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le drapeau~想いのままに・・・

今日の出来事を交えつつ
大好きな“ベルサイユのばら”への
想いを綴っていきます。
感想あり、二次創作あり…

SS-07~ ピロートーク ~

2015年08月26日 00時36分08秒 | SS~ピロートーク シリーズ~


~ ピ ロ ー ト ー ク ~
 


「……や……」
自分でも驚くような声が漏れ、オスカルは我に返った。まるで……女だ。
「……嫌?」
やさしく愛撫していた男の掌が止まった。
何よりも愛しい女性を傷つける事を恐れている事がつぶさに分かり、オスカルはそっと頭を振った。だが、全身の震えを自分でも止める事ができない。

「オスカル……」
金髪をかき上げ額にそっとやさしいくちづけを落とすと、アンドレはその身を離し、オスカルの横に仰向けになった。頭の上で、そっと指先を組む気配を感じた。
「アンドレ……」
半身を起こし、不安げに愛しい男の顔を覗き込む。
「良いんだ、無理しなくって……」
その口ぶりは、怒っている風にもいじけている風にも聞こえ、オスカルは迷った。
「……違う……」
そう言うのが精いっぱいだった。
「大丈夫だ、オスカル」
自分に言い聞かせているようなアンドレの言葉にオスカルは慌てて、
「ただ……」
「ただ?」
「怖いんだ……」
「うん。……そうだろうね。だから、今日は、ここまで」
アンドレはそう言い、オスカルの身をそっと寝台に戻し、大きく息を吐いた。
「アンドレ……」
「うん?」
アンドレを傷つけてしまっていると感じ、オスカルは自分の気持ちにふさわしい言葉を探した。
「何だか……くちづけが深くなって行く度に……普段はあんなにやさしいおまえが、獣みたいになって……それで……」
言いかけて、言葉を切る。自信なさげに懸命に説明しようとしている。軍を率いる優秀な准将の面影は、そこにはない。ただの、初めての恋に戸惑う女の頬にかかるひと筋の髪をアンドレはそっと払った。
「男は、みんな獣だよ、オスカル」
「そう……なのか?」
「そうだよ。大切な女性を抱きしめて、やさしく愛して、喜ばせて……共に果てたいと思っているものなんだよ」
自分の身を少し左に傾け、その脇下でオスカルの頭部を包み込む。やさしく何度もその黄金の髪を撫でながら、
「興奮してきたらどうしようもない。呼吸だって乱れる。おまえから見れば、本当に獣と同じなんだろうけど……男なんて単純だから、どうやったら彼女は喜んでくれるだろうって、そんな事ばっかり考えて、日々精進してるんだよ」
「えっ!? 日々……精進……?」
「そうだよ」
「私を喜ばせる為に?」
「うん。まあ、自分の為ってのも、正直あるけど……ね」
アンドレはニッコリと微笑み、愛しい彼女にくちづけしようとしたが……
ど~やってっっ!?
「……は……い……? あ、耳がキーンと……」
「だ、か、ら……!! どうやって、日々精進しているんだっ!!」
「あ……」

――ようやく、アンドレは自分の失言に気づく。

「言葉のアヤだよ、アヤ。精進ったって……。ね、オスカル……?」
オスカルを抱き込む左腕にいっそうの力を込める。
「つまり、おまえは私を喜ばせたいが為に、日々私の知らないところで精進している、と言うのだな?」
「あ、いや……」
忙しい二人が、そう長い時間を一緒にいられるわけはない。何となくアンドレに対する申し訳なさを抱えていたオスカルだったが、今、形勢は完全に逆転した。
「そう言う事なんだなっ!?」
「違い……ます……」
「違うのに、なぜそんなに語尾が小さくなるんだっ!!」
「いや……だから、その……」

悪い習性だ。単なるおふざけの延長のような感覚でアンドレは受け答えしてしまった。気づいた時には、遅かった。
「オスカル……」
「……言い訳など聞きたくない。明日は休み返上だ。いつも通りに出仕する」
そう言ったきり、背を向けてしまった。

