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マイマイのひとりごと

自作小説と、日記的なモノ。

【自作小説】汚れた教室 ~教室長マヤの日常~  第一話『社長室での淫事』

2012-10-16 23:19:12 | 自作小説
はいどうも。

結局書きかけていたほうのお話はストップ、全然違うものを書き始めてしまったという……

まあ、いいか。あれもそのうち書くわ。

さて、今回のお話は

『塾の教室長を務める25歳のマヤは、あるときから社長に体を弄ばれるようになる。
それを見て蔑む他の社員たち。家庭の事情もあるマヤは簡単に仕事を辞めるわけにはいかなかった。

教室での仕事は多忙を極め、保護者からの要求も厳しい。
そんな日々のなかで、マヤが見つけた唯一の楽しみとは……

暇と金を持て余した有閑マダムたちと、腹黒い社長を出し抜いて、マヤは幸せを手にすることができるのか。それとも……』

みたいな感じです

何が面白いねん、と思われそうな内容ですが、自分的には書いていて楽しいっす。

ご興味持っていただけた方は以下、どうぞ。

↓↓↓




 月曜日の午前中、いつものように会議室には重苦しい空気が充満している。カサカサと紙の擦れる音だけが妙に耳に障る。誰ひとり口を開く者はいない。15名の社員が楕円形の会議テーブルを囲むようにして座る中、社長だけがひとり苦虫を噛み潰したような顔で立ち上がった。両手でバン、と強くテーブルを叩く。

「手元の資料を見てもらえばわかるとおり、今年度の業績は軒並み前年割れを続けている。言い訳はいろいろとあるだろうが、すべてはお前たちの努力が足りないからだ。そうだな? 違うか?」

 社員たちはうつむいたまま、申し訳なさそうな顔をして静かにうなずく。数少ない女性社員のひとり、水上マヤも皆と同じように視線を下げた。そのまま社長は先週の各教室ごとの売り上げを口頭で発表する。前年度の同時期の売り上げを超えられなかった教室の長は指名を受け、立たされ、罵倒され、心にもない愛社精神を誓わされ、来週の売り上げ目標を死ぬ気で達成するように厳命される。

 毎週月曜日のこの時間に決まったように行われる、会議と言う名の公開いじめ。馬鹿馬鹿しいと思いながらも、誰も社長に逆らう者はいない。逆らえば翌日から「もう来なくていい」と言われるのがオチだからだ。社長はワンマンで人間としての器は小さく、決して尊敬されるタイプではない。ただ、給料だけはケチらずに同じ塾業界の中でも高給と思われる程度の金額を毎月社員たちに与えてくれる。だから、社員たちは社長にわざわざ逆らおうとはしなかった。

 会議の最後に、壁にかけられた社訓を大声で読まされ、「会社のために命がけで頑張ります」と何度も繰り返して全員で社長に頭を下げる。初めの頃はいったい何の宗教か、と恐ろしく思ったマヤだったが、最近ではすっかり慣れてしまった。

 そうこうしているうちに、各教室から会議室に転送されている電話が鳴り始める。多くは保護者達からの教育相談、もしくはクレーム、そして新規入塾の申し込み。3台設置されている電話がひっきりなしに鳴り、社員たちがその対応に追われる。どの顔にも余裕が無く、疲労の色が濃い。早朝から深夜まで休む間もなくこき使われているのだから、それも無理はない。

マヤが勤めているこの会社は、塾経営をメインにした中小企業である。社員は各自ひとつずつの教室を抱え、アルバイトの講師を手配し、生徒を集め、保護者の相手をし、手練手管で様々な授業を受けさせ、できるだけ多くの金を絞り取る。建前はもちろん「生徒の成績を上げ、志望校に合格させることが一番」と言うが、実際は「生徒なんかどうなろうが知ったことじゃないが、とにかく保護者の金をむしり取れるだけむしり取れ」というのが本音のところだろう。良心がある人間は心を病む。何も考えずに売り上げを伸ばすことだけに邁進できる人間か、もしくは他に行くところのない人間だけが残っていく。どちらかといえばマヤは後者だった。

もともとマヤは学生時代にこの会社でアルバイト講師をしていたのが縁で入社した。子供たちの勉強をみるのは好きだったし、無謀な就職活動をするよりも、ここの社長に誘われるままに社員になっておいた方が安全だと思った。あれから2年半、もっと別の道があったのではないか、と思わない日は無い。


「水上くん、ちょっと社長室へ」

「はい……」

 社長がマヤに声をかけた瞬間、社員たちの間に下卑た笑いがさざ波のように広がっていく。あるいはマヤの思いこみかもしれない。でも、その場にいた全員がわかっていた。このあとに社長室で何が行われるのかということを。

 会議室のすぐ隣にある社長室は、応接用のソファーと社長が使う大きな机、それにビジネス関係の書籍が並んだ本棚が置かれている。造花の活けてある花瓶や絵画などの調度品は、ちょっと見ただけではわからないが実際はどれも安物だった。そのくせ会社の金で外車を何台も買って乗りまわしたり、取引先の社長たちを接待と称して高級料亭に招待したりする。絵に描いたような成り金趣味の社長のことが、マヤはこの2年半で反吐がでるほど嫌いになった。

「さあ、こっちへおいで」

 社長がどっかりとソファーに座り、煙草の煙を吐き出す。マヤはその正面に立ち、ドアがきちんと閉まっていることを確認してからジャケットを脱いだ。その下に着ている薄いシャツの胸元には、張りのある乳房の頂点に桃色の乳首が透けている。社長の太い腕がマヤを抱きよせ、シャツの上から愛おしそうに胸を揉む。目尻を下げ、さっきまでとは別人のような猫撫で声で囁いてくる。

「ああ、柔らかくていいねえ……マヤちゃんのおっぱい……ブラもつけずにいるなんて、会議の間もずっと触って欲しかったんだろう?」

「そんな……下着は社長がつけてはいけないと……」

「ふん、そんなこと言ったか……マヤちゃんはいやらしいからな、ちょっと触っただけでもう乳首がびんびんになってるよ……」

「んっ……」

 ごつごつとした醜い指がシャツのボタンを外していく。豊満な乳房が弾けるように露わになる。社長のぶ厚い唇がその白く柔らかな丘に押し付けられ、尖った乳首のまわりを刺激し始める。マヤは体を固くしたまま、ただじっと時が過ぎるのを待った。

 舌先で嬲るようにべちゃべちゃと音をたてて乳首を舐め続ける社長の顔は、だらしなく緩んで威厳の欠片もない。社長室の壁のむこうでは、他の社員たちが野次馬根性を丸出しにして聞き耳を立てているのに違いない。それでも胸をしゃぶられながらスカートの中を弄られると、マヤは声を堪え切れなくなる。

「ああっ……し、社長……もう、やめて……ください……」

「おお、可愛い声になってきたじゃないか。ほらほら、もっと良い声で鳴けよ……」

 太ももの付け根とパンティの隙間に指先が忍び込む。割れ目をなぞられ、クリトリスのふくらみを抓まれる。くちゅ、くちゅ、といやらしい音が聞こえる。指を膣内に押し込まれるのと同時に乳首を思い切り吸われ、マヤはせつない叫び声をあげた。

「いやああっ……! だめ、もう、だめ……」

「ん? もっと欲しいのか? 淫乱というのはお前みたいな女のことを言うんだな」

 指が2本同時に挿入され、反対の手で尻の穴をほじられる。体の奥がじんじんと痺れてくる。気持ち良くなんてなりたくないのに、全身が快感を貪欲に求め始める。指で突き上げられるたびに愛液がだらだらと流れ落ちる。太ももを伝って足首まで流れ落ちるそれを見て、社長が興奮した様子で囁く。荒い呼吸と熱い吐息が耳にかかる。

「なあ、もう欲しくなってきたんだろう? ちゃんとお願いするんだ。そうしたらすぐに気持ち良くしてやる。できるだろう? あいつのときみたいに」

 平手で尻を叩かれると、痛みと共に妙な疼きがじわじわと広がる。心はどうであっても、回数を重ねるうちに体だけはきちんと反応するようになってしまった。

『あいつのときみたいに……』毎回同じことを責められ続ける。入社したばかりの頃の、たった一度の社内恋愛。イベント準備で真夜中までこの本社ビルに彼とふたりで残っていた。帰り際に、どちらからともなく軽く抱き合ってキスをした。それをたまたま戻ってきた社長に見られた。彼は即刻解雇され、マヤは「そんなに男が欲しいなら俺が面倒を見てやろう」という滅茶苦茶な理屈で、本社ビルに来るたびに社長の慰み者にされるようになった。

 社長は入社した当初からマヤのことを狙っていた、という噂を後から聞いた。どうにかして自分のものにするチャンスをうかがっていたのだ、とも。何が真実なのかは、マヤにはわからない。わかったところでこの現実が変わるわけでもない。

