松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆氏名公表の実際⑪ 大阪市ヘイト条例は制裁的公表なのか

2020-05-08 | 氏名公表
 大阪市ヘイト条例は、制裁的公表なのか。もしかして、間違っているかもしれないが、興味深い議論。

 関連するのは、行政手続法で、(行政指導の一般原則)として、
 第三十二条  行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、いやしくも当該行政機関の任務又は所掌事務の範囲を逸脱してはならないこと及び行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければならない。
2  行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。

 氏名公表には、制裁的公表と情報提供的公表がある。制裁的公表は、行政指導して、勧告するが、言うことを聞かないので、一種の罰として氏名公表をするものである。

 「制裁的公表」は、行政処分ではないが、その不利益性に着目するならば、行政手続法にいう行政指導不服従に対する不利益取扱いに該当するとも考えられるため、一定の手続的保障が必要であると考えるのが常識であろう。他方、「情報提供(とりわけ緊急性がある場合など)」の場合は、必要ではないと考えられる。

 情報提供でも、結果として、不利益な取扱いになるが、なお、「ここでいう『不利益な取扱い』というのは、単に相手方にとって客観的に不利益な措置ということではなく、『不当な取扱い』、すなわち、報復的ないし制裁的な意図をもったもの、間接的に相手方に強制として機能するものに限定されるとも解される(小早川編『逐条研究』269頁)」と考えると、情報提供的氏名公表は、不利益な取扱いとは言えないという論拠になる。

 あらためて大阪市の条例を見てみよう(鑑定団的言い方)
 
 5条第1項に規定する表現内容の拡散防止の措置及び認識等の公表は、表現の対象とされた特定人等である市民等からの申出によって行うほか、市に寄せられた情報提供を契機として職権で行うこともある。

 5条3項は、「市長は、第1項の規定による公表をしようとするときは、あらかじめ、当該公表に係るヘイトスピーチを行ったものに公表の内容及び理由を通知するとともに、相当の期間を定めて、意見を述べるとともに有利な証拠を提出する機会を与えなければならない。」
 
 公表に当たっては、市長が当該ヘイトスピーチを行ったものに公表しようとする内容及び理由を通知した上で、意見を述べ、自己に有利な証拠を提出する機会(以下「意見提出等の機会」)を付与しなければならない。

 条例5条の解説では、「認識等の公表を行う目的は、ヘイトスピーチと認定した表現活動について、ヘイトスピーチに該当するものであるとの認識、事案の概要、表現内容の拡散防止のために講じた措置、ヘイトスピーチを行ったものの氏名又は名称を公表することで、大阪市がヘイトスピーチは人権侵害であり許さないという姿勢を対外的に示し、社会的な批判を惹起しその抑止につなげることです」としている。

 これから見ると、不謹慎な行為をあらためさせる(ヘイト表現を削除させる)というつくりではなく、ヘイトという侵害事実があったことを示し、市として、こういうことは許さないという姿勢を表したものというつくりである。だから、もうやりません、削除しますというのは、直接的には、公表しない理由にはならないということになろう。

 その意味、淡々としていて、迫力がある。高倉健が、冬の華で、理不尽な暴力団員をコテンパに痛めつけるが、顔色一つ変えないで、めちゃめちゃ、ぼこぼこにするから迫力がある。そんな感じか。

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