何を言っても返事をしない愛しい女性をそれ以上刺激するのは良くないと判断し、アンドレはモヤモヤした気持ちを抱えたまま寝台を降り、一人ひっそりと屋敷を抜け出した。

☆☆☆   ☆☆☆   ☆☆☆    ☆☆☆   ☆☆☆   ☆☆☆  ☆☆☆ 

アンドレは行きつけの酒場にいた。どちらかと言うと閑散とした店のカウンター席で、日頃は飲み慣れない強い酒をずっと同じペースで飲んでいる。殺気にも似た近寄りがたさを発したその背中。それでも時折視線を送って来る女がいる。断りもなく横に腰かけ必要以上に開いた胸元を見せつけようとする女もいる。だが、どう誘惑しても音無しの構えを決め込んだ姿勢に、やがて女達も近寄らなくなった。
「何、一人で背中丸めてるんだよ?」
沈み込んだイロオトコに真正面からちょっかいを出せるのは、オスカルを除けば、他には一人しかいない。
「放っといてくれないか、アラン……」
振り返る事もなく、気のない返事をする。
「またエラく陰気だなぁ。隊長は一緒じゃないのか?」
アンドレの肩をポンポンと叩きながら隣に腰を下ろす。が、言ったひと言がまずかった。
「い……一緒なわけないだろっ!!」
ダンッとすこぶる不愉快な音を立て、アンドレは持っていたグラスをテーブルに乱暴に戻した。
「……喧嘩でも、したみてぇだな」
事に隊長が絡むと妙に勘が冴えるアランは、肩をすくめてしばらく黙って飲んでいた。

「仕方なかったんだ……」
ボソッと呟くアンドレのひと言をアランは聞き逃さなかった。
「何? 昔のオンナの事でも根掘り葉掘り訊かれたのか?」
本当に、なぜオスカルに関連した話しになると、こんなに言い当てる事ができるんだろう、とアンドレは感心しながら、
「当たらずとも遠からず。……罪深い事に、俺はあいつに愛されているって事を時々忘れてしまうんだ」
「あぁ!? おまえ、何て事を言うんだ!! ノロケのつもりか?」
「いや。そういう風に聞こえたんなら、許してくれ」
アンドレの口調は至って真面目だった。
「うん……。片想いがあまりにも長かったからかな。そばに寄れば寄るほど、幼馴染の感覚に囚われてノリの方を優先してしまうんだ。じゃれ合いみたいな場面になるとついついからかってみたくなってしまって。……それが、あんな墓穴掘る事になるなんて思ってもみなかった。……あ、言っとくが俺には“昔のオンナ”なんていないぞ」
アンドレは喋りながらも変わらず同じペースで飲み続ける。
アランも同じように数杯を呷る。
「おまえだって、分かるだろう? 若気の至りって言うか。目覚めたら知らない場所で、知らない女が横に寝てたって事」
心地よい酔いがアンドレを饒舌にさせる。
「近頃の話しなのか?」
もしそうなら……隊長を泣かすような事があったら許せねぇ、とアランの無言の圧力が伝わって来た。まさか、と即答するアンドレにアランの表情は明らかにホッとした物に変わる。
「勿論、それは昔の事だよ。オスカルは知らない。……ただ、最近だっておまえ達と一緒に飲みに行っても、帰ったら必ず『可愛いコはいたか?』とか訊いて来るから『いたいた』なんて答えるのが俺達の日常の会話だったんだ」
そんな言葉に、一緒に飲みに行っても、決して自分から女の子に声を掛けたりしないアンドレの事をアランは思い出していた。
「そのテの話は本気ではしない。はなっからお互い疑ってなどいないから、冗談で笑い合えるって思ってたんだ」
「よっぽど虫の居所が悪かったのか?」
「いや……。そうじゃないと思う」
無意識と言う感じに呟くと、アンドレはそれっきり黙り込んでしまった。
『只今、猛省中』
アンドレの哀愁の背中に、アランはそんな文字を見た。

アンドレは分かっていたはずだ――。彼女がどんなに真摯に自分と向き合おうとしてくれているのか。それは自分自身がオスカルに向ける態度と寸分違わないのだから。
彼女にとっては自分が“最初で最後”になるであろう事、そうであってほしいと願った事。
それなのに、軽いおふざけにしてしまった自分。取り残された愛しい女性。