 逃げ出したい。逃げ出せない。父親は早くに亡くなり、母親はマヤが就職したのとほぼ同時期に特殊な治療を必要とする病気で入院し、毎月馬鹿高い医療費が必要だった。他に頼れる親戚も兄弟もいない。母親を見捨てることもできない。今のこの会社の給料だからこそ、なんとかやっていくことができている。転職すれば収入が半減するのは目に見えていた。

 社長はそんなマヤの事情を知っている。絶対に逆らわないことを知っている。

 マヤはスカートも下着も全て脱ぎ捨て、全裸になって床に這いつくばった。毛足の長いじゅうたんにハイヒールが転がる。四つん這いになって頭を低くして尻を突き出し、軽く両足を開く。

「お願いします……」

 声が震え、涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。社長が立ち上がり、ズボンを下ろして剥き出しになった下半身をマヤの尻に押し付ける。大きく勃起したペニスの尖端が膣の入口に突き立てられる。

「あぁっ……!」

「いつもながら締まりがいいな……ほら、これがいいんだろ?」

 社長がマヤの腰を抱えあげるようにして、一番奥まで一息に貫いた。ずん、と衝撃が走る。そのまま膣内をぐりぐりと掻きまわされる。頭がくらくらして、何も考えられなくなる。ただ、体の芯がペニスの動きに連動するように熱を発し続ける。もっと刺激を与えて欲しくて、両足がぶるぶると痙攣する。

「もっとヤッてくださいって言ってみろ。な? もっと犯してくださいって言えよ」

「も、もっと……ヤッて……お、犯してください……」

「だめだ、そんな小さい声じゃだめだ。おら、外にいる奴らにも聞こえるように言えよ! マヤのおまんこぐちゃぐちゃに犯してくださいってな!」

 薄い壁の向こうにいる社員たちの薄笑いが目に浮かぶ。ストレスまみれの職場の中で、この社長室でのことはみんなの良い話のネタになっているだろう。

「嫌……言えません……許して……」

「なんだと? 俺に逆らうのか?」

 背後から乳房を鷲づかみにされ、乳首に強く爪を立てられた。傷ついたその部分から赤い筋が流れる。

「ご、ごめんなさい……言います、言いますから……」

「わかればいいんだ。なあ、こうして欲しいんだろうが」

 社長がペニスを引き抜き、また奥まで突き入れる。ばちんばちんと尻の肉が社長の下半身に打ち付けられる音が響く。社長のそれはマヤの少ない男性経験の中では驚くほど大きく太い。最初の頃は行為のたびに出血し、激痛に泣いた。今は子宮にまで達するほどのその長さに体が悦ぶようになった。膣壁を擦りあげながらマヤの中を隙間なく犯していく社長のペニスがこれ以上ないほど憎いのに、凄まじい快感の波と社長への恐怖がマヤから理性を奪っていく。

「あああああ!! いい、気持ちいいいいっ!! 社長のおちんちんで、あんっ、んっ……マヤの、おまんこ、いっぱい犯してえええええっ!!」

 涙ながらに絶叫するマヤを、社長は満足そうに眺めてから激しいピストン運動を繰り返す。強烈な責めにマヤは一気に絶頂まで昇りつめ、脱力する寸前、社長のペニスが引き抜かれて尻の上に熱い液体がぶちまけられた。

「舐めて綺麗にしろ」

 朦朧とした意識の中で、口元に差し出されたペニスを咥えた。のどの奥まで突きいれられて履きそうになりながら、マヤは懸命にそれを舐めた。そうしているうちにまた力を失っていたはずのペニスがむくむくと大きくなり、社長はマヤの口のなかでもう一度果てた。

 満足した社長はさっさとズボンをはいて仕事の顔に戻る。まだ力無く床に横たわっているマヤを靴の先で蹴り飛ばし、

「高い給料払ってるんだ。さっさと準備して教室に向かえ!」

と怒鳴り散らした。時間は13時を過ぎている。そろそろ暇を持て余した母親たちが、子供たちの愚痴を言いに教室を訪れはじめる時間だった。

 マヤは弾かれたように立ち上がり、汚れた部分をティッシュで拭ってから衣服を身につけ、鞄を引っ掴んで逃げるように社長室を出た。誰にも顔を見られないようにうつむいたまま、廊下の奥にある女子トイレへと駆けこんだ。洗面台で顔を洗い、化粧を直す。乱れた髪を整えると少し気分が落ち着いた。

 ギッ、と音がして背後のドアが開く。先輩の女子社員たち3人が入ってきたところだった。ほとんどが30代から40代以上の社員たちのなかで、25歳のマヤは飛びぬけて若い。3人は見下した目でマヤを取り囲む。少しずつ距離を詰めながら、マヤを睨みつけてくる。

