杜の里から

日々のつれづれあれやこれ

EMへの疑問(1)

2009年10月23日 | EM
・はじめに

ここ近年、EMを利用した環境浄化活動やプール掃除などの新聞記事がずいぶん目に付くようになりました。
しかしその記事などを見ると、「環境に効果がある【と言われている】」からという事で、自分も試してみるという行動が多いように見受けられます。

しかし、果たしてそれほどの効果は本当にあるのでしょうか?

EMについて色々調べてみると、これまで言われていたのとは違う様々な疑問が湧き上がります。
ここでは私自身が抱いたそんな疑問を元にして、EMというものを色々考えてみたいと思います。
とは言っても、私自身微生物に関してはごく一般的な知識しか持ち合わせていませんから、専門的に深く突っ込んだ考察は期待出来ない事を初めにお断りしておきます。
また、EMについては農業・医療・建築など様々な分野に広がっていると言われていますが、ここでは私が一番注目している【環境浄化活動】に絞って話を進めていこうと思います。
しかし実際調べてみると資料はかなりの分量になり、そのまとめも思うように捗っていませんので、これから不定期で数回に渡り気長にやっていきたいと思います。
それではしばしお付き合い下さい。

・EMのメカニズムとは?

よくEMは自然界に存在する有用な微生物の集まりであると言われています。そしてそれを使用する事により環境が浄化されると言われていますが、そのメカニズムは果たしてどうなっているのでしょうか?
そこで、本家本元「EM研究機構」のサイトの説明を覗いてみました。
しかしそれをよく読んでみると、そこにはずいぶんと首をひねるような事が書かれてあります。
それではまず第一回目として、この解説文をじっくり読み解いてみようと思います。

まず初めの部分、
> 現在では非常に数多くの発酵食品が知られていますが、もともとの始まりは口に入れた米を出して放置したら発酵して酒になった…、革の袋に入れた牛乳がヨーグルトになった、などの偶然から始まった物が多いとされています。これらは特に種菌を植えつけずにできた物であり、このように実は身近な空気中や物体の表面など、あらゆる所に有用な微生物は存在しているものです。

についてはその通りで問題ないのですが、次の説明がまず引っかかります。

> ただし、一般に酸素の多い現在の大気中では、酸素を使って有機物を分解する (酸化) 微生物の勢力の方が強いのが実体です。
 この酸化分解とは、ほとんどの場合、腐敗を意味します。そのため、食品を加工する業種では、純粋な有用菌だけを単一で植えつけるように技術が進んだと言えます。
(強調は引用者)

え~と、私が知る限りですと〔酸素を使って有機物を分解する微生物〕は普通「好気性微生物」と呼ばれています(カビ菌とか麹菌などがそうですね)。
これらは、有機物を酸化分解する過程で生じるアルデヒドなどの毒素を自身が持っている酵素で分解し、やがては炭酸ガスや水にしていきます。
しかし食品が腐敗する場合は、通常は酸素を必要としない嫌気性微生物によるものがほとんどです(「発酵」も同様)。とすると、次の〔この酸化分解とは、ほとんどの場合、腐敗を意味します。〕という説明はおかしな事になります。

そして次の図がまた問題です。
  
これは「発酵」と「腐敗」の図ですが、ここでは微生物の種類を「善玉菌」と「悪玉菌」とに分けて、「悪玉菌」を「有害な微生物たち」として紹介しています。
そして「発酵」に至るのは善玉菌、「腐敗」には悪玉菌としていますが、これもおかしなものです。同じ菌でも取り付いた食品によっては、かたや「発酵」、かたや「腐敗」と呼ばれる事もあるのです(納豆を作るバチルス菌などがそうですね)。
元々「発酵」と「腐敗」は微生物による分解という事では同じものであり、その生成物の違いでそれが人間に役立てば「発酵」、役に立たなければ「腐敗」と分けているだけのものです(→参考)。
ですからこれはあくまで【人間にとって】という事だけであり、自然界の循環の中では「腐敗」も大きな役割をしているという事を忘れてはなりません。
自然の生態系では、「腐敗」によって生物の死骸などは炭酸ガスや水・窒素・リンなどの肥料成分に分解され、それが土を作り植物に栄養を与え、それがまた農産物や畜産物などに姿を変えるという「自然循環」を営んでいます。
ところがこの図では、ただ「善と悪」という単純な二元論だけしか提示しておらず、これでは誤った自然の姿を抱かせる事になるのではないでしょうか。

