横断者のぶろぐ

ただの横断者。横断歩道を渡る際、片手を挙げるぼく。横断を試みては、へまばかり。ンで、最近はおウチで大人しい。

ある数学教師の目■恐るべき生徒 教師キラーの青木佳久君

2008-08-18 07:38:37 | Weblog
 青木佳久は、席順に課された宿題の、数学Ⅰのテキストの問題を黒板の上に計算過程と導き出された答とを書いて、自分の席に戻ろうとしていたところ、背後で、
「丸暗記して、答えを書き写した者がいる」
 と、数学教師の武藤の皮肉る声が聞こえた。

 その時の佳久は自分のことかと思ったが、「そういうテメーだって、すらすらと解いているではないか」と不満を持った。

 佳久は高校三年の新学期に、私立の福州工業高校から進学校では有名な修友高校に転入した生徒だった。
 武藤が単純に「お前のアタマで解ける問題ではない」と思ったのも無理からぬことである。

 福州工高時代の佳久は、不登校生徒だったが、大検合格を目指して独学で励んでいたところ、いつの間にか大学受験レベルの学力が身についていた。

 そんなことがあってか、佳久は武藤から何一つ学ぼうとは思わなかったし、武藤の方も佳久に対してことさらに教え込むことはなかった。

 いずれにしろ、佳久にとって学校教育とは、帯に短し、襷に長しであった。

 ある秋の日のこと、こんな簡単な問題もできぬのかと、武藤はいわゆる出来の悪い生徒を名指しで攻めていた。
 といっても、いつになくべたべたした授業のおかげで、教室の中は大盛況であった。
 そんな空気に動かされて、佳久がふと顔を上げ、黒板の上に書かれた不等式の問題に目を留め、すぐさま洗ってみると、元々の式が狂っているために答えが出ないことが分かった。
 それに要した時間は、2、3秒であったろうか。
 そこで彼はやんわりと指摘してやった。無論、お返しの意味もあった。

 すると武藤は、これまたすぐさま呑み込み、次の瞬間には、答えのある不等式の問題に作り変えていた。
 黒板に向けた顔を振り向きざま、「これでどうだ」と言わんばかりに佳久に向けられた、武藤の目は烈しい憎悪の炎で燃え上がっていた。


 佳久は翌春の大学受験に失敗した。
 武藤の目にかなうように、落ちてやったというべきであるかもしれぬ。


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