☆☆☆   ☆☆☆   ☆☆☆    ☆☆☆   ☆☆☆   ☆☆☆  ☆☆☆ 

意気消沈したアンドレに呆れながら、やがてアランは帰ってしまった。
それでも尚も淡々と杯を進めるアンドレの頭上から新たな声が聞こえた。
「お隣、ご一緒しても宜しいかしら?」
「どうぞ」
またも、アンドレは無愛想に答える。ちょっと声はオスカルに似ているな、などと思いながら、つい振り返ってしまった。
「……オスカル……」
似ている、ではなく、本物のオスカルがほぼ仁王立ちでそこにいた。
「こんな言葉遣いで良いのか?」
「えっ!?」
「さっきから、ずいぶんと綺麗な女性ばかりがおまえにすり寄って来るから、ハラハラしながら見てた」
ニコニコと笑いながら、近づいて来たバーテンダーにリキュールを注文した。
「珍しいな、おまえがそんな酒」
「うん。何となく、今はそんな気分だ。……で。誘い方は合格か?」
先ほどの女言葉の事だとすぐに分かった。
「あ……。ああ、まあな。でも、おまえにはふさわしくない」
「……そうか。私は私って事か……」
「それに、おまえは誰かに媚びたりしちゃダメだ」
オスカルは黙って運ばれて来たグラスに口をつける。
「よく、ここが分かったな?」
「うん。おまえが来るのはここくらいだろうと踏んで来た。入口でアランとすれ違った時には焦ったぞ。他の連中もいるのかと思った」
「アランは? 何か言ってたか?」
「……何も。私の顔をまじまじと見つめてニヤッと笑いやがった、あの野郎は」
「オスカル……言葉遣いが悪過ぎだ。それよりもさっきみたいにしなだれかかって来る方がマシだ」
「何だと!? いつ私がしなだれかかった?」
すぐムキになる。子供の頃のままだな、とアンドレは笑った。
「あ、おまえ。また『ガキの頃のままだ』とか言うんだろう?」
「分かった?」

オスカルは拳を振り上げようとしたが、止めた。そして、
「……すまなかった……」
小さな声で呟いた。
「えっ? 何が?」
「言いがかりだった。……おまえが出て行ってから、色々考えた。全くの私の言いがかりだ。……あ、いや。昨日や今日の事ではないと分かっていても、無性に腹が立つのは事実なんだ。……でも。さっきの件は、完全に私の言いがかりだった」
グラスを両手でギュッと握り込んだまま、一気に捲し立てた。
「うん……おれもすまなかった。もっとおまえの言う事をきちんと受け止めなきゃなんなかったのに……」
「……アンドレ……」
「うん?」
「愛しているぞ、悔しいけど……」
「えっ!?」
「だから。たとえ昔の事でも他の女を連想させるような話はするな」
オスカルらしからぬあまりにもストレートな表現にアンドレは何も返せない。アンドレが言葉を探し、口を開いては閉じ瞬きを繰り返している間に、赤面したオスカルは1杯を飲み干す。
「あ……」
我に返ったアンドレは空になったグラスを気遣い注文しようとするが、
「アンドレ、もう良い。今日は、止めだ。一緒に帰ろう」
アンドレの手に軽く自分の掌を載せる。
「あ、ああ。明日も仕事だったな」
「あれは……止めた」
「えっ? 止めたの?」
オスカルは呆れたような顔をアンドレに向け、
「……おまえ、明日が何の日か知ってるか?」
「あ、明日……?」
何やら主導権を握られてしまい、あさってな事しか言えない気がして、アンドレは答える事ができなかった。
「明日は……」
オスカルは、一旦言葉を切る。
「明日は?」
「私が一番大切に想っている人の誕生日だ」
……まただ。
アンドレは、実は自分は今完全に酔い潰れてしまっていて、都合のよい夢を見ているのではないかと錯覚してしまった。なぜ、今日のオスカルはこんなにも殺し文句を連発するのだろう。

