“ 願えば奇跡は―― 必ず。”
以前、東日本大震災の際の記事にて、某ゲームからの引用で、「願うだけでは 届かない想いを~」 と書きました。
願うだけでは 届かない、叶わない、もとい、叶うわけがない。 それが、願いというものの現実だと思っています。 そもそも、もう 私にとって、願い、祈るべき対象の 「神」 はいませんしね。
“ 願えば奇跡は―― 必ず。”
この文句が、劇場チラシのキャッチコピーであった、映画 『 いばらの王 -King of Thorn- 』 のレヴューです。
コミック:連載 2002年 - 2005年 全6巻完結 エンターブレイン刊 ビームコミックス
映画:劇場公開 2010年5月 DVD、BD発売 2010年10月
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劇場公開自体、2010年5月であり、DVD、BDも 同年10月に発売されており、「 今さら感 」 が強いと思います。
この映画の原作コミック 『 いばらの王 』 の作者は、私が気になっている人です。
原作者・岩原裕二氏は、以前に記事で扱った ゲーム 『 クーデルカ 』 のキャラクターデザインを担当し、ゲームとのコラボレーションで コミック化も手掛けた作家さんです。 その繋がりで、発売コミックを 買うかどうかはともかく、今でも その活動には 注目しています。
二次BL系同人誌を好む私から視ても、面白いタッチの絵柄です。 男性向けとしては、現在売れ筋である萌え系などではなく、媚びる感のない太い線画と、アメコミを日本人向けに アレンジした 好印象を受けます。
絵柄の受けがいいのか ( ストーリーと 程よいサスペンスは、間違いなく星4つ )、海外でもファンが多いとのこと。 全6巻分の原作を、映画の尺にまとめて映画化する―― そう、聞いた際には、素直に期待しました。
映画を観て気付いたことに、FF7ACなどにて セフィロスを演じた 森川智之氏も、主要キャラ マルコ・オーウェン役を演じていました。
ただ、映画の出来としては、ファンの欲目としても、けして 星5つではないのが、残念なところ。
では、映画のあらすじについて。
“ 2012年、人間の身体が石化していくという、謎の病気 『 Acquired Cellular Induration Syndrome ― 後天性体細胞硬化症候群― 』 が確認される。
発作が起き、発症すれば、体細胞のすべてが石化していく。 致死率は100%。 石化症状は抑制できず、助かる方法は、ない。
その症状から、ギリシャ神話を連想し、通称 『メドゥーサ』 と呼ばれるこの病気には、治療する方法はないのだ。
時間の無い感染者たちは、未来に 希望を求めた。
米国大手化学メーカー・ヴィナスゲート社が実用化した、コールドスリープカプセルセンター。
その施設にて、患者は 冷凍睡眠状態となり、治療法が確立するまで 患者自身の時間を止めるのだ。 ただし、未来に向けて 眠りにつくことができるのは、わずかに 160名のみ。
少女カスミは、その中の一名に選ばれる。
2015年10月13日、世界中から抽選で選ばれた 160名が冷凍睡眠に入る。 カスミもまた、眠りにつく。 双子の姉・シズクを残して――。
―― そして、冷凍睡眠が解除された。 目覚めるのは、メドゥーサの治療が可能になった時代のはず。
しかし、眠りから覚めた患者たちが目にしたものは、いたるところ施設内部にはびこる イバラのツタ。
センターの係員たちは、いなくなっている。
さらには、彼らを喰おうとする 異形の怪物たちのが襲い掛かってくる。
彼らは、たちどころに数を減らし、カスミを含めた、わずか7名のみが残る。
眠りについて、どれだけの時間が経ったのか。 外部の状況は、全く分からない。
人類は、奇病メドゥーサで、すべて石となってしまったのか。 それとも、彼らも目にした怪物たちによって、滅んでしまったのか。
とにかく、カスミたちは、施設から脱出することを、当面の目的として 動き始める――。”
まぁ、allcinemaや ウィキでも読んでいただけば 事は足ります。
予告編については、youtube をどうぞ。
