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短編小説 〜送り船〜 ③

2024-03-14 14:47:00 | 短編小説

 とは言っても、葬儀屋とかこれからの手続き関係など調べる事は沢山ある。

 スマホを駆使して訳有りの葬儀を請け負ってくれる葬儀屋をネットで検索したらすぐに見つかった。

 直葬コミコミで十万を切っており、警察署からの遺体引き取りも万全の体制であった。

 一番の問題は住んでいたアパートの解約である。

 遺体の状況次第では、損害賠償が発生しかねないと考えたからだった。

 現状回復に数百万がかかると言われれば、相続放棄と言う手段を取るしか無いのだが、相続人は親族一同までかかるならば、それはそれで大問題である。

 親類縁者にも相続放棄をしてもらわなければならないのか?それは一体何親等まで及ぶのだろうかと考えれば、寝るに寝られなくなる。

 そう言った面倒な死に様を見せた死者の死後手続きも相談に乗りますよ?と言う葬儀屋を見つけたのである。

 朝が来て、勤め先の上司にLINEで事の次第を送り、とりあえず三日間の休みを貰った。

 シフト勤務であるので、同僚及び先輩など関係各所に詫びの連絡を入れる。

 私がかって勤めていた印刷業会とは違い、超絶ホワイトな職場なので快く受け入れてくれる方々ばかりだったのだが、それ故に申し訳なさが倍増してくる。

 かっての職場なら親兄弟であるならば、さすがに嫌な顔するくらいで休みを貰えただろうが、その後は数年に渡ってあの時はお前のせいで徹夜したなどと言われるのは間違いなく、三親等を超えようものならお前が葬式に出なくたって良いだろうと言われる事は間違いなかったはずである。

 むしろそれくらい理不尽な方が負い目なく休めるものである。

 そんなこんなを考えているうちに朝が来て、とりあえずネットで見つけた葬儀屋に電話する。

 慣れたもので価格説明と、手続き上必要な死体検案書をどこからもらえる事になるか確認してほしいと伝えられる。

 通常ならば死亡診断書であるのだけれど、こういう警察が介入している場合は死亡検案書になるのだと言う。

 ちなみに死亡診断書ならば数千円で済むらしいが、死体検案書だと数万円~十万になる可能性があると言う。

 相場は四万円位らしいが、あくまで状況次第であるらしく、それでも葬儀屋の話では六万円以上になった経験はないらしかった。

 とは言え金がない我が家では高額の痛い出費であるのは間違いない。

 と言うわけで、直葬を依頼する。

 警察署からの遺体を引き取ったらそのまま火葬場に行き、荼毘に伏すのである。


正直に言うならば十一年も失踪状態であり、子供は捨てた状態の姉はもはや他人のレベルであって、社会通念上仕方なく遺体を引き取るわけであるから、無駄な出費は抑えたいと言うのが本音である。

 細々とした決め事は、警察からのいつ遺体を引き取れるかと言う事になり、とりあえずは葬儀屋と話す事は無くなった。

 後は警察との話し合いである。

 警察からの電話は葬儀屋の電話を切って三十分後にかかってきた。

 声からすると定年間際の老刑事と言ったところが適切だった。

 どう言うわけか知らないが、子供に話すような口調で姉の死亡経緯を教えてくれた。


 姉は一人で生活保護を受けながら暮らしていた。

 一月末に家賃が振り込まれなかったので、管理会社が何度も連絡を取ったが半月経っても音沙汰がない。

 これはと言う事で警察官立ち合いの元にアパートの部屋に入ったら、倒れているのを発見された。

 死後どれだけ立っているのかは分からなかった。

 死因は低栄養による多臓器不全。

 姉は躁鬱病で通院しており、鬱になると食事が取れなくなる傾向にあったと言う。

 本人確認のために警察官が遺体写真を持って家に来ると言う。

 とりあえず僕が写真を見る事になった。

 一時間後に私服の刑事さんがやって来て写真を見せられた。

 正直な感想を言わせて貰えば、十一年も会ってないのだから、姉弟という関係でも記憶は薄っすらとしたものであるので、確定の判断をするには至らない。





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