「さあ、アンドレ、帰るぞ。屋敷に戻って……せっかくの休みだ、朝まで一緒に過ごそう」
……オスカルが、誘っている……?
朝まで一緒に!?
無意識、と言うか、本人には全く自覚がないのだろう、とアンドレは溜め息を吐く。
一般的には、その誘いは男女の営みを指すのだろうが、
「よし!! オスカル、とことんつき合うぞ」
一瞬のうちに酒蔵庫の配置を頭に浮かべた。帰ったらすぐに最高の酒を持って、愛しい彼女の部屋に向かおう。そして、朝まで飲み明かそう。酒豪の准将とさしでの勝負だ。結果は、挑むまでもなく見えているが、そんな事はどうだって良い。
どんな形にせよ、愛する人と一晩を一緒に過ごせる自分の幸せに、アンドレは酔いしれた。
カウンターのやや脚高の椅子から立ち上がると、オスカルの肩を抱き寄せた。


≪fin≫

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7 コメント

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ありがとうございます♪ (ぱんだりん)
2015-08-26 12:38:44
おれんぢぺこ様、大好きなアンドレのお誕生日にステキなSSのアップありがとうございます♪

朝の通勤電車内で気づき、今日は朝から仕事そっちのけで読みふけりました(カオル様のサイトでアップされた分も合わせて)。←オイオイ、仕事しろ~~!
でもアンドレ、お誕生日なのにお預けくらってちょっとかわいそう(笑)
というより もうちょっと強引でもいいんだよ、とアンドレに言ってあげたい!!(爆)
きっとオルカル様も待っていますよねvv
ぜひ続きで幸せラブラブ♡なふたりを読んでみたいです。

今日は本当に癒されました(≧▽≦*)
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一気に読みました (りら)
2015-08-26 17:43:30
 わぁ、いつものおれんぢぺこさまとちょっと違う。大人テイストだわ。でもこういう世界も好きです。アンドレがぽろっと言ってしまった一言が波紋を呼び、でもやっぱりオスカルが帰る場所は決まっている。アランの登場も絶妙なタイミングです。

 8月26日に、素敵なお話をありがとうございました。
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happybirthdayU+2764U+FE0F (れん)
2015-08-26 20:42:40
アンドレのお誕生日、幸せな気持ちになれましたー。ありがとうございます!
おれんぢぺこ様のペースで、これからも素敵な物語を綴ってくださいませね。
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Aさまお誕生日! (みっどないと☆)
2015-08-26 21:01:07
今日が終わらないうちに、読めてよかった。いつもいつも、優しくて、温かい気持ちにさせていただき、幸せMAX☆です。ぺこさま、記念日特別篇をありがとうございました!
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ありがとうございます! (CHIEMI)
2015-08-26 21:24:56
朝、4時に仕事の準備が落ち着いたので開いたらアンドレの誕生日に合わせた新作…ヤッター!と喜んでしまいました。出勤途中、休憩中、帰宅途中の電車の中で何度も読み返していました。私は、アンドレが一番大好きなので嬉しくて嬉しくて仕方がありません。オスカルとアンドレは朝までお酒を飲んでいたのかな?それとも甘~い語らいをしていたのかと一人で連想していました。
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ありがとうございます (おれんぢぺこ)
2015-08-26 23:31:31
ぱんだりん 様
りら 様
れん 様
みっどないと 様
CHIEMI 様

ご訪問ありがとうございます

アンドレ君、お誕生日にちょっとかわいそうだったかな?、などと思いながらも、原作ではどちらかのお誕生日をラブラブで過ごした事がなかったカップルにとっては、あんまりアツアツなのも・・・などと、妄想の最後の1歩が足りなかった事の言い訳です。
しようもない話しにお付き合いありがとうございました。
またお時間のある時にお立ち寄り下さいませ
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ウケました! (ゆめ みつき)
2015-12-02 09:08:34
「あさまでいっしょ」どんな誕生日を過ごすのでしょう。本当に手のかかる、オスカル。でも、彼への想いは誰よりも強くて。可愛い恋人。
「悔しいけれど、愛してる」幼馴染みで、兄弟のように触れ合ってきてプラス恋人として触れ合うことがどれだけ彼女にとっては勇気のいることか。アンドレに同情しないではないですが、もう少し待つしかないかも。ただ彼女にも言いたい!「頑張って大人になっちゃう誕生日」にしてみないかい?(笑)キュンキュンなお話ありがとうございました!
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