主題歌が、MISIAによる 『 EDGE OF THIS WORLD 』であり、まさしく 世界の終わりが来てしまったかのような 劇中世界観と巧く噛み合っており、テンポよい予告でした。
ただし、昨今の映画予告の例にもれず、作品内容とは 6割方 噛み合っていない。
加えて、本編ストーリーも かなり難解でした。
予告編にあった 主要キャラ・マルコによる 「 世界は滅びたって言ってるだろぉ!! 」 のセリフが、作中のストーリーと 矛盾していたことから、原作既読の私も、一回だけでは内容を理解しきれませんでした。 何か見落としでもしたかと、逆に不安になったくらい。
それで、繰り返し観る。 そして、3回目で納得、4回目で原作からの変更点などを考えて楽しんだくらいです。
話が、容易に理解できず、すぅっと心に沁み入らないというのは、問題です。
原作未読の観客は、一回観るだけという方も多いでしょうから、辛い点が付いたのではないかと容易に推し量れます。
ストーリーガイドとして公式に制作された動画があり、今でも閲覧できますが、伏線が多すぎ、回収しきれなかったきらいもあります。
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―― では、以下は、ネタバレ、また、私なりの解釈を前提として、私なりのレヴューを。
メドゥーサに感染している人間は、その精神、心、想い ( あるいは憎しみ、怖れ )の強さに応じて、「 オルタナティブ 」 と呼ばれる生命体を 産み出すことができる。
実のところ、それこそが、メドゥーサを克服する方法であり、それができない感染者には、石化症状が待っているだけ。
オルタナティブを産み出せる感染者を、作中では 「 適合者 」 と呼んでおり、 ヴィナスゲート社は 世界中から適合者を探し出すために、160名の 「 適合者候補 」 を選りすぐるために、コールドスリープカプセルセンターを建造した。
ヴィナスゲートの研究者たちが狂喜したほどの、最高ランクの適合者は、カスミの姉・シズクであった。
妹は冷凍睡眠資格者に選ばれたのに、彼女自身は、その選から落ちていたのは皮肉である。
ラボに運び込まれた時、シズクは、ある理由から、心の状態が 危険なまでに不安定だった。 それは、オルタナティブを 次々と産み出せるほどであった。 研究者たちは、シズクを眠らせ、コンピューター制御によって彼女の夢を操作し、理想のオルタナティブを誕生させようとする実験を開始した。
彼らは、理想の設計を施したオルタナティブを誕生させることで、人類を新たなステージへと、人類を人為的に進化させようとしていた。
だが、アクシデントが発生し、シズクの心を制御できなくなったため、実験は失敗する。
暴走したシズクは、棘を持ち 太くどこまでも伸びるイバラで、施設中を覆い尽くす。 それは、自身に近づく者をイバラで絡めとり 拒絶したという 寓話『 いばら姫 』 を彷彿とさせた。
また、獰猛な怪物たちをも産み出していき、センターの中の所員、患者関係無しに 喰い殺させていく。
自分以外の何者をも、拒絶するかのように。
―― シズクが、オルタナティブを産み出せるまでに、精神状態が 強く かつ不安定になっていたのは、自分の手で 実妹カスミを 崖から突き落とし殺してしまったため。
それは、故意でなく、事故。 シズクが悪いわけではないが、妹を殺したことで、彼女の心は狂乱し、その力でメドゥーサによるオルタナティブが産み出されていく。
そして、彼女は、自身が殺してしまった 「 カスミ 」 を、オルタナティブとして 新たに創造する。
意識・容姿は、オリジナルのカスミそのままに。 ただ、事故直前の記憶のみを改竄して――。
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観客が 主人公として観ていた 少女 カスミ・イシキは、姉によって産み出されたオルタナティブであり―― 「 人間ではなかった 」 というところ。
これは、面白かったと思います。
怪物や イバラが跋扈する施設内。 自身の命も危ういのに、オリジナルのカスミそのままに、姉のシズクの安否を心配する。
