ササ/スズタケの一斉開花・枯死する一稔性
ササは一斉開花・枯死する一稔性植物と言われていますが、完全に枯死したと思われる群落のあとに小さな新芽を発見することがあります。スズタケにも同じようなことがいえます。しかし、この新芽は種子から発芽した単子葉とは思えないほど元気な芽です。(徳島県三嶺標高1400m付近 2013年撮影)
![]() 枯れたスズタケ 中央に小さな新芽 |
![]() 新芽は以外に大きく元気 |
ササやタケは地下茎を伸ばして増えていく植物で、種子による増殖は確たる周期はなく、100年くらいに1度と言われています。この花を咲かすときが実生による遺伝子更新のチャンスですが、毎年花を付ける他の植物に比べその機会は少なく、品種は多様化していません。
ササは育つ環境によって形を大きく変化させます。傾斜の緩い広々とした日当たりの良い場所ではササはノビノビ育ちますが、稜線近くの風衝地帯では枝分かれが多く、背丈を小さくし、まるで別の種類のササのような姿になります。
このブログで取り上げているような山地のササは、稈と葉身の成長が雪に左右されます。積雪量の多い場所では、ササは雪のおかげで寒さと強風から守られ、痛むことなく冬を越すことができます。一方、風衝地帯では雪は吹き飛ばされ、ササの上部が露出します。このような場合、ササの上部は枝分かれが多く、低い丈になります。
また、標高が2500mを越えるような場所に生えるササは、高山植物と同じで成長できる夏の期間が短く、矮性化しています。
ササ原のササが枯死するときは一度に全部枯れます。「四国のササ原」に紹介していますが、ササは数キロの範囲で同時に枯れます。これらのササは同じ個体なのでしょうか。実生株の集団であれば個体差があり、同じ環境でも同時に枯れることはないと考えられます。
ササやタケは地上部がすべて枯れても地下茎の一部が途切れ途切れに生き残っており(注1)、栄養繁殖が続いていると推察されます。
広大なササ原はどうやって形成されたのでしょうか。
ササが横に伸びる速さは1年で数十センチから1メートル程度です。1株のササからは、100年たってもせいぜい半径100メートルの広がりです。しかし、明治時代に伐採された森林の跡に数キロにおよぶ広大なササ原が現存している状況を考えると、森林の林床にはすでにササが生えていたものと思われます。(北海道サロベツ原野や礼文島の丘陵地は明治以降にトドマツなどの森林が伐採された跡にササ原となった。(注1))
樹木がなくなった山地はササにとって生育環境が好条件に変わります。疎らに生えていたササは密度を増し、山地はビッシリとササで埋め尽くされます。一度ササに覆われると、その場所に他の植物は育ちません。数十年の間はササ原の状態が続くものと考えられます。
徳島県石立山(1707m)山頂付近は一面ササ(スズタケと思われる)に被われていましたが、2006年春頃から枯れ始め2007年秋には完全に枯れてしまいました。しかし、2012現在、少しづつササの新芽が出始めました。枯死してから5年経ちます。今のところ他の植物の出現は見あたりません。いつかまたササ原になることでしょう。
同じような現象が次郎岌トンネルと新九郎山の間にある1646mの無名峰にもありました。山頂付近はイグサに覆われていますが、稜線のブナ林の下は枯れたササのままです。(2018年)
また、剣山-次郎岌、三嶺、石立山はそれぞれ10Kmぐらい離れていますが、稜線でつながっており、これらのスズタケは同時期に枯れたと思われます。
スズタケは枯れミヤマクマザサは枯れていない (剣山1600m付近 2011年撮影) |
左の写真の拡大
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高越寺のクマザサも枯れていました。このクマザサは、かつて寺の住職が何処からか移植したものと考えられますが、移植元のクマザサもきっと枯れていることでしょう。
![]() 高越寺のクマザサ (2000年頃 徳島県高越山) |
![]() ササは枯れている (2021年頃 左の写真と同じ場所) |
![]() 再生した新芽が出ている (2024年) |
![]() 宿坊の裏の斜面に生えていたササも枯れている |
ササが筍を地表に出すのは、古い葉が枯れる春から初夏にかけてです。筍は1年掛けてしっかりした稈を作ります。
ミヤコザサを除くと、その年もしくは2年目の晩秋に中間の節から小さな新芽を出します。これを冬芽と言います。種類によって上方から芽を出すササと下部から出すものがあります。チシマザサやミヤマクマザサは上方で分枝し、シナノザサは中程から分枝しています。冬芽は小さな芽の状態で冬を越します。大抵は雪の中で越冬し、保護されます。雪から外に出ている稈は強風や寒さのため枯れます。これは、高山帯に生えるハイマツと同じです。ハイマツの枝も雪で守られています。
春から初夏になると冬芽と地下茎から発生した新しい筍が一斉に芽吹き始めます。
![]() 越冬する冬芽 (11月下旬 剣山) |
![]() 地面と節から芽吹くミヤマクマザサ (5月下旬 剣山) |
![]() 古い葉の間から出てくる新しいササ (7月下旬 剣山) |
(注1) 参考図書 沼田眞 岩瀬徹 共著 図説 日本の植生 講談社