美男子俱楽部

※単行本はBOOTHにて発売中。

理想郷

2024-05-03 | 

理想郷 ひとりベンチに坐ると

いつも隣には 精神病院が坐り込む

 

ある日 世界を憎んだとき

金のボールペンをこの丘から投げ飛ばす

その流線型はふわふわと飛んでいき

禿頭のおじさんの頭に突き刺さった

怒りと言うよりは 疑問である

謎と言うよりは 神秘であるように

そいつも世界を憎んだ

 

理想郷 ひとりベンチに坐ると

いつも隣には 精神病院が坐り込む

 

ある日の午後 世界を笑ったとき

苦しき自己嫌悪をこの胸から叩きつける

その渦は地面を跳ね返って

よく晴れた空の雨雲にこべりついた

良い人と言うよりは 都合の良い人である

世の中と言うよりは あなたの中であるように

そいつも世界を笑った

 

ある日の朝 世界を愛したとき

嘘発見器をこの窓から投げ飛ばす

その文明は真下に落ちていき

若いアベックの若者の股間にくっついた

若いと言うよりは 幼い

愛と言うよりは 馴れ合いであるように

そいつも世界を愛した

 

理想郷 ひとりベンチに坐ると

いつも隣には 精神病院が坐り込む

 

ある日の夜 世界を見つめたとき

銀の鏡をこの狂気の視線で叩き割る

その破片は勢いよく飛び散って

盲目の画家の目に突き刺さった

未来と言うよりは 今である

過去と言うよりは 今であるように

そいつも世界を見つめた

 

理想郷 ひとりベンチに坐ると

いつも隣には 精神病院が坐り込む

 

ある日 世界を憎んだとき

金のボールペンをこの丘から投げ飛ばす

その流線型はふわふわと飛んでいき

禿頭のおじさんの頭に突き刺さった

怒りと言うよりは 疑問である

謎と言うよりは 神秘であるように

そいつも世界を憎んだ

 

理想郷 ひとりベンチに坐ると

いつも隣には 精神病院が坐り込む

 

ある日の夕暮れ 世界を諦めたとき

金の夕日がおれの目に染みる

その涙は血まみれの手を引っ張って

明日を迎える水平線への道を教える

堕落という妥協の道を教える

幸わせの代償として

自分を捨てる事を教える

人にあわせる事を教える

教えると言うよりも 押し売る

育てると言うよりも 揃える

どこが教育なんだよ

そいつは逆に世界を引っ張った理想郷

そいつは逆に世界を引っ張った理想郷

 

ひとりベンチに坐ると

いつも隣には 精神病院が坐り込む

 

 

 

(『蓄音機』収録)

 

詩文集「蓄音機」(私家版) - 觜川 昷 - BOOTH

詩文集「蓄音機」(私家版) - 觜川 昷 - BOOTH

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