また、同じ生存者6名の仲間を気遣い、施設から生きて脱出するよう協力する。
性格もよく、素直なお嬢さんだと思います。 生徒として実在すれば、優等生として優遇しましょう。
けれど、彼女は、シズクによって産み出されたオルタナティブだった。
気になることは、彼女のすべては、シズクの想いで産み出されたものということ。「 こうあって欲しい 」 と願う 「 理想の妹・カスミ 」 であったのかもしれない。
臓器移植の供給源としてのヒトクローン ( 個体としてではなく、体細胞として ) には、たいへん魅力があります。
個体にさえしなければ、倫理的に問題無しとするモノの見方にもまた、興味があります。
荒唐無稽ですが、クローン体の寿命を オリジナルとほぼ同一にまで伸ばせられるのならば、記憶と意識の複製も可能であるのならば、ヒトの不死も夢物語ではない。
記憶と意識の複製に関して、作中のオルタナティブ=カスミの 保有する 人格―― 意識・記憶は、オリジナルのものと 同一なのか、シズクにとって、都合のよいモノになっているのではないか。
カスミが、オルタナティブであったということは、原作同様に ラスト直前で明かされますが、これはいい意味でひっかけだと思います。
フェアかアンフェアかはともかく、“ 作中のどの時点で、オリジナルとオルタナティブが入れ替わったのか。 また、その後のネタの仕込みは? ” という視点も、面白い。 シナリオとして、大いにアリだと思います。 そのために、ストーリーが複雑にはなっていますが…。
ヒトタイプのオルタナティブは、映画では、いま一体登場します。
アイヴァン・コラル・ヴェガという、ヴィナスゲート社のCEOですが、彼もまた ヒトではなく オルタナティブであったということが、物語終盤で明らかにされます。
彼を産み出したのは、「 最初の適合者 」 の少女アリス。 ロシアの軍人であった、オリジナル=ヴェガによって 保護され、オルタナティブ創造実験の被験者にされた。
少女アリスは、実験で命を落とすが、その最後の力で ヴェガのオルタナティブを産み出す。 ヴェガもまた、メドゥーサに感染しており、石化直前であったのだ。
少女は、何を想い、最後のオルタナティブを ヴェガにしたのか。
作中では語られなかったアリスとヴェガの心の交流ですが、辛い実験であったとはいえ、アリスとヴェガの間には、娘と父親のような疑似的な親子関係もあったということなのか。
オルタナティブ=ヴェガは、独りごちる。
「 実験に耐え続けてくれた あの子の気持ちを、なぜ推し量ってやれなかったのか… 」
彼は、オリジナルの意識・記憶もそのままに、ヒトとして活動していたように見受けられる。
あの子の犠牲に報いてやりたかった…、そう呟く彼は、ヒトのようにしか見えなかった。
「 不死ではないが、寿命は半永久的。 私たちこそ、すべての始まり 」
ヒトと ヒトの似姿のモノとは、その差異は いったいナニなのか。
作中では、現生人類の始祖の誕生に、メドゥーサが関係していたのではという示唆がある。 オルタナティブが始祖であったのではないかという示唆が。 これは、意外にユニークなシナリオで面白い。
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「 願いのないところに、奇跡は起きない 」
カスミの記憶の中で、姉のシズクは言う。
願いとは なにか。 奇跡とは なにか。
過ちで妹を殺した姉は、彼女をオルタナティブとして よみがえらせる。
生きてほしいと願う彼女の、その願い そのままに。 オリジナルそのままの命が産まれた、その奇跡。
けれど、そのために、結果的にとはいえ シズクの産み出したイバラ、怪物たちは多くのヒトを殺した。
真実をオルタナティブ=カスミに気付かせないために、多くのヒトを犠牲にした。
多くの他人を不幸にし、殺しもしたシズクが、その責任そのままに、クライマックスにて死んだことで、私は満足しました。
「 私も一緒にいる 」 というカスミを拒絶して、シズクは オリジナル=カスミの遺体とともに 砕け散る。
また、シズクは、ある生存者に問う。
「 あなたも 大切なものを失ったの? 夢だったらよかったと思ったの? 」
