世間の方々と同じように、公的病院勤務の私も、今のコロナ診療のシステムに閉塞感や息苦しさを感じています。場当たり的で、発展性が感じられず、加えて、すぐに飽和してしまうシステムだからです。本来、この国難に国運をゆだねるようなシステムにはとても思えません。
私には、大切なことがすっぽりと抜け落ちてしまっているひずんだ現実に見えます。そのひずみがこの場当たり的なシステムを生んでいる元凶だと今は確信しています。この一連の拙文が、多くの人たちの目がその元凶に向く一助になることを願っています。その結果、このひずみが解消され、日本の才能ある医療資源が適材適所に配置された医療体制、本来あるべき希望ある医療体制に一刻も早く生まれ変わることを願っています。
そのことをご理解いただくために、最初に「重症ベッドが圧倒的に足りない」状況をお話ししたいと思います。文章が回りくどかったり、長かったりしたら、「重症ベッドが圧倒的に足りないんだ」と思って、遠慮なく次章(3)へ跳んでください。お時間のある方は是非お付き合いください。
ここでは厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症 診療の手引き 第4版」から数字を引きます。新型コロナウイルス感染症は、
- 軽症のまま(風邪症状、嗅覚味覚障害等のみ)治癒する人:80%
- 呼吸困難や咳など肺炎症状が増悪し、中等症以上に進む人:20%
- 人工呼吸器など集中治療管理が必要となる重症まで進行する人:5%
です。ですから、例えば東京都で毎日2000人の新規感染者が発表されていたときには、ざっくりと考えて、その中の5%、すなわち100人が2週間後までに重症になっていると予測できていたことになります。1週間ずっと毎日2000人の感染者が生まれれば、1週間の感染者総数は14000人となり、その5%である700人の重症者を生みだす予測になります。それが翌週も続くとなると、、、感染者を日々すごい勢いで増やしていくと、すさまじい数字となることがわかると思います。
では、現実の東京都の重症ベッドの数は何床でしょうか?HPによると、これを書いている2/1時点で265床です。265床、、、少ない、と感じませんか?先の数字で言うと、ざっくりと1000床くらいは必要だと思いませんか?
実際の患者数はどうなっているでしょうか?Yahoo ! のコロナ患者数のページによると、2/1時点の東京の感染者数(総感染者数から治療が必要なくなった人(治癒した人や亡くなった人)を引いた人数)は13257人です。13257の5%は663です。265では圧倒的に足りないことになります。あくまで極めて単純化した計算で、実際はベッドの占有期間等々が計算には必要になりますが、それにしても圧倒的に足りないのはわかっていただけるのではないでしょうか。さらには患者さんはここでストップするわけではなく、後から後からやってくるわけです。
ところが現実はさらに過酷です。この265床でさえ数字のトリックが隠されている可能性があるのです。というのは、行政側が空床補償を支出しているベッド数をカウントしている可能性があります。その説明は長くなるのでここでは割愛しますが、要はゾーニングだったりスタッフ数と労力(コロナ治療は通常の2〜3倍の労力がかかるとされています)から、現実的にベッドはあるけれど、スタッフ数が限界だから入院させれませんよ、と病院が言っている病床も数に加えているかもしれないということです。(「箱がないから患者を受け入れられない。箱を作れ。」というような意見を耳にすることがありますが、それは今の現実を深く捉えていません。現状のシステム下では、「箱はあるけどスタッフがいない。診る人員がいないのだ。」が一般病院の医療現場から見た正しい現実の捉え方です)。実際に、HP上の1/27の東京都の重症者患者数は159人となっています。これだけ見るとあたかも重症ベッドが残り106床空いているように見え、余裕があるかのように感じてしまいますが、1週間前の1/20も重症患者数は160人で、しかもこの数がこれまでの最大数と記されています。ずっと横ばいなのです。ですから、数字上は重症ベッド数は265床となっているものの、現時点で、東京都の現実的な重症ベッド数は160床くらいが飽和数と考えてよいかと思われます。663(13257の5%)など遠く及ばず、1000床なんて夢のような数字です。でもこの新型コロナウイルス感染症は、少なくとも東京では、重症ベッド数4桁の医療設備が必要な疾患なのです。160や265などという数字ではとても闘えない疾患なのです。東京が重症ベッド数160で戦っている、、、これは驚愕の事実です。
では、あふれているに違いない重症者たちはどうしているのでしょうか。
私の周りの治療環境からの推測(私の職場は東京都ではありません)ですが、かなりの現実的なところで、綱渡りの管理が行われていると思います。なかなか申し上げにくいことですが、例えば高齢者だから重症管理を延命処置と考えて施行しないこととする(重症ベッドに転院しない)等々のことでやりくりをしているだろうことです。これが医療の逼迫です。患者さんの事情を優先できず、ベッド数の方が優先されざるをえない事態が生じている可能性が高く、そうなると、すでに命の選別が行なわれているようなものです。医療崩壊は重症ベッドのところでも起きているのです。
症例数に比して重症ベッドは圧倒的に足りておらず、今すぐにでも多くの重症ベッドが必要であることが理解していただけたら、と思います。重症ベッドがとにかく圧倒的に足りないのです。そして、現実的に160床、行政発表をすべて信じてみせてもせいぜい265床の重症ベッドで対応しているわけですから、すぐに医療は逼迫し、緊急事態宣言が必要になってしまうこともうなずけるのではないでしょうか。重症ベッド数160床なんて、この疾患と戦えるレベルじゃないのです。
東京のこのベッド数を知ったら、欧米はUnbelievable ! と言うことでしょう。160床という少ない数で戦っていること、東京にたった160床しか重症ベッドをつくらないことにUnbelievable ! と言うのです。そんな数でコントロールできるのか!?すごいな、、、。ところがコントロールができていないと知ると、こう言うでしょう。Crazy !
スウェーデンのカロリンスカ大学は、200床のICUを作ったといいます。海外のわずかひとつの大学病院の重症ベッド数にすら及ばないのです。言われても仕方ないでしょう。いかに160床が驚愕の少なさか(しかも世界有数の大都市で)、わかっていただけるのではないでしょうか。そして、民間病院の手上げを促す前に、この160床の中に、どれだけの大学病院の病床が入っているか、もっと言えば、東京都なら、東京大学付属病院の病床がどれだけ入っているか、私は精査すべきだと考えます。
続きます。
読んでくれている人がいると信じて。