.6を目標とする。リスクをもたない場合には、60才未満では抗凝血療法は不要、75歳以下では抗血小板薬、75才以上ではINR1.6~2.6のワルファリン療法とする。
さて記事には「出血の恐れがあり、別の薬を投与した」とあります。
ということは恐らく抗血小板薬を使ったということになります。
(2)の基礎心疾患を持たない場合で、リスク(ちょっと何のリスクかわかりませんが)を持たない場合は抗血小板剤が推奨されるということになります。
基礎疾患を持っているのか持っていないのかを短時間で判断するのは簡単なことでしょうか?出血性の疾患の恐れが、他に無いかどうかの判断もすぐにできるのでしょうか?またガイドラインに定められているようにすぐにINRを目標値に持っていくことは結構難しいことだと思います。拙速は、頭蓋内出血、消化管出血、筋肉の出血(傍脊柱筋だとか大臀筋とか)などもたらします。
ワーファリンによる、出血性の合併症を経験したことがあるかたならばその悲惨さが身に染み付いていると思います。
この裁判は、心房細動の方がいたらガイドラインどおりにバッコリとワーファリンをとにかく早く使いなさいということです。
今度、ガイドラインどおりに投薬して出血性合併症が起きたときでも裁判に負けるようなことがあれば、我々はどうしたら良いのか全くわかりません。
参考までに脳梗塞慢性期の抗凝固ガイドラインです↓
http://www.jsts.gr.jp/guideline/066-067.pdf
http://www.jsts.gr.jp/guideline/082-085.pdf
2日間でPTINRを1.5以上に上げるのは無理ですがな。
ガイドライン通りにワーファリン使ってたってこの脳梗塞は起きたでしょうね。
僻地外科医さんのいうとおり,ワーファリンを使ったとしても2日後の塞栓は予防できなかったと思います.
起こったことはしょうがない。その後の処置についての記載はどうなのでしょう。アメリカではそこが問われますが。そこですぐに処置をしても脳梗塞で症状が出ても訴えられても負けませんが、発見、処置が遅かったらアメリカでも負けると思います。
アメリカでは結果論でなく,医師のそのときそのときの処置が大切なのですね(やるべきことをやる),ただ2002年2月の時点では,rt-PAの静脈投与は未承認,t-PA動注(私もmicroカテで結構やっていましたが)も一般的ではなく(保険適応外),せいぜいU.K動注(これも適応外使用)ですが,,,,循環器の先生が脳卒中の先生にconsaltするだけで訴えられないということでしょうか?それとも起こってからエタラボン等の脳塞栓治療をすればいいということでしょうか?今でこそrt-PA投与ですが2004年の脳卒中ガイドラインでも脳塞栓の急性期治療のエビデンスのある治療は???2002年の時点では日本ではgolden standardの治療は一般に周知されていておりませんでした.そういう状況で個人にすべてriskを負わせるシステムの問題もあろうかと思います.