幸せな夢を見続ける。 他の何を犠牲にしても、自分にとっての幸せな夢を。 夢なら何度でもやり直しがきく。
けれど、私たちは、夢を見続けることはできない。
夜 眠りにつき、夢の中で 安らぎを得ても 朝が来れば、目覚め、現実に戻る。
夢のように幸せな日々を過ごしていても、辛い出来事が起きる。
夢を見続けるには、何かの強い影響下になければならない。
作中では、メドゥーサがある。 夢を現実にすることが可能。
殺した妹を、よみがえらせたいという夢をも。
夢から覚めたくないから、世界をイバラで覆い尽くして、夢から起こそうとする邪魔者を拒絶する。 悲しみを消す、傷つけるものすべてを消すのだ。
そして、覚めた時には、甘んじて その報いを受けた。
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映画 『 ハリーポッターと死の秘宝 』 よりは、楽しめた映画です。
DVD自体も 発売時に購入していたのに、今頃になってレヴューした理由。 それは、主題歌 『 EDGE OF THIS WORLD 』 を歌うMISIAのアルバム 『 SOUL QUEST 』 を 最近聴いたことがきっかけです。
アルバムに収録されていたのは、『 EDGE OF THIS WORLD 』 だけでなく、『 つながろう!ニッポン ~テレビが伝えたこと~ 』 のテーマソング 『 明日へ 』 も含まれている。 それをも聴いてしまい、胡散臭い 震災番組を思い出し、虫唾が走ったのです。
復興庁の設立が、震災1周年直前の来月になってしまったように、「 きずな 」 「 がんばろう 」 「 つながろう 」 などと耳に心地よい言葉ばかりが踊る。 実際に 震災地域の家や仕事、精神のケアについては もはや直接関係しない人間の多くが 我関せずと言わんばかり。 テレビで、涙のお話しを観るだけで満足の様子。
「 大変だ、応援しよう、エールを送ろう 」 と言うばかり。 なでしこジャパンの試合結果すら、「 日本に勇気と感動を与えてくれた 」 などと、創作して 放言してはばからない 民放が、私は大嫌いなのです。
少しでもいい、苦難を分かち合うことへの理解、共感はどうしたというのか。 復興への想いは、どこへいったのか。
復興で膨らむ財源負担として、消費税が8%にならなければならなかったのに、目先の事にとらわれ、機会を失った。
『 EDGE OF THIS WORLD 』 の歌詞にもありますが、
“ 切な想いを重ね綴った 願いは 今
あなたのもとへと 届いていますか?
守りたい 神様 この悲しみを消して あなたを傷つけるもの全て
辿り着く この世界の果てまで
切な想いを重ね綴った 願いは きっと
あなたのもとへと 届いていますか?
信じてる この願いが奇跡を起こすの 夢を見るわ 永遠の愛を
辿り着く この世界の果てまで
夢を見るわ この世界の果てまで―― ”
イタイ愛ですが、その愛ゆえに夢を見る。 世界の果て、終わりが来るまで 夢を見続ける。
映画のラストは、カスミ以外、登場人物は皆死んでしまう。 メドゥーサ感染者は、死ぬしかない。
ある意味、救いがないまま終わる バッド・エンディングですが、そのB級ぶりが何ともいえない面白味があります。
願いが奇跡を起こすのではなく、願いを実現させようとする、人間の取り組みこそが 奇跡を起こすのだと思います。
始めなければ何も起こらない。 座して待つより 行動あるのみ。
それは、作中のように、他の何を犠牲にしても構わないと言わんばかりに、自分のエゴでもいい。 現実を変える力があるから、オルタナティブであっても 妹をよみがえらせた。 その方法の是非は置いておいても、その行動力には 共感します。
復興を実現させようとあがく、その姿に、お金を出したいものです。
( 2012/01/18 一部加筆 )
ボクには福島に暮らす友人がいます。ボクが何かささやかでも具体的に行動出来たのはそいつとご家族に対してだけです。
腐ヲタの文章ですが、刺激になりましたのなら 幸いです。
ご友人とご家族を、直接応援できたのでしたら、充分ではないでしょうか。
今となっては、私も、せいぜい パティでプラスのお金を募金する程度。
出来る範囲で、出来ること――。