松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆県と市町村の役割分担・選択制自治体の模索(本郷台)

2016-06-03 | 1.研究活動

 今年も県下自治体職員との研究会が始まった。今年のテーマは県と市町村の役割分担である。

 前回の研究会では、人口減少受容策を考えた。自治体間で人口(社会増)の取りっこをしても、日本全体ではほとんど意味はない(首都圏から、地方に人を連れてくるのは意味があるが)。他方、自然増はそう簡単に増えるものではない。仮に増えたとしても、簡単に合計特殊出生率が、2.08を超えるわけではない。そこまでも伸びるには時間もかかるし、まして、生まれた赤ちゃんが、生産年齢になって、税金を払うようになるには、20年はかかる。

 とすると、当面は、人口が減少する一方、社会保障費が増える中で、何とか持ちこたえなければいけない。そこで、人口減少状況を受容しつつ、市民の暮らしを守っていくにはどうしたらよいかを考えた。

 その答えの一つが、連携である。特に考えたのは、官官連携である。例えば、地方の中心的な都市が、周りの都市の面倒を見る官官連携をすることで、圏域全体としてサービスを維持する方法がとれないか、あるいは小さな自治体ではスケールメリットがないが、官官連携でスケールを大きくして、そのうえで官民連携につなげる方法などを考えた。

 今回の研究会は、その延長線で、市町村と県との連携を考えることとなった。やや専門的でマニアックなテーマのためだろうか、今回の研究員は、昨年度の半分である5人となった。

 基本的な方向性は、逆委譲である。これまで、地方分権の流れの中では、県から市町村への権限委譲が大きな方向である。横浜のような大きな自治体は、県からどんな権限が来ても、なんともないが、自治体の多数を占める5万人以下の自治体では、とても受けきれない。

 今回の議論の背景となったのが、自治体職場の忙しさである。いまだに都市伝説のように、役所は5時に帰れると信じている人も多いが、人が減るが、仕事が増え、小さなミスも許されない中、職員一人一人にしわ寄せがいっている。職場に非常勤職員が増えて、同一労働同一賃金に反するような事態が公然と広がっている。地方分権だと言って、画一的に権限委譲がされれば、ただでさえ忙しい職場が、許容量を超え、おざなりの仕事になるか、職員にしわ寄せが行ってメンタルをやられてしまう。

 今回の直接的な提案は、一自治体では困難な仕事を県が集約的、代行的に事務処理する方法の模索である。例えば、法務のような専門性が高い仕事が考えられる。むろん、これは県に仕事を押し付けるのではなく、いくつかの自治体が集まって、職員を一人を出すなどのサポート付きの協働事業である。

 同時に、これまでのように、地方分権なのだ、地方でやるのだという大義名分や体面にとらわれず、正直に自分たちの力量を推し量り、許容量からはみ出る部分の受け皿を考えてみるというパラダイム転換でもある。市町村は、地域の総合行政機関であり、住民のためになることをフルセットで行う行政から脱却して、基礎自治体が行う事務の選択を認める選択制自治体の提案でもある。

 これは協働論の延長でもある。市町村は住民に対する一次的なサービスを提供するが、その提供は市役所である必要はなく、県やその他の公共機関であってよいし、NPOや地域コミュニティであってもよい。新しい公共論では、公共の担い手は、政府に限らず、NPOなどでもよいとなったが、同様に、公共機関は、何も市役所でなくてもよく、要するに、ニーズに合った、質の高いサービスが、住民に提供されることが大事だからである。

 地方自治法では、県は広域事務、連絡調整、補完事務を行い、そのほかは市町村が行うが、補完事務の範囲を広げてみようというものである。そのメルクマールは、市町村では手に余る仕事を県にやってもらうというものにとどまらず、いずれも自治体である市町村と県の間で、それぞれ自分の得意な分野があるはずで、その得意分野を基準に、それぞれの業務を再配分してみようという試みでもある。

 この選択制自治体は、西尾私案でも提起されたが、当時は、地方分権の流れに逆行するものとして、総スカンを受けた。その後、地方分権をやってみて、あるいは受け皿としての合併を進めても、勢い良い理念だけではとても前に進まない現実に直面して、ようやく陽の目を見ることになった考え方ともいえる。その意味で、この研究会では、西尾私案から考えてみることになった。

 研究会のほうは、5人という少数なので、話が早く、本来は、次回に決めるリーダー等の選定も、あっという間に決まった。8か月という短い期間であるが、少数精鋭で大いに頑張ろう。

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