少しだけ One for All

公的病院の勤務医です。新型コロナウイルスをテーマの中心として、医療現場から率直に綴りたいと思います。

新しいルール

2022-01-09 15:09:38 | 日記


 あらためまして、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
 
 1ヶ月ほどこのブログから離れていました。新型コロナウイルスの日本国内での感染が落ち着いて、ほっとしていました。COVID-19が周囲に存在しないというだけで、これほどまでに気持ちが落ち着くのか、と思いました。いかに気を張った日々を過ごしていたのかをあらためて知らされた思いでした。ああ、疲れていたんだなあ、と知るとともに、しばらく仕事場以外ではCOVID-19のことは考えたくない、と強く思いました。ワクチンの効果に依存した収束であり、本当の終息ではないことは知りながら、また次の波が来るまでのしばらくの間は、この収束した環境に甘えさせてもらって、いたずらにコロナに心を煩わされることのない仕事と生活をしばらくは過ごさせてもらおうと思いました。実際、この1ヶ月は、コロナについて特別に深刻なことをほとんど考えずに過ごすことができました。本当に心が癒されました。ありがたかったです。
 
 そして、その次の波がいよいよ始まってきたようです。「100日周期説」というのを言う人たちもいて、なんとなく100日間隔くらいで波のピークが来る(そしてだんだん短縮している)というものでした。「だから次の波は来年の1月中旬くらいだね。」って昨年の第5波が収束した後に、医療現場では冗談めかして言われたりしていました。
 その冗談が本当になりそうで、驚いています。
 
 年末年始の救急外来が落ち着いていたことが、わたしとしては何よりありがたいことでした。オミクロン株の爆発的な感染力は、海外でのニュースからわかるように圧倒的でしたから、もしも政府による迅速な入国制限がなかったら、今頃どうなっていたことか。
 救急部が単独で設置されているような大病院(そんな病院は各都道府県でも数えるほどしかありません)ならいざ知らず、一般病院でいきなり救急外来から混乱するのは本当に悲惨です。医療関係者にとっても、患者さんにとっても、地域社会にとっても、誰にとっても何一つとして全くいいことがありません。WIN-WINならぬ、徹底的なLOSE-LOSEです。医療は停止するは、感染は広がるは、病院は病院でなくなるは、地域社会は混乱するは、全くいいことがありません。もしも11月下旬に速やかに入国停止をしていなかったら、ダラダラと先延ばしにしていたら、間違いなくこの年末年始は悲惨だったことでしょう。落ち着いて年末年始の救急外来をすることができたこと、それだけでもこの毅然とした水際対策には感謝でした。
 
 今日、私の住んでいるところでは成人式をしています。中止することもなく、予定通り執り行われています。いくらオミクロン株に重症化率の低さが言われつつあろうとも、もしも年末年始に感染の混乱がきていたら、成人式は軒並み中止になっていたことと思われます。沖縄等々では中止するところもあるかもしれません。それは残念なことですが、多くの地域では、ぎりぎり間に合ったのではないかと思います。
 「水際対策ではオミクロン株の感染の入国は防げない。政府は何も学んでいない。せいぜい少し感染のピークが遅れるだけだ。意味がない。」と言っていた評論家(呆れたことになんと医学者までいました)たちは、自分達の考えの浅さを猛省すべきでしょう(ホントお気楽な人々だと思います)。感染が防げるなんて、そもそも誰も思っていませんし、ピークを遅らせて、確かな情報が集まるようになって対処ができる状態のところにピークを持っていこうとするための水際対策です。そんなこともわからないような人たちの発言は、ただ混乱させるためだけの無益なものです。彼や彼女らのいう通りにしていたら、いま幸せに執り行われている成人式は全て中止となっていたはずです。
 
 アメリカでは1日に100万人もの新規感染者数を記録したといいます。イギリスやフランス等々、きちんと情報を公開していくれる信頼できる国々で、多くの感染者数が報告されていますから、様々な有益な情報が時間とともに得られることが期待できます。
 南アフリカの素早い情報公開と、政府の毅然とした水際対策のおかげで、日本では感染のピークを遅らせることに成功しました。その時間差で得られた情報では、当初の南アフリカからの報告のように、重症化率が低いことがうかがい知れてきているようです。そうした新しい情報を活かして、新しいウィズコロナの生活様式を提案するフェーズに移ってきている雰囲気を感じています。成人式は多くの地域でできたことでしょう。これから受験シーズンや、新しい就職のためのシーズンに入ります。新しい情報から打ち出される新たな方針や対策が、受験や就職という、前途ある若者たちの道を守るのに間に合うことを切に祈っています。
 
 振り返ってみれば、デルタ株は最凶でした。感染力が強い上に、病原性も高く、重症化率も高いという、最高に凶々しい変異株がデルタ株でした。もしもワクチンがなかったら、とんでもない悲劇的な状況になっていたと考えられます。mRNAワクチンがあったことは、本当に幸運なことでした。
 このままだと、わたしたちはそんなデルタ株と共存しないといけないところでした。ところがオミクロン株が登場してきてくれました。コロナウイルスの世界は、感染力の強さが天下を決めます。デルタ株も、それまでの変異株に比べ感染力が脅威的に強かったため、世界のコロナ感染の99%はデルタ株と言われるまでにコロナ感染の世界を制圧していました。そんなデルタ株の感染力を上回る変異株の登場はなかなか困難だと考えられていたところに、なんとそれを上回る感染力を持つ変異株が現れてくれたのです。そのおかげでわたしたちはデルタ株とはさよならできる幸運を得たとも言えるのです。

 感染力の強さを武器に、オミクロン株がデルタ株を着々と葬っています。ほどなくデルタ株は淘汰され、オミクロン株だけの世界になることでしょう。わたしたちは、これからはオミクロン株と共存することになります。新しい知見を整理して積み重ね、オミクロン株との新たな共存ルールをつくっていくことが必要になります。その時、オミクロン株の病原性がデルタ株に比べて低ければ、デルタ株との共存ルールよりは自由度が広がることになるでしょう。そうなることを強く願っています。

 本年も、マイペースとはなりますが、記事を一つ一つあげていけたらと考えています。おいやでなければ、どうかお付き合いください。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
コメント
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