デルタ株について、
「ブレイクスルー感染があり得ること、ブレイクスルー感染者が(ウイルスを排出する期間が短くなり未接種者に比べ相対的にリスクは低下している可能性はあるものの)二次感染を引き起こし得ることを示している」
という国立感染症研究所からの文書を前回お示ししました。
「ワクチン接種をしても感染はするし、感染すれば人にも感染させると思われます。(感染させる期間や頻度は減少する可能性はあるけれど)」
と言われたわけです。デルタ株のブレイクスルー感染に関して、これが現時点で日本で公式に示された最新の知見だと思います。
この事実はなかなかのインパクトがあって、「じゃあなんのためにワクチンを接種したの?」と思われる人もいるだろうと思います。実際、厚労省もそのことを不安に感じたのか、感染研がこの文書を発表する前日に、ブレイクスルー感染とワクチン接種や感染対策の必要性を訴えたQ&Aを公開しています。
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/column/0006.html
*この発表とは別に、筆者は、今回の急激な収束は、ワクチンがデルタ株の毒性を(ワクチン接種者に対しては確実に)弱毒化させた結果、デルタ株に終息株(という言葉を作ってみました(笑?))の働きを一時的にせよさせたのではないか、と推察しました。そうしたことを前章の「新型コロナウイルス ―-見えはじめたかもしれない光―- 1~4」で記載しました。一度目を通してみていただけたら、筆者望外の喜びです。ここまで収束する前に書きましたから、書いた後もさらに収束が進んで感染者数が安定しているのは、やはりそうした側面があるのでは、と思っています。そのように考えていますから、ワクチン接種の意味は間違いなくあり、今回のこの収束はワクチン接種に一生懸命取り組んだ(とくに短期間に)結果得られた恩恵だと思っています。閑話休題。
ワクチン接種をした段階では、ワクチンの予防効果は95%と言われて、感染しないし、感染させなくなると信じた人が多かったと思います。ところが、デルタ株に置き換わって、デルタ株ではブレイクスルー感染があることが明らかになったわけです。常識が変更されたわけです。
この視点で眺めると、これまで考えていたことのいくつかが、違った様相で見え始めてきます。
この視点で、海外で積極的に用いられている、入店規制や入場規制について検証してみます。入店や入場のために必要なのは、「ワクチンの接種証明」か「PCR検査の陰性証明」とされています。これだと自然に、ワクチン既接種者は「ワクチンの接種証明」を提示するでしょうし、ワクチン未接種者は「PCR検査の陰性証明」を提示するでしょう。
ワクチン既接種者の「ワクチンの接種証明」とワクチン未接種者の「PCR検査の陰性証明」は、はたして同列になるものでしょうか?
おそらく、まだデルタ株のブレイクスルー感染がなかった頃なら、「ワクチンの接種証明」と「PCR検査の陰性証明」は、同列で並べることができて、同じ空間で楽しめることができたのでしょう。しかし、感染の主流がデルタ株になり、ブレイクスルー感染が生まれるようになってからは、この両者を同列に並べるのは取扱注意になるはずです。
例えば、上記のような入店規制のお店に、「ワクチンの接種証明」か「PCR検査の陰性証明」で入店したとしましょう。ワクチン既接種者は、ブレイクスルー感染していたり、ブレイクスルー感染をその場でしたとしても、ワクチンによって重症化率が抑えられているため、本人には深刻な問題にはなりにくいと考えられます。ところが、ワクチン未接種者にとってはどうでしょう?「PCR検査の陰性証明」を提示して入場したとしても、「PCR検査の陰性証明」は重症化を抑制しませんし、感染の予防もしてくれません。感染すれば、従来株より凶悪に変異しているデルタ株の凶暴な毒性をそのまま受け止めることになります。ワクチン既接種者の中にブレイクスルー感染をしている無症状者がいた場合、大変危険なことになりますが、その危険性については全く考えられていません。
そう考えると、海外がそれまでの流れを変更せず、ワクチン既接種者の「ワクチンの接種証明」とワクチン未接種者の「PCR検査の陰性証明」を元に同じ空間に両者を入れて、そしてマスクを着用する等の感染対策もせずにいた結果、感染者数が爆発的に増えたこと、集中治療室がワクチン未接種者ばかりになったこと、はなるべくしてなった帰結のように感じられてしまいます。
さらに考えれば、その店でのワクチン未接種者の「PCR検査の陰性証明」は、ワクチン既接種者にとってはあまり意味がありません。極端な話、既に「ワクチンの接種証明」で入った中にブレイクスルー感染者がいるかもしれないのですから。未接種者の中に感染者がいようがいるまいが、もはや考えてもあまり意味がないかもしれません。『PCR検査の陰性証明」の意味は、ないよりあったらよりいいよ、くらいかもしれません。そのように考えると、ワクチン未接種者の「PCR検査の陰性証明」は、入店しているワクチン未接種者同士の感染を防ぐ意味合いしかないことになります。でも、店中の客が普通にブレイクスルー感染者のリスクにはさらされているのです。
ブレイクスルー感染は、デルタ株の「罠」です。デルタ株では、ワクチン接種の有無に関わらず、感染のリスクはなくならずに存在し続けていたのです。
海外と同じように、PCR検査の陰性証明を見せれば、ワクチン既接種者と同じように入場させるべきだ、と主張する日本の評論家等も散見します。同じ流れで、ワクチン未接種者のことを考えるべきだ、と言っていたりします。その人たちは本当にワクチン未接種者の安全を考えているのだろうか?と疑問に思ってしまいます。
誤解のないように、私はこのことからみんながワクチン接種をすべきだ、と言っている訳ではありません。医師としては、目の前に、ワクチンを接種した人と接種していない人がいる、という事実が大切です。ワクチン既接種者が7割を超えたと聞きます。ワクチン既接種者が作る集団免疫の壁が、ワクチン未接種者を守ることができたら最高だと考えています。海外の流れを安易に汲んで、ワクチン既接種者の「ワクチンの接種証明」とワクチン未接種者の「PCR検査の陰性証明」を同列に並べて経済を回そうとすることは、集団免疫の壁でワクチン未接種者を守る流れを逆流させる危険性があり、大きな危険を伴うことを海外から学んで欲しいと思ったものでした。
長くなって申し訳ありません。
もう少し続けるつもりです。
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