大学病院は、本当に大学病院でしかできない医療しかやっていないのか?という話でした。(言い忘れましたが、私はその北の大学には全く関係ありません。中部地方の勤務医です。ですから、北の大学のその闘いをアピールするためや、その大学内のなにか政治的な意図を画策して、この文章を書いているわけでも全くありません。とてもわかりやすい例だったので、取り上げさせてもらっているだけです。)
前章(5)でふれたように、日帰りの白内障手術は大学病院でする必要があるでしょうか?合併症があったり、再手術だったり、アレルギーがあったり、そうした人はもしかしたら民間病院ではない方がよいかもしれません。でも、そうした人はそもそも日帰り手術の対象ではないです。しかもそうした人たちすら、私たちのような公的病院でも十分に手術できるのです。日帰りの白内障手術を大学病院でなければならない理由は全くありません。
では、大学でやらないようになったら、周囲の病院であふれてしまうのでは?もしそうであれば、医局員なり術者なりを派遣すればいいのです。大学の中にたくさんの医局員を蓄えているのですから。そして、そもそも関連病院に医局員を派遣しているわけですから。大学で手術がなくなった分、医局員を補充に外に出せばいいだけです。受け入れる側の病院は、手術症例数が増えて、大喜びです。
これと同じ構造が、他の疾患にも言えます。
例えば、骨折の手術をどうしても大学病院でしなければいけませんか?売り上げのためにやっていませんか?他の関連病院でやれませんか?そこが忙しいなら、同じことで医局員ごと派遣すればいいのです。受け入れ先は大喜びで、最大限の準備をすることでしょう。
例えば手術だったら、ロボット手術すら、今、大学でしないといけませんか?例えば、私の勤務している公的病院でもできます。患者さんを紹介していただけたら、病院は大歓迎でしょう。大学の教授の執刀をご希望なら、教授ごと来ていただいて大歓迎です。私の病院としては、コロナが収束するまで、ずっと教授の手術は当院でやっていただいたら大喜びです。三顧の礼でお迎えするでしょう。
関連病院に症例を振り分けれること、これも大学病院の力です。医局というものを持っているからです。それに比べて、コロナ診療のために、都立病院や大阪市立病院を空にするのにどれだけの労力を必要としたでしょうか?半ば強引な転院です。全く関連のない医師のところに紹介しないといけない場合もあったことでしょう。大学病院から関連病院への転院なり、症例の移動であれば、同じ医局内の移動です。知ったスタッフが担当します。医療の質もより担保されやすいでしょう。
本当に大学病院でなければいけない、という医療が今どれだけあるでしょうか?その先生でしか診ることができない、というなら、その先生の診察室を関連病院に一時的に移せませんか?東京大学付属病院から、国立がんセンターにがんの診療を移管したら医療レベルが落ちますか?大阪大学付属病院から、国立循環器病研究センターに循環器の病を移管したら医療レベルが落ちますか?
大学病院で白内障の手術ができないと、医療崩壊ですか?大学病院で骨折の手術ができなかったら、医療崩壊ですか?
もちろん、本当に大学病院でなければ、という医療もあるでしょう。ただ、それはおそらく世間一般の方が思っているよりはるかに少ないはずです。どうしても例えば白内障の手術をやると言うのなら(なんかやると言いそうです。しかも周囲もやらせそう。)第三者を交えた評価委員会を作って、今この非常時に大学病院ですべき手術かを判定して指導する仕組みを作ればよいでしょう。
意外でしょうか?大学病院の病床は空けることができます。やる気があるかないかだけです。トップが決断して、その下にいる各科の長(教授たちですね)が動けば、都立病院や市立病院に空床を作るのよりもはるかに軋轢少なく、しかも現状の医療体制を保ったまま病床を空けることができます。
これが本来の構築するべき日本のこの非常時の医療体制のかたちだと私は考えます。一般病院の日常診療のレベルの高さが日本医療の持ち味です。大学病院の日常診療を周辺病院で受け持ち、大学病院に空床を作り、そこに規模の大きな高水準のコロナ診療センターを設置すること。それが医療の水の流れに沿った、自然な流れです。大学病院は全都道府県にありますから、構築も容易のはずです。大学病院を一般病院のように扱っていることが、そもそも持っている医療体制全体を破壊してしまっているのです。
100床の重症ベッドの「箱」ができました。夢物語に思えますか?やるか、やらないかだけです。忘れないでください。あくまで非常時なのです。国難です。(4)で書かせてもらった、重症ベッドでボトルネックが生じている状態をなくして、官民一体となった日本の医療体制の力強さを取り戻すためなのです。
次は中身の話です。中身も申し分ないものができます。
続きます。