100床の重症ベッドの箱ができました。一般病院でしたら適切なスタッフが基本的にいません。集中治療医はまずいません。呼吸器内科医も偏在が多い科です。いるとは限りません。そこで、どの科が担当するか?どの医者が中心になって診るか?から話し合わなければなりません。そのような中で、社会状況や患者さんの行き場がない状況を目にして、一般病院はやむにやまれずなんとか重症ベッドを拡張してもいるのです。
その点、担当科、担当医師に関して、また専門医に関して、さらには担当する医師数に関しても、大学病院は医師の心配をする必要が全くありません。何と言っても全科そろっています。全科が必ずそろっている病院は大学病院以外にはないでしょう。そこには、一般病院にはいない集中治療医が必ずいるでしょう。しかも、ふつうに複数人いるはずです。さらには、呼吸器内科医も必ずいます。呼吸器内科として医局をつくっていて(呼吸器内科の医局がない大学病院はないでしょう)、市中病院より多くそろっていることでしょう。さらには救急医や総合診療医もいるでしょう。彼らもコロナの重症患者を担当できる実力を持ちます。さらに麻酔科が大量の医局員をかかえて仕事をしているでしょう。人工呼吸管理できる医師をわざわざ探さなくても、山のようにいます。さらには感染症の専門医もいるでしょう。彼らは重症管理は苦手かもしれませんが、適切で完璧なゾーニングを仕切ってくれるでしょう。感染対策として、スタッフの安全確保も十二分です。
どうでしょう?こういう病院がなぜ大量の重症ベッドをつくっていないか、不思議に思えてきませんか?同じ社会状況や患者さんの行き場がない状況、医療崩壊が起きている状況を見ているにもかかわらず、一体何をしているのだろう?って思えてきませんか?設備?設備だって超一流ではないですか。
公的病院で仕事をしている私の現場感覚からすると、この状況下においても、なぜ他人事のように、まるで一般病院と同じであるかのごとく、せいぜい病院の片隅に10〜20床程度の重症ベッドを作って満足しているのか、そんな対応で平然としているのか、大いに疑問を持つものです。なにしろ、医療崩壊に値する出来事まで起きているのです。
彼らの力を持ってすれば、重症ベッド100床など余裕です。人工呼吸器などは政治の力で今の政府だったら準備してくれるでしょう。集中治療医、呼吸器内科医、救急医、総合診療医、麻酔科医をチーフとし、例えば臨床全科から3人ずつスタッフを供出すれば、チーフ達と合わせてあっという間に60人ほどのコロナの専門医師集団ができます。集中治療が苦手な科であっても、医師として研修しているわけですから、指示があれば人工呼吸器を動かせますし、患者さんの状態把握も十分です。人工呼吸器さえあれば、150床だって、彼らには動かせる力があるでしょう。もともと研修医を手足として使って上手に教育しながらICUは動いています。教育に関して、彼らはそれこそプロです。手足となって働いてもらう各科からの医師だって、研修医より上です。そのうち自分で人工呼吸器や重症管理をマスターして、チーフ達から指示される前に担当患者の治療方針を適切にプランニングしてみせるようになるでしょう。重症患者を診れる医師数がどんどん増えていきます。そうすれば、日常診療の中で重症患者を診ていて疲弊している一般病院へ彼らを手伝いとして派遣すればいいのです。時間がすすめばすすむほど、実力のある医師が増え、医療が底上げされるだけでなく分厚くなっていきます。そのことで、医療者個人の負担も減っていきます。合理的でいいことずくめです。
これが本来あるべき姿ではないでしょうか?
