「正直に言ってみろ」
夫は、真顔で妻に向き直った。
低く押し殺した声だった。
「他の男と寝たんだろ」
妻は無言で首を振った。
夫はしばらく、じっと妻の目を睨みつけるようにしてから言った。
「嘘じゃないだろうな?」
妻は無言で頷いた。
それでも夫は追及の矛先を緩めなかった。
「嘘なんだろ? 男と寝たんだろ?」
こころなしか、語尾が幾分上ずっているようにも聞こえた。
こみ上げてくる何かを必死でこらえるかのように・・が、妻は平然と動じた風もない
無言で再度首を振る。
その目は、鋭い夫の視線をひたと真正面から受け止め、たじろぎもしない。
「嘘だ・・・」
夫がぽつりと呟いた。
「嘘だろ?・・・」
いつの間にか、哀願するような語調に変っていた。
「嘘だと・・言ってくれ」
「いいえ」
妻が初めて口を開いた。
「他の男性と寝たことはありません」
その目にはなぜか、ぎらぎらするような光が踊っていた。
「これまでの人生で私が体を許した男性はただ一人・・・」
妻は一呼吸置いてから、静かに言い放った。
夫の脳天に、言葉の鉈を打ち下ろすように。
「あなただけですわ」
瞬間、夫の上体がぐらっと傾いだかに思えた。
既に顔面蒼白、あんぐり口を開け、その視線も虚空をさまよっているかのようだった。
しばしの沈黙。
「あなたね」
妻が静かに言った。
「あなたしかいないわよね」
不気味なほどに優しい口調。
そう。
逆襲の時は来たのだ。
「他の女と寝たんでしょ?」
その口元には、歪んだ薄ら笑いすら浮かんでいた。
再度、しばしの沈黙。
濃密過ぎるほどの"間"。
怒りを孕んだ空間が、束の間ぐにゃりと歪んで見えるほどに・・・
と、妻が吼えた。
「はっきりおっしゃい!!」
バーン!!(テーブルに激しく掌を叩きつける音)
「女と寝たのね!? そうなのね!!」
稲妻に打たれたようにかぐっと肩を落とし、それきり放心したようにうなだれる夫。
そんな夫を情け容赦なく睨み据える妻。
未だわなわなと震える妻の手の下、テーブル上には一枚の紙。
二週間ほど前に彼女が保健所で受けた血液検査の結果報告書だった。
それには"HIV(エイズ)抗体検査:陽性"と記されてあったという。
「いや・・・男だ」
ポツリと、最後に夫はそう言ったそうな。
夫は、真顔で妻に向き直った。
低く押し殺した声だった。
「他の男と寝たんだろ」
妻は無言で首を振った。
夫はしばらく、じっと妻の目を睨みつけるようにしてから言った。
「嘘じゃないだろうな?」
妻は無言で頷いた。
それでも夫は追及の矛先を緩めなかった。
「嘘なんだろ? 男と寝たんだろ?」
こころなしか、語尾が幾分上ずっているようにも聞こえた。
こみ上げてくる何かを必死でこらえるかのように・・が、妻は平然と動じた風もない
無言で再度首を振る。
その目は、鋭い夫の視線をひたと真正面から受け止め、たじろぎもしない。
「嘘だ・・・」
夫がぽつりと呟いた。
「嘘だろ?・・・」
いつの間にか、哀願するような語調に変っていた。
「嘘だと・・言ってくれ」
「いいえ」
妻が初めて口を開いた。
「他の男性と寝たことはありません」
その目にはなぜか、ぎらぎらするような光が踊っていた。
「これまでの人生で私が体を許した男性はただ一人・・・」
妻は一呼吸置いてから、静かに言い放った。
夫の脳天に、言葉の鉈を打ち下ろすように。
「あなただけですわ」
瞬間、夫の上体がぐらっと傾いだかに思えた。
既に顔面蒼白、あんぐり口を開け、その視線も虚空をさまよっているかのようだった。
しばしの沈黙。
「あなたね」
妻が静かに言った。
「あなたしかいないわよね」
不気味なほどに優しい口調。
そう。
逆襲の時は来たのだ。
「他の女と寝たんでしょ?」
その口元には、歪んだ薄ら笑いすら浮かんでいた。
再度、しばしの沈黙。
濃密過ぎるほどの"間"。
怒りを孕んだ空間が、束の間ぐにゃりと歪んで見えるほどに・・・
と、妻が吼えた。
「はっきりおっしゃい!!」
バーン!!(テーブルに激しく掌を叩きつける音)
「女と寝たのね!? そうなのね!!」
稲妻に打たれたようにかぐっと肩を落とし、それきり放心したようにうなだれる夫。
そんな夫を情け容赦なく睨み据える妻。
未だわなわなと震える妻の手の下、テーブル上には一枚の紙。
二週間ほど前に彼女が保健所で受けた血液検査の結果報告書だった。
それには"HIV(エイズ)抗体検査:陽性"と記されてあったという。
「いや・・・男だ」
ポツリと、最後に夫はそう言ったそうな。