「な、なんですか?」

「なんですか、だって。ねえ、恥ずかしくないの? 会議終わってすぐに社長室であんな声出してさ……」

「そうだよ、あんただけ毎週のノルマだってほとんど無いらしいじゃない。社長に可愛がってもらうために体を差し出すなんて、そんなのおかしいと思わないの?」

「ほんと、ムカツク。あんたの教室だけ教材だって備品だって、社長の裁量で何でも入れてもらえるんでしょ? こっちは間に合わない分は全部自腹でやってんだっつーの」

 たしかにマヤは社長から優遇されていた。でもそれに見合う以上のことを、マヤは要求され続けている。逃げることもできず、逆らうこともできない。がんじがらめの中で体をおもちゃにされる屈辱がわかるのか、と言い返したいのに、嗚咽が邪魔して言葉にならなかった。さらに先輩たちの声が重なる。

「もうさ、塾なんてやめて風俗嬢にでもなれば? そっちのほうが似合ってるよ」

「ほんと、ほんと。ちょっと若くて顔が可愛いからって調子乗ってるよね。その分じゃあ、いつか生徒の父親にでも手出すんじゃないの?」

「あはは、有り得るよね。変なうわさが立つ前に、さっさと辞めちゃいなよ。会社で色気振りまいてるからさあ、男の社員なんてみーんなあんたのことばっかり見てる。目ざわりなんだよ、消えろ」

 掃除用なのか、バケツに汲み置きされていた水を頭からぶっかけられた。水浸しになったマヤを見て、先輩たちは声をそろえてげらげらと笑いながらトイレの個室に入って行った。

 鞄の中からハンカチを出し、鏡を見ながら拭えるだけの水分を拭いとる。泣いている時間は無い。まだ雫のしたたる髪をゴムでぐるりとまとめ、濡れたスーツのままマヤは駆けだした。着替えは教室に置いてある。早く着替えないと風邪をひいてしまう。また社長に見つかって怒鳴られるのもやっかいだ。教室に行きさえすればどうにかなる。

 本社を出て、すれ違う人々から不思議なものでも見るような視線を浴びながら、マヤはほんの少し口元を緩めた。こんな仕打ちを受けながらも会社を辞めないのには、給料のこと以外にもうひとつ大切な理由がある。そしてそれは、いまのマヤにとって唯一の楽しみでもあった。


 本社から電車で30分ほどの場所にあるマヤの担当教室。ここは他の地域に比べて裕福な層が多く、保護者の職業も医師や会社経営者などが大半だった。大きな家に住み、ハウスキーパーを雇い、母親たちは潤沢な金を元に自由な暮しを満喫する。子供を学校のほかに大量の習い事に通わせ、空いた時間で年の離れた若い不倫相手に溺れる母親もいれば、クレジットカードで毎月100万以上の買い物をする母親もいる。表面上は上品でそつのない人間関係を紡いでいる母親たちの、その裏側の顔をマヤはよく知っている。

 手早く着替えを済ませると、開けたばかりの教室のドアが乱暴にノックされる。ドアの外で派手な服装をした女、が香水の匂いを振りまきながら「どうなってんのよ!?」と大声をあげた。

 金髪に近い色のロングヘア、室内でもつけたままのサングラス。来年の1月に中学受験をする山岸マモルという生徒の母親だった。何度行っても教室に来るときにアポイントを取らず、いきなり来ては文句ばかり言う。こういう母親は意外に多い。

「ああ、マモルくんのお母さん。こんにちは、どうぞお掛けになってください」

 マヤが席を勧めると、母親は椅子が壊れてしまいそうなぐらいにドン、と大きな音をたてながら腰を下ろした。

「ちょっと、コレ見てよ。ねえ、毎月高い月謝払ってるのに、この模試の結果……A中学の合格率20%ってどういうこと!?」

「ああ、少し拝見させていただいてよろしいですか?」

 頭から湯気でも出しそうな母親からプリントを受け取る。算数も国語も理科も、すべての結果が前回の模試よりも上がっている。マモルは器用なほうではないが、こつこつと真面目に努力するタイプの生徒だった。母親が望むA中学は私立の中でもハイペースで学習内容を詰め込み、少しでも早く大学受験対策に取り組ませようとする学校なので、誰の目から見てもマモルには向いていない。レベルも合っていないが、校風もおそらく合わないだろうと以前からそれを何度も母親に言って聞かせ、かわりに公立中学に進学することも提案してみたが、まるで聞いてもらえない。