これは現実に可能な話です。私は夢物語を話している気はさらさらありません。
そんなに大量の患者さんを集めて、治療評価としてのPCR検査を適宜できますか?院内クラスター対策はできますか?と考える人は、思考の深い人です。でも、心配いりません。大学病院には、何十台も、下手をすると100台単位のPCR機器があります。一般病院のように、臨床検査科(病院の検査施設)にばかり頼る必要もないのです。
大学病院には、それこそウイルス学教室など、いわゆる基礎研究室が数多あります。基礎研究者にとってPCRは基本のきです。研究室にPCRの機器を持たない研究室などないでしょう。あくまで有事なのです。緊急性のない研究は猶予期間をおき、少なくとも医療崩壊事象がなくなるまで、コロナ診療に全学で力を尽くしましょうという事態なのです。研究をバカにしているのではありません。有事を自覚しよう、ということです。
さらに臨床の各科にも大学院生がいて、彼らの研究のためにだいたいPCRの機械があります。臨床検査室のみでなく、全学で協力して検査するとなれば、内部だけでどれだけたくさんの検査ができることか。PCRの機械をやっと補助金で買ってもらって、検査室の技師さんに覚えてもらって、日に100件にも満たない検査数を青色吐息でやってもらう、なんて一般病院の環境と大きく異なるのです。機械もあって、PCRをできる技術者も山のようにいるのです。院内クラスターを防ぐための入院患者さんの検査や、職員の検査などもなんだったらそれぞれの科でもできてしまうのです。こんなに院内クラスター対策が可能な病院も市中にはありません。
さらには、臨床各科の大学院生は医師免許を持っています。研修が終了して、数年経って大学院に入れられて、本当は臨床がやりたいのに、臨床から引き剥がされて、医局のため、教授のため研究している者も大勢です。研究に猶予を与えれば、喜んで現場で働くものも多数います。彼らにとってみれば、集中治療を学ぶチャンスです。さらに、コロナ診療に向き合ったという誇りはプライスレスで、一生彼らの医師人生を深いところで支えてくれるでしょう。このように、大学病院は掘れば掘るほど人材も出てきます。
どうでしょう?こういう施設が沈黙していることをどうお感じでしょうか?
このことを知った上で、たとえば先に例として出した北の大学病院のこととかを聞いたら、どう思うでしょうか?私が、思わず急いで即席味噌汁を作って、怒りの気持ちを落ち着けようとしたことも、納得してもらえませんか?
そもそも、大学病院は、一般病院と違って、来院される患者さんの数に合わせてスタッフ数が決められているわけではありません。大学病院であり、教育機関ですから、文科省の教員でもあり、普段から潤沢なスタッフで仕事をしています。それは、いわゆる教授回診なるものを思い浮かべて貰えばいいでしょう。さらに最近は、関連病院の一部を大学化と称して支配下に起き(大学とすればスタッフ数を増やせもするわけです)、田舎の病院から医局員を引き揚げさせ、スタッフ数をさらに潤沢にしている大学もあるのです。日常診療に合わせた人員のみ確保されている一般病院とは、人員、人材、機材、設備等々、全く異なります。
それでも全く動かないとは、、、なんかだんだん腹が立ってきませんか?(しかも、動こうとした北の大学の病院長を、学長は解任しているのです)これでも、医療崩壊の元凶は民間病院だと思いますか?まだ一般病院の拡充に期待しますか?医療体制のひずみから漏れる音が大きくなって、限界に近づいているのが聞こえてきませんか?
繰り返しになりますが、今も重症ベッドを作っている大学病院はあると思います(重症ベッドを作っていないところはさらに論外です)。しかしそれは、せいぜい20床ほどではないでしょうか?それは救急科やICUに丸投げして、病院の片隅に重症ベッドを作って、それでコロナ患者を受け入れていますとしているものです。それはスタッフ数が限られた一般病院と同じやり方です。全学体制で、大学病院にしかできないコロナ専門の医師集団を作った大学を、寡聞にして私は知りません。
現状の大学病院のしている、まるで一般病院と同じような対応に関して言えば、丸投げされている救急科やICUがかわいそうです。大学病院の受け入れベッドが少ないことは、そこを担当している救急科やICUのチーフたちに報道のインタビューがされていて、彼らは気の毒でした。彼らだって、病院が一丸になって協力して多数の患者を受け入れたいはずだからです。報道はインタビューする人を間違っています。その大学の学長や理事長にインタビューしないといけません。なぜ全学体制でコロナ診療に協力しようとしないのですか?と。あなたの権力はなんのためにあるのですか?と、是非きいてほしいものです。
大学病院が全学で重症ベッドに対応する、、、とすれば、夢物語でもなんでもなく、100床単位の重症ベッドが、例えば東京の本郷に出現したとしましょう。本郷に出現すれば、それこそ東京のあちこちの大学病院も後を追うでしょう。東京全体で160床などという、スズメの涙のような重症ベッドが一気に増加し、病診連携が回復し、官民一体となった日本医療の力強さを、そのとき初めて感じることができるのではないでしょうか。そのとき稼働している重症ベッドは、完璧に稼働するはずです。日本の医療の力が思い存分発揮されたものになるはずです。
続きます。
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