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Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

トム・ロブ・スミス「エージェント6」

2011-10-05 00:47:14 | 読書感想文(海外ミステリー)


トム・ロブ・スミスのレオ・デミドフシリーズがようやく完結したので読みました。
このシリーズを読むのが久しぶり過ぎたので、前作がどんな内容だったのか忘却の彼方でしたけど。
でも読んでみたら、前作と前々作とはあまりリンクしてない内容でした…ははは。



1950年。KGB捜査官のレオ・デモドフは、地下鉄の中で一人の美しい女性、ライーサと出会う。
そして15年後。レオは捜査官でなくなり、レオの妻となっていたライーサは、養女のゾーヤと
エレナを連れてニューヨークへと旅立った。ソ連の友好使節団として。
一人モスクワに残されたレオは、ライーサたちに何か起きるのではと案じていたが、国連本部で
行われた米ソの少年少女によるコンサートは無事に成功した。

しかし、悲劇はその直後に起きた。

何が原因で、誰の思惑で起きたのか。真実を求めるレオの長い旅が始まった―



※ここから先はネタバレあります。ご注意ください。

久しぶりに読んだけど、やっぱりこの作者の作品は面白いです。
多すぎる登場人物(途中で覚えるのを放棄)、
激しすぎる場面転換(地名を書かれてもなにがなんやら)、
ものすごい勢いで流れる時間(ページをめくれば数年後)、
「どんだけジェットコースターやねん」と突っ込みたくなるほど、あっちにいったりこっちにきたりの展開だけど、
最後までダレずにどんどこどんどこ読み進めることができました。
エピソードを欲張りすぎてもったいない感じもありましたが。

前作、前々作に比べると、KGBの拷問シーンもないし街中での銃撃戦もないし、テンションは割と低め。
それでも1950年のモスクワから15年後のニューヨーク、さらに8年後のカブール、そこからまた1年半後の
ニューヨークと舞台はころころかわり、そのたびに主人公のレオは散々な目にあい、それでもしぶとく
生き延び続けます。途中、どんなことがあっても死なないレオに

「もしかしたら夢オチなんじゃないか」

とか疑っちゃいましたが。途中でアヘン中毒になってたし。アヘン切れたら割とあっさり治ったけど。

今までの2作と違って、「エージェント6」は、レオとライーサ、彼らの2人の娘のそれぞれの家族愛・夫婦愛が
切々と綴られていて、読んでいてとても切なくなりました。死の直前、ライーサが思ったのは自分の娘に
「愛している」と伝えられなかったこと。そしてライーサを失ったレオは、ニューヨークへ行かせたことを
後悔し、復讐したくても真相を突き止められない自分に嫌気がさし、アヘンへと逃げてしまう。
なんかもうとにかく厭世的というか、袋小路で救いがないというか。愛は苦しみを伴うものなのね、というか。

1950年に、レオとライーサが結ばれるきっかけを作った黒人歌手のジェシー・オースティンとその妻に
ついてのエピソードもまた、レオたち同様共産主義と国の思惑に振り回された悲しい話でした。
善良で心優しいジェシーが、共産主義者であったがゆえに受けた、アメリカ合衆国からの不当な仕打ち。
前2作ではスターリン体制下にあるソ連の恐ろしさが描かれていたけれど、この「エージェント6」では
まばゆいばかりの自由の国アメリカの裏の顔が見えてゾッとしました。
世界はけして単純な二元論でできているわけではなく複雑なものだから、簡単に見誤ってはいけない、と
言われてるような気がしました。

後半、アフガニスタンのカブールでアヘン浸りの怠惰な生活を送っていたレオが、ゲリラの襲撃から
いきなり無敵のスーパーマンみたいになって、あれよあれよと事件の真相に近づいていく展開は
面白いんだけどうまいこと行きすぎな感じがして、ちょっと残念でした。レオがアフガニスタンで
出会った訓練生のナラと、ソ連の爆撃にあった少女ザビの扱いも、さまざまな困難を乗り越えて一緒に
アメリカに来た割には中途半端だったし。アメリカに行った後、ナラとザビがレオの新しい家族に
なりそうだったのに、結局レオにとってはライーサと2人の娘だけが家族だった、というのが
肩透かしでした。

クライマックスの、レオがライーサの死の真相を突き止める場面は、レオと敵(こいつがエージェント6)の
心理的駆け引きが面白かったですが、それまでにレオのメンタルがあまりにボロボロになってしまっていたので
一体どうなることかとハラハラしました。そして、死の真相を知った後のレオのとった行動。
怒りにまかせるのではなく、「ライーサだったらどうするだろうか」と亡き妻に思いをはせて
自分の衝動を抑える…ここを読んだとき、思わず涙が出そうになりました。
私だったら「チクショー!てめーヌッ殺す!!」で終わってたに違いないのに。
レオみたいに私の中には“心優しい妻”が住んでないからなぁ。ははは(遠い目)。

最終章はこれまたどうしようもないほど重くて暗い話なのですが、最後の最後にレオが少しだけ
救われる展開になって、少しだけ気持ちが軽くなりました。はっきりと書いてないけれど、
この最終章の後、レオは…なんでしょうから。長い旅の結末はハッピーエンドじゃなかったけれど、
最後の最後で、自分に幸せを感じることを許せたレオは、満足しているのでしょう。

さて、以前から映画化が噂されてるこのシリーズ。前2作とくらべてこの「エージェント6」は
時間の流れが長すぎてかなり映像化しにくい気がするのですが、どうでしょう?
ていうかもはやお蔵入りになってたりして。
この「エージェント6」が映像化を意識してなさそうな内容になってたのは、そういう理由が
あったからだったりして。

…ありうる?



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