松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆アイディアの政治(1)

2020-06-01 | 1.研究活動
 昨日は、夜更かしをしてしまった。風呂から出て、政策決定論に関するを論文を読んでいた。「アイディアの政治(politics of ideas)」という概念にはまってしまって、早く寝なければと思いつつ、2時まで読んでしまった。気になって、5時には目を覚まし、また、読め始めた。この日は、睡眠3時間である(地震もあった)。。

 平成 19 年度内閣府経済社会総合研究所委託事業 『イノベーション政策及び政策分析手法に関する国際共同研究』成果報告書シリーズ No.3 政策及び政策分析研究報告書 -科学技術基本計画の策定プロセスにおける知識利用-から、引用して、その概要をまとめておこう。

 この報告書によると、「アイディアの政治(politics of ideas)」は次のような概念である。

・ダーシックとカーク(Derthick and Quirk 1985, Quirk 1988)が、政治過程の新しい分析視角として「アイディア(idea)」という「認識的要因(cognitivefactor)」に注目した。

・経済学者らの提案する規制緩和という「アイディア」が持つ説得力と、そのアイディアを推進するケネディ上院議員やカーター大統領らのアクターの活動によって、規制による既得権益を維持しようとする「鉄の三角形」の「利益」が打破された。

・このアイディアの概念は、90年代に入ると国際関係論、比較政治学において精緻化され、ゴー ルドスタインは「アイディア(idea)」を「研究及び調査によって得られた科学的知識を源泉とする、政策の進むべき方向及び手段に関する信念」として再定義した (Goldstein 1993)。

・つまり、このアイ ディアの概念には単なる「理念」だけでなく、技術的手段まで含むものである。「世界観」や「道義的信念(principled beliefs)」といった規範的なレベルと、政策目標を達成するための技術的手段に関する指針である「因果的信念(causalbeliefs)」といった手段的なレベルとがある。

 若者政策でいえば、道義的信念とは、若者の出番がないのは不合理であるという規範あるいは若者政策のパラダイム、因果的信念とは、若者が集まる若者議会のような仕組み、アクターとは、市長などであろう。

・このアイディアが政策決定において,とりわけアクターの行動にいかなる影響を及ぼすかでは、
①行動指針 (roadmaps)の提供
②協調行動としての焦点(focalpoints)の提供
③制度化による制約
という3つが指摘されている。

・第一の行動指針の提供とは、ロードマップである。アイディアによってアクターが目標や目的手段関係に関して明確に把握できるようになるということである。青写真が示されて、アクターが進むべき方向が提示され、安心して取り込めるようになるということである。

・第二の協調行動としての焦点(focalpoints)の提供とは、アイディアによって協同的な解決策を図ろうという認識コミュニティが形成され、それが新たな政策アイディアを提供することによって、新しい政策が生まれてくる。要するに、仲間、応援団である。

・ 第三の制度化による制約とは、制度への「埋め込み(embeddedness)」という形でアイディアが制度の根幹を形成すると、政策決定に影響を及ぼすということである(Goldstein and Keohane 1993, Skogstad 1998)。簡単にいえば、制度の中に組み込まれることによって制度の安定化に資するといった役割を果たすことになる(Blyth2002:34-5)。

・そして、その埋め込みによって、アイディアが実行されるための組織的サポートが与えられ(Goldstein1993,Yee1996)、更に「政策遺産(policylegacies)」の概念に示されるように、制度化されたアイディアが次の政策選択においても影響を及ぼすのである (Weir and Skocpol, 1985)。これは自治基本条例がその例といえる。

・「アイディアの政治」では、アイディアが持つ「説得力」だけではなく、アイディアの「推進者」が注目される。アイディアは直接、もしくは推進者を媒介して政策決定者を「説得」し、政策に反映されるのである。

 ここでの関心は、私のような研究者の役割は何かである。
・アイディアを提起
・リーダーを含めた認識コミュニティができるか
・ロードマップや制度化のアイディアが出せるかである。

 私は、統一地方選挙の前に、これはという政策提案本を書いてきたが、これは「推進者」の立場からである。

 これを実証的に説明するのは難しいだろう。例えば、新城市の若者政策に与えた私の影響を定量的に、定性的にも、示すことは難しいだろう。松下先生のお陰ですと、証言があっても、それは、「その場をかぎりの儀礼的な話」かもしれないからである。ここが政策アイディア論の弱点なのだろうが、うまく実証はできないけれども、いいところをついている理論のように思う。
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