「おめえら、ちょっといいか?」
仕事中、監督さんの声で皆の作業が止まる。汗を拭きつつその声に振り向くと、なにやら黒光りする監督の横に、鎧に身を包んだ仰々しい輩がみえる。勿論だけど軍の人らしいその人は帯剣してる。このクソ暑い砂漠であの格好は感心するが、なんか雰囲気がピリピリとしてるのを誰もが感じてた。
たった一人しかここにはいないらしいが、その視線は厳しい。いや、その軍の人は普通にニコニコしてる。その証拠に別に俺たちよそ者の労働者に丁寧なあいさつをしてくれる。
「すみません皆さん。お仕事の邪魔をしてしまって」
丁寧な言葉……だが、その瞳は一人一人を鋭く射貫くような視線だった。それに気づいてたのが何人いたかわからない。だが……少し嫌な感じはした。そしてそれから、一人ひとり昨夜の話を聞きたい……ということだった。なので再び仕事に戻り、呼ばれたらその軍の人の元へ言って話をする――ということが役目に加わった。
それからは当然『どんな話をしたんだ?』とか『どんな質問された?』なんてのが先に軍の人の所に行った奴らへと質問が飛ぶ。それからわかったのはただ普通に会話をして、そして昨夜の行動をそこそこ詳しく聞かれる……ということだった。
そして自分の番……仕事から抜け出して、幌が建てられてる建物までいく。日陰になってるそこは一応の衝立がおいてあって、作業員たちから見えないような配慮がされてた。まあでも、別に密室になってるわけじゃないから、通りがかればきっと会話は聞こえるだろう。
でもそれでも何の問題もないんだろう。なにかやましい話をすることもない。
「それでは皆さん忙しいでしょうし、さっそくによろしいですか? 話の内容はわかってますよね?」
そんな風に軍の人は言ってくる。彼もそこそこの人数に同じような事を言うのは面倒なのだろう。既に前の人たちからどんなことを聞かれるのかとか話が回ってる前提の話し方。なので、俺も普通に昨夜の事を話す。
そして時々相槌を彼はうって、話に花をさかせていく。本当にそれだけだった。しいて言うなら、彼はとても聞き上手で話上手だった。相槌がうまいんだろう。ぽろぽろと会話が続いていく。気づくと色んな事を聞かれてた気がする。
「ありがとうございます」
そんな彼の言葉がなかったら永遠に喋ってたかもしれない……そう思えるとはくらいにたった十分そこらの時間が楽しかったと思えた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます