小さな水盤を作りました。”水の器”という連作の中から、
こちらは『睡蓮』という素敵な名前をつけさせていただきました。
お漬け物や和菓子などを少量盛って、浅鉢としてもお使いいただけます。
中央に盛り上がりが有り、少し彫りを入れてあるのですが、
これは装飾以上の狙いが有って施したものです。
実はこれ、『剣山止まり』と私が呼ぶ、剣山が滑ってしまうのを防ぐのに、
大きな役割を果たしてくれる細工なのです。
器の形を活かす為には、剣山をどの位置に置くかが重要ですが、
特に、中央ではなく端に寄せて置きたい場合、
水を張った水盤の中で重い剣山はよく滑り安定してくれません。
大きな剣山でしたらそれなりの安定感も有りますが、
このように小さなものは水盤の中を泳いでしまうので、
それを解決出来る装飾をデザインに取り入れました。
私は植物の花の美しさと同じように葉の美しさを愛しているのですが、
この器も、睡蓮の葉の形を意識しました。残念ながら私の庭に睡蓮が無いので、
こちらはカラーの葉です。
今日はこのカラーの葉三枚と、間もなく季節を終えるフリージアを2本だけ使って、
器のデザインと澄んだ水の美しさとを活かしたシンプルなアレンジをしてみます。
一番大きな葉を剣山の最も近くに倒すように入れ、
中ぐらいの葉、一番小さな葉の順に茎を長くして写真のように組んで行きます。
もうこれで剣山は隠れてしまうのです。
西洋式のフラワーアレンジメントの場合オアシスを躍起になって隠す必要がありますが、
こういった生け花寄りのアレンジは茎が水からスッと立ち上がる部分を見せる事が美しさですので、
剣山を隠す事に気を取られるあまり、根元がごちゃごちゃしないように気をつけます。
葉の陰から、私の彫った模様が顔をのぞかせていますね。
見る人が「あれ!何だろう?」と覗き込む程度に控えめに見せてあげるのも、
器を活かすという事だと思います。
少し余談になりますが、
素晴らしい器(私のではないですよ)をお持ちの方は、
時としてその器を活かそうとするあまり、その魅力を全部見せようと、
お腹いっぱいのアレンジなり盛りつけなりをしてしまう事が有ります。
陰から少しだけ見せる事で、見る人の想像力や好奇心をかき立てたり、
お料理を奇麗に食べ終わったあと、
それはまるで食材達が「ありがとう」を言っているかのように、
器の底から素晴らしい意匠が現れる効果を狙って、
最初はあえて盛りつけで隠してしまうなど、
遊び心を持って、お使いになられると楽しいのではないでしょうか?
話がそれました。
剣山が隠れてしまえば、怖いものは無いですね。
思うがままに伸びやかに、お花を入れれば良いのです。
私はこんな風に2本のフリージアを入れました。
このアレンジは、水を見せる事で清潔感や涼感を表現するものですので、
コーヒーテーブルなど、比較的低い場所に置くと、いっそう効果的と思います。
タイシルクのピンクに器の優しい色とフリージアのきっぱりとした黄色が春らしい、
小さいながらも存在感のあるあしらいになりました。
今夜は親しいお友達をお招きしています。
食後はここで、美味しいコーヒーが飲めそうです。
どんな事件が起ころうと、季節は移ろうものですね。
日中の気温が25度を超える日も出始め、間もなく薔薇の季節が始まります。
では