「合う、合わないって、そんなこと聞いてないのよ。アナタのところは合格させることが仕事でしょ? まったく、子供も育てたことのない女の言うことなんか聞きたくないわ」

「そうですか……でも、マモルくんはお友達と離れるのも嫌がっているようでしたし、同じ私立を受験するにしても、もう少しのびのびとした校風のところが……」

「うるさいわね。次の模試がまた来月あるのよ、そのときまでに合格圏内に入れるように、どうにかしておいてよね。追加講習でお金が必要だったら言ってくれればいいわよ。ああ、もう、マモルがちゃんと合格しなかったら旦那の母親からまたごちゃごちゃ言われるのはワタシなんだから! じゃあ、また来るわ」

 散々喚き散らして、マモルの母親は教室を出て行った。ちょうど入れ違いで別の生徒の母親が入ってくる。少し眉をひそめながら、階段を下りていくマモルの母親の背中をちらりと見て、マヤのほうへと視線を戻す。

「こんにちは、先生。いま少しよろしいですか?」

「ああ、カオリちゃんのお母さん。どうぞ、テスト結果はもう全部戻ってきましたか?」

「ええ、おかげさまで今回は全部ね、目標の80点以上だったんですよ……ところで、いまのは山岸さんの奥さんかしら?」

「あ、はい。そうですが、何か?」

「いえ、こんなこと先生に言うのも何なんですけどね、山岸さんの奥さんって夜になるとお子さんを虐待してるんじゃないかってすごい噂で……あ、これ絶対内緒ですよ。いつだったか、通報されて児童相談所の職員が飛んできたなんてこともあったみたいで」

 嬉々として他人の噂話に興じるのが、ここの母親たちの特徴だった。適当に相槌をうっておくだけで、母親たちの裏の顔を山のように知ることができる。いまこうやってマモルの母親を貶している本人も、別の母親たちの噂では昼の間に自宅に若い男を引っ張り込んで浮気しているということだった。真偽のほどは知りようもないが、有閑マダムたちの裏の顔を知ることはマヤにとって非常に興味深かった。

「……ということですので、カオリちゃんはこのままいけば、中学3年時の成績で推薦入試が受けられるはずです。ただ、気を抜かずにこれまで通り頑張るようにお伝えくださいね」

 適当な学習アドバイスをして、カオリの母親との話を終える頃には夕方の4時を過ぎていた。あと30分もすればアルバイトの講師たちが集まり、5時には授業を始めなければならない。マヤは軽く背伸びをした後、鞄の中から携帯電話を取り出し、着信の確認をした。表示された画面には着信履歴が1件。メールが2件。音を消していて気がつかなかったが、電話はほんの5分ほど前に掛ってきていたようだった。留守電にはひとことだけ男の声でメッセージが残されていた。

『マヤ、声が聞きたい。5時までに少しでも時間があればかけ直してくれないか』

 胸の奥がほんのりと暖かくなる。すぐに通話ボタンを押し、着信をくれた相手にかけ直す。最初のワンコールが鳴り終わる前に相手が出る。大人の男が慌てた様子というのは特別に可愛らしい、とマヤは思う。

『も、もしもし? マヤ?』

「うん、そうよ。どうしたの? 仕事中でしょう?」

『ああ……どうしても、君の声が聞きたくなって。あのさ、今日の仕事終わってから、少しだけ会えないかな』

「いいけど、授業が終わった後に講師とのミーティングもあるし、すごく遅くなるわよ? たぶん0時を過ぎると思うんだけど」

『かまわないよ。その頃に、教室に行ってもいいかな?』

「終わったらこっちから連絡するわ。焦らないで。ほかの講師や保護者の人たちと鉢合わせしちゃったらまずいでしょう」

『あはは、そうだね。ごめん、僕の方がずっと年上なのに、最近はマヤのほうがしっかりしてるな』

「そんなことないわ……わたしだって会いたい。今日も、いっぱい可愛がって……」

『おいおい、そんな良い声出すなよ、こんなとこで大きくなっちゃったらどうするんだ……じゃあ、そろそろ行かなきゃ。電話待ってるよ』

「うん。またね」

 通話を終え、今度はメール画面を開く。2件のメールは両方とも男からのもので、次はいつ会えるのか、会いたくて仕方が無い、という同じような内容だった。電話の相手も、メールの相手も、もちろん3人とも別々の男性であり、マヤはそれぞれと深い男女の関係を持っている。そしてその相手は、すべてこの教室に通う生徒の父親たちだった。

(つづく)



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