この後の説明では、

> さて、環境の悪い状況だとしたら、それを打開するためには、どうしたらいいのでしょうか。 それには、微生物相を変化させる事が不可欠と言えます。 そして有用な微生物を多くしてあげる事が環境を変えて行くのです。

と、ここまでは農業についてはその通りである事を述べていますが、次の文では、
 
>じつは、EMを投入することで、全体の微生物相そのものを蘇生の方向に変化させる事ができます

と、【何の根拠も示さずに】ただEMの効果を述べているだけです。
その次には、
>  普通、土の1g中には約1~10億 もの有用な微生物がおり、EMといえども数で圧倒する訳ではありません。EMに含まれる微生物がリーダー的な存在となり、現場に最初からいる微生物 (日和見菌) を連係させて働かせる事ができるので、投入した量 以上の効果が出るのです。

と、さもEMが他の微生物よりも優れているような印象を抱かせていますが、よくよく考えてみますと、EMに含まれる微生物というのは「乳酸菌」「酵母」「光合成細菌」など、自然界に存在する普通の菌達であって、EM自体もそれを売りにしている訳です。
それらがどうして「数で圧倒する訳では」ないのに「リーダー的な存在」になると言い切れるのか、この説明ではさっぱり分かりません。

そして更に次の説明では、こうはっきり言い切ります。

EM技術とは、このような強力な微生物たちを共生させる技術が前提にあり、微生物による抗酸化力を活かした技術です。

普通の人がこの説明を読めば、「おお、これは凄い!」などと思わず唸ってしまうかもしれません。
しかし、「微生物たちを共生させる技術」とありますが、これは別にこう仰々しく言わなくても、やろうと思えば割りと簡単に出来る事です(自分でもやってみました)。
それに、突如〔抗酸化力〕という単語が登場しますが、これはその前段の説明とは何の関係もなく、明らかに初めに登場した「酸化分解=腐敗」に対応したものだと思われます。
しかし、初めの説明における「酸化」とはあくまで化学においての言葉であって、「酸化」の反対は通常は「還元」を用います。それがここでは「酸化⇔抗酸化」という図式になっており、いつのまにか環境の話から健康の話に代わっています。
ここまで来ると、ただ単に一般受けするような「良さそうな事」ばかり並べているばかりで、まさに「印象操作」でしかないと思ってしまいます。
次の行、
> またEMが他の微生物資材と違うのは、培養して増やす技術を公開していることです。

というのはまさにその通りであり、他の微生物資材があまり注目されないのもここにあります。そしてこの事が、学校やNPOの間に活動が広まっていく理由にもなっているのですが、実際は大規模にやろうとした場合は専門の培養機器なども必要になり、また元々の原液もそれなりに必要となりますから、結果関連業者も儲かるという図式になっています。

>これはEM活動の目的がイデオロギーを超えて世界中の環境を良くする事だからです。

目的は大いに結構なのですが、その結果、人々の目にEM【しか】見させなくなっているという問題が生じているのでは?という考えがつい思い浮かんでしまいます。

そして次に生態系ピラミッドの図が示されますが、ここでも気になる事が出てきます。

この図の※欄では肝心な事が述べられていません。これは【食物連鎖】のピラミッドです。ですから正確には、
〔微生物相が豊かで、その食物連鎖で自浄作用を持つ〕
とするのが本当の所でしょう。この自浄作用については、こちらに詳しい説明が述べられています(ちなみにここでは、「酸化分解とは、生物がよごれを食べて無害なものに変える現象」と述べられてますね)。

問題は次の図です。

ここでは生態系の回復の模様が示されていますが、そこでは【有用微生物群(EM)の投入】とあり、「EM活性液」と「EMだんご」が示されています。
このサイトは現在はリニューアルされたものであり、私の記憶ではかつてはこのような記述はありませんでした。そしてその当時のサイトでは、確かどこかに食物連鎖という事も述べられていたような気もするのですが、今となってはもう確かめようもありません。
それよりも、現在はEM投入を積極的に薦めるような形になっている事に驚かざるを得ません。そしてこの投入により「生態系回復」となっていますが、勿論ここでも何の根拠も示されていません。
でも何も知らない人がこの説明を鵜呑みにしてしまったら、多分何の疑問も抱かずにEMだんごを投入してしまうかもしれません。

