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短編小説 〜送り船〜 完結  3/14は命日

2024-03-14 15:03:00 | 短編小説

 部屋は昔ちょっとヤンチャしていた初老女性の独り暮らしの部屋と言ったそのまんまの印象。

 ただ心療内科の薬袋が山のようにあり部屋の一割を占有している。

 財布を見つけたが千円札が二枚と小銭が少し入ってるだけで、後は病院の診察券でパンパンだった。

 レシートが入っていたので見てみると、遺体が発見される一月前の日付で、サーモンの刺身とカップ麺、そして缶コーヒーを買っていた。

 それ以降に買い物した様子は無い。

 そこから体調が悪化したと予測するべきだろう。

 床に倒れてから命尽きるまでの何日間をあの遺体写真の表情で過ごしたのかわからないが、もういいいわと言う声が聞こえて来そうな気がした。

 部屋には他にコンドームが二個とカリスマホストで有名なローランドの書籍があったくらいで、特にめぼしいものは無い。

 マイナンバーカードが出て来たが、そこに写っている姉の近影は世の中を呪ったようなキツイ化粧をしていて、後で遺影をどうするかと言う話になった時に、写真が無いのでそれを使うかと親父が言ったが呪われそうなので却下して約三十年前のピンボケした写真を遺影にしたほどである。

 部屋を出て鍵を閉める。

 もうこの部屋に入る事はなく、管理会社に鍵を返却するべく連絡したら、保険の書類を送るので、送り返すときにその中へ入れてくれと言われた。


 後は書類だけ。

 それはそれで戸籍謄本取ったり、未払いのガスや電気代の支払いがあるのだけれど、それは特別急ぐものでも無いのでやっと解放された気分になったのである。



 その夜、こんな夢を見た。

 病気が重くなった姉が家に帰って来た。

 折り合いの悪い母親とはうまくいかない事は確定だったので、親父は姉が通う病院の近くにアパートを借り、そこに姉と面倒を見るために住む事になった。

 母親は余計な金がかかる事になったと怒り、その対応は僕に全て振りかぶって来た。

 幼い頃から姉は母にボコボコにされて泣き叫ぶ日々だった。

 今でなら虐待で、警察に通報されるレベルだったと思う。

 そんな日々を幼い頃から過ごしてくれば、まともに育つ方が難しい事だってというのは今なら理解できる。

 姉の結末は母親の責任によるところがだいぶ大きい。

 しかしその後の人生をどう生きるか決めたのは姉自身であり、子供を捨てて出て行った事を責められない理由にはならないのは確かだ。

 姉の部屋に行った時、僕は姉に言った。


 「理解はできるけど、自分が迷惑かけられる事に納得はしていない」


 水面に浮かぶ舟に乗った姉は、申し訳そうに卑屈な笑顔を見せるだけだった。


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3月14日は姉の遺体が見つかった日で、死亡日が正確にはわからないので、この日が命日となりました。


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