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le drapeau~想いのままに・・・

今日の出来事を交えつつ
大好きな“ベルサイユのばら”への
想いを綴っていきます。
感想あり、二次創作あり…

SS-85~ 恋バナ(Oscar&Alain) ~

2024年02月14日 20時05分00秒 | SS~読み切り小品~

~ 恋 バ ナ ( O s c a r & A l a i n ) ~

【最初の言い訳】
しようもない話です。蔵の中から引っ張り出して、書き加えました。
ヴァレンタイン要素も、ほぼないよーなモンです(´;ω;`)
アンドレは、名前しか出てきません。
(アラン推しの書き手としては、結構好きなシチュエーションではあるのですが)
バレンタイン話としては、淋しいことこの上ない、、、ですが。よろしかったら、お付き合いください。



楽団が奏でる調子っぱずれのシャンソンが、悪酔いに拍車をかける。
TimePlaceOccasionはきちんと弁えている。オスカルは、そんな自負の元、なるべく目立たない服装を選んだつもりだったが、いかんせん醸し出す雰囲気が安酒場に全く似合っていない。
汗や汚れなどでは、決してテカテカになることなどない、仕立ての良いモスグリーンのチョッキ。かろうじて、そこに織り込まれた家紋や、舞う獅子の刺繍が入っていないことだけが、オスカルなりに熟慮した結果の選択の証だと語っていた。
バンッとグラスがまたカウンターを叩いた。これをあと2~3回でも続けたら、オスカルの前の木材だけが見事にグラスの形のクレーターを作るに違いない。
アランは、店主から受け取った自分のグラスの位置を変える振りをしながら、船をこぎ始めた麗しの上官のグラスを、手が届くせいいっぱいの範囲で遠去けた。

ついに耐えきれず、オスカルがその右頬をカウンターに勢いよくひっつけた。
「……アラン……」
それでも、彼氏と一緒でないことだけは分かっているようだ。間違わずに、自分の隣に腰掛ける男の名を呼ぶところはさすがだと、アランは感心しつつ返事をした。しかし、何がさすがなのだろうと別の疑問が湧く。いやいや、そんなことを考えても解決しないと首を振り、
「お屋敷までお送りしましょう」
言ってはみたものの、こんな酔っぱらいを客として見てくれる良心的な辻馬車があるだろうかと考え、提案を変えてみる。
「いっそ、兵舎に戻りますか」
歩いて小一時間。寒空の下、ちょっとした行軍になるなと思う。現状打破の方法としては一番手っ取り早いと思う。だが、この酔っ払い上官を立ち上がらせるには脇の下から抱え……などと考え、赤面してしまった。

……つまり。持て余しているのだと、大きく息を吐き出した。

愛して止まない女性と、こうやって飲みに来られたというのに、と、アランは泣きたいほどの情けなさを感じていた。
「隊長、夫婦喧嘩は犬も食わぬって知ってますか」
「私達は、夫婦ではないっ!!」
「ああ、そうでしたね。まだ……」
「ま、だ……。棘のある言い方だなぁ。おまえは、私達が夫婦だった方が嬉しいのか」
跳ね上がる語尾。際どい発言。自分で爆弾投下しまくる愛しい上官に、ついつい可愛いと思いながら、アランはいくつ目かの溜息を吐き出した。
「そんな下町のやさぐれ連中のようないちゃもんつけるのは止めてくださいよ」
アランは笑いつつも、妙に頬がひきつるのを自覚した。

そして、ふと気を抜いた瞬間に、グラスを奪い返されてしまう。
「聞け! アラン!!」
残り少ない安物のヴァンをグッと煽ると、オスカルは胸を張り、口調もがらりと変えた。
アランは、思わず敬礼しそうに背筋を伸ばす。「……何の訓示ですか?」
背筋を伸ばしたものの、酔っぱらいからまっとうな言葉が出て来るはずがないことも知っている。
アランは、沸点に達しているオスカルの怒りの矛先を変える方法を考えてみる。その怒りを下手に沈めてしまうのは宜しくない。忘れた頃に、思い出して、勝手に再燃するからだ。
矛先など分かり切っている。

「おまえ、ヴァランタンの贈り物はいかほどいただいた?」
「えっ……」
全く、想像もしていなかった話題だ。図らずとも隊長自身が怒りの方向を変えたのかと、アランは一人笑った。
「い、いかほどって……? まあ、そこそこ……と言っても、隊長には及ぶはずもありませんが……」
正直、贈り物の数をはっきりと覚えているわけではない。
それなりに(一方的な)本命も含め、義理、友……。交友関係と比例する勢いで年々、いただきものの数も増えて行っているという自負は、アランにもあった。

「……そうか……」
なぜか、ちょっとトーンダウンするオスカルに、聞いた方が良いのか否かちょっとだけ躊躇し、アランは、
「隊長は、また今年もヴェルサイユ中の老若男女からモンブランの頂までを何往復かする分からないくらい、たっくさん貰ったんでしょ?」
アランは、そう言うと、オスカルにニッと歯を見せる。
「……ああ。兵士諸君からの愛のこもった贈り物も含め、国中……いや、世界中の皆々様から本当にたくさんの愛をいただいた」
「き、規模が違いますね」

アランが正直な感想を言った瞬間、またしても、空のグラスがバンッとテーブルをぶっ叩いた。
「な、何すか……ビビるじゃないですかっ」
心底震え上がったアランは、ちょっと身を後ろに逸らす。
「だがな」オスカルは深呼吸した。
「……あいつの方が多かったんだ……」
「はい?」
「あいつの方が、多かったんだ、1個!!」
「……あいつって……まさか……」

無言の圧を感じ、アランはそっと貴人の横顔を盗み見る。
「競ってたんですか……アンドレと……?」
「……いや……」
「じゃ、じゃあ、何で、アンドレの方が多いとか、ましてや……」
言いかけて、アランははっと息を継ぐ。
「まさかとは思いますが……あ、いや。そんなことはないよなぁ。あ、いや。でも、案外ガキみたいなところあるし……まさか、俺を誘った理由って……」
独り言が丸聞こえの状態。

「今年は、数だけで言うと同じだな、と言って、しんみりと私達も互いに包みを交換し合ったんだ」
「ほぉ~」
何だ、喧嘩じゃないのかと、ほっとしつつも、どこか残念がるアランの様子などお構いなしに、オスカルは、
「その瞬間だ、扉が、開いた」
アランは、無言のまま、先の話を待つ。
「ばあやだ」
何があったんだろうと、アランは首を傾げる。
「『ああ、ちょうど良かった。アンドレ、あんたにも渡さなきゃと思ってたのに、忘れてたわ』ばあやはそう言って、孫息子に義理チョコを押しつけて行ってしまった。その瞬間のアンドレの勝ち誇ったような顔が分かるか?」

「あの、ですね……」
アランは、やはり呆れることにした。
オスカルには、勝ち誇ったように見えたアンドレは、実は思いっきりひきつった笑顔を載せていたに違いない。
「それで、怒りのままに、非番の俺を呼び出した……って……、そんな話のオチ、誰が期待してると思ってるんですか」

オスカルは返事をしない。
「とにかく、帰りましょう」
「どこに?」
「えっ……。ああ……」続きの言葉に詰まる。
日頃、どんなに粋がって見せても、結局、愛してやまない目の前の麗人に対し、送りオオカミになどなれるわけもなく、アランは、
「お屋敷までお送りしますよ。アンドレが待ってます」
大仰に困った風に肩を竦めて立ち上がった。
《 fin 》


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