「ねえ、何かやってよ」
「は?」
いきなりそんな事を言い出した小頭。限界集落のこの場所にも電波はあるが、ずっとスマホを弄るのも飽きたのか、野々野小頭はそんなことを言ってきた。今は田んぼの傍にあった川にきてた。やっぱり水が重要なのか、綺麗な川が流れてる。そこまで大きくもなくて、水位だって高くない。夏の暑さのせいで水位が下がってるのかもしれないが、ちょっとした水遊びくらいはできそうだ。
(都会だと小さい川なんて臭いからな……)
そんな事を思う野々野足軽。けどここの川は涼やかで気持ちよかった。変なにおいはしない。それに夏の日差しに対して水面がキラキラとしてる。これで時々パシャンと魚が飛び上がったりしたら、アニメで見たことある! とかできたんだが、流石にそんな事はなかった。
「せっかく川があるんだし、クマみたいに魚取れば? 私はそんなお兄ちゃんを撮ってあげる」
そういって小頭はスマホを向けてくる。きっと動画モードにしてるんだろう。でも兄のそんな姿を撮ってどうするのか? と野々野足軽は思う。それに……だ。それに……
「川で遊ぶならそっちの方がいいだろ? きっと絵になるぞ?」
そういって足軽もお返しだといわんばかりにスマホを向ける。なにせまさに「夏!」という格好をしてる小頭である。どう考えても足軽は自分よりも小頭の方が川にあってると思った。
「やめてよ。妹を変な目で見てるわけ? 最低ー」
氷点下の瞳でそんな事を言ってくる小頭。酷い奴だ。ただ足軽はやり返しただけなのに。
「はあ、やっぱり田舎なんてつまんないなぁ……」
「なら爺ちゃん家にそのままいたらよかっただろ? 何もないなんてわかってるんだからさ」
そうだ。そもそもが何回も来てる二人である。ここ数年は大体小頭はずっと家に引きこもってたはずだ。それこそもっと小さな……小学校低学年くらいの時は二人で周囲を探検したものだが、そんなのは大きくなるにつれてなくなった。
外に出るのは足軽で、小頭はずっと家にいておばあちゃんの手伝いしたりしてた。なのに今回はなんかついてきた。何も面白いモノなんてないってもうわかりきってるのに……田舎の方には別に友達とかいないしさ。
よく漫画とかでは田舎にも親しい友達がいたりするものだろう。田舎の元気な子で、一緒に野山を駆けて遊んでたけど、数年越しに会うと実はその子が女の子だったことを知る……
(そんな出会はなかったんだよな。現実って残酷だ)
田舎には人がいない。人が居ないとどうなるのか……それは子供だって都会よりも少ないということだ。まあいるにはいるけど、歳が近いわけでもないし、一緒に遊ぶこともない。今や田舎でも駆け回って遊んでる子供なんてここではあまり観ないのだ。
田舎で待っている美少女がいるなんて……そんな展開、全くないから現実の世知辛さを感じてしまう野々野足軽だった。そんなことを思ってると、なんか上流の方からハンカチ? みたいなのが流れてきた。
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