次の項目「・EMの力」ではますます分からない事が述べられています。

>微生物というと恐ろしいバイキンのイメージがありますがEMに利用されている微生物は人間や動物、植物に害を与える悪玉菌(食中毒の原因ブドウ状球菌や老化の原因ウェルッシュ菌などの有害微生物)や遺伝子組替技術によって作出された微生物は一切使用致しておりません。

前に出てきた悪玉菌では自然界における腐敗型の菌を指していたはずですが、ここでは突如「ブドウ状球菌」「ウェルッシュ菌」などが例として挙げられています。
これらは皆【腸内細菌】です。
そして、
>EMは悪玉菌などの有害微生物 (毒素を生成する微生物) を抑制しEMを核にして良い微生物を呼び集め活性化させる力を持っています。

と、ここで前段の〔リーダー的な存在〕という事を補足している訳ですが、ここで述べられている〔有害微生物〕は【毒素を生成する】とある事から前行の「腸内細菌」を指していると思われます。それに続いて〔良い微生物を呼び集め活性化させる力を持っています。〕と、すぐ上の環境浄化の図を連想させるように話を持って行ってます。もう訳が分かりません。

と、ここで私はふとある事に思い至りました。
一般的に「善玉菌」「悪玉菌」という言葉は健康分野で用いられるもので、CMでは乳酸菌(善玉菌)が大腸菌(悪玉菌)などを駆逐していく姿が宣伝されたりしています。
でもこれはあくまで「腸内環境」の話です。

もしかしてここの説明って、この「腸内環境」と「自然環境」をごっちゃにしてません?

そう考えてみますと、前段の解説で生じた疑問、「酸化分解=腐敗」とか「抗酸化力」という言葉の謎が解けていきます。
念のため関連サイトを探してみましたら、この事を裏付ける画像が見つかりました。それがこれです。↓

    
ここでは〔抗酸化(発酵)〕・〔酸化(腐敗)〕とあり、つまりこれは本来、〔抗酸化作用〕〔酸化作用〕という分け方だったのです。ですから「酸化」という単語の持つ意味合いも、微生物学における使い方と当然異なる訳です。
そしてこの図の下側に環境汚染の図を置いたのがここの解説の図であり、そのおかげで自然環境の有様に誤った印象を与えている訳です。
そしてあろうことか、この図が載っていたサイトは「環境学習ネットワーク」です(問題の図はここにあり、その解説文も同じです)。

結局これまでの説明は、EMの働きが【腸内環境における善玉菌】と同様のものとして紹介していた訳で、おかげで 
   >EMに含まれる微生物がリーダー的な存在となり、
という説明も、乳酸菌が次々と分裂増殖して大腸菌を攻撃しているイメージとダブって来るようになる訳です。
そしてEM投入をしている人達は皆、こういう「腸内環境イメージ」を抱いてその活動を行っているのかもしれないという思いが湧き上がります。

EM活動が、水処理の専門家や菌の研究者達からまるで相手にされない理由が何となく分かります。

結局ここの解説はEMのメカニズムの何の説明にもなっておらず、何の根拠も示す事なく、ただ「健康に良い」という事から「何か良いもの」というイメージだけを読者に植え付けているただの宣伝文に過ぎず、自然の浄化作用についての誤った理解をさせてしまうものであると言わざるを得ません。

そして最後にこう続きます。
>一度良い微生物達の力が結集し善循環し始めれば放っておいても良い方向に行きます。しかし善循環し始めるまでが大変です。ある時は1回のEMを投入するだけで善循環しますが、別の場合は100回EMを投入しても善循環しないこともあります。
EMの力を最大限引き出すポイントは善循環が始まるまで何回でもEMを使うということです。
「重いボールが1度動き出せばなかなか停めることが出来ない」のと同じです。

ここでEM問題を考えるのに重要なキーワード〔善循環〕が登場します。この言葉はまさに殺し文句です。
確かに自然が正常な状態に戻る事は「善い事」です。そういう活動も「善い事」です。そして、そうするためにEMを使う事が「善い事」、そしてEMを使う人達が増える事が「善い事」、と、段々と自然にそう思うように誘導されていきます。
まったく比嘉さんは一流のコピーライターです。一言で人の心を掴む言葉を思い付きます。この言葉を前にして、人々はEMの魔力に取りつかれます。
そして、【EMは効くまで使う】、この呪文の元、人々はその効果に何の疑いも抱く事なく、やがてただ使う事自体が目的化されてしまっていく。

そのような姿を、あちらこちらで見かける事になってしまうのです。

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