Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

ピエール・ルメートル「傷だらけのカミーユ」

2016-11-09 23:20:43 | 読書感想文(海外ミステリー)



ピエール・ルメートルのカミーユ・ヴェルーヴェン警部シリーズの最新作にして完結編、「傷だらけのカミーユ」を読みました。この邦題、最初は「なんじゃそりゃ」と思いましたが、読んでみると読んでるこちらが傷だらけになる、メッタ刺しな内容でした。


カミーユ警部の恋人アンヌが強盗に襲われ、瀕死の重傷を負った。一命をとりとめたものの、犯人は彼女を執拗に狙い続ける。
かつて妻を殺されたカミーユは、もう二度と愛する人を失いたくないと、上司の命令を無視してアンヌを守ろうとする。
しかし、そんな彼をあざ笑うかのように、犯人の魔の手はアンヌに忍び寄り…


※ここから先は微妙にネタバレがありますので注意してください。








発売されてまだ一か月しか経ってないのであまり詳しく内容に触れるのは避けますが、ルメートル作品らしい予想外の展開と衝撃の結末に、読み終わってからこれが完結編であること、この続きはないことを大いに残念に思う作品でした。つか、展開とか結末の前に、小説が始まった直後にもう我らがドケチ刑事ことアルマンが〇〇しちゃって、それが強烈にショックだったんだけど。なにげにアルマンの真似したくない節約術を読むのが楽しみだったのに、それが読めなくてとても悲しかったです。それだけじゃなく、今回の物語では富豪刑事ことルイの出番もあまりなくて、これまで通り3人のおっさん刑事(カミーユ、アルマン、ルイ)のきゃっきゃうふふが読めると楽しみにしていた私の気持ちはどうなるのよ!誰か薄い本でいいから書いてよ!どん!(机を叩く音)…じゃなくて、冒頭のアルマンのアレは「終わりの始まり」だったんだなぁと、読み終わってからしみじみ寂しく感じました。

てなわけでこの「傷だらけのカミーユ」で、カミーユは愛するアンヌを守るために孤軍奮闘します。捜査のために、アンヌと自分の関係を周囲に隠し、上司を欺き、強引なやり方で犯人を突き止めようとする。しかし残酷なことに、この小説はカミーユの視点だけではなく、アンヌの視点、また犯人の視点でかわるがわる描かれるので、我々読者はカミーユの知らないことを先に知ってしまい、「カミーユ、うしろうしろ!」と言いたくなるジレンマと戦うことになります。犯人がアンヌを探して病院を訪れた場面は、そこに更に看護師視点の文章も入ってくるので、「お前の目は節穴か~!」と何様なツッコミをしそうになりました。特に後半、クライマックスが近づき、読者が真相に気がつき始めた頃はキツかったです。何もかも終わってしまえば、カミーユと同じ目線で起きた事を思い返すことができるのでストレスがなくなるのですが。

さて、カミーユ以外の2人、アンヌと犯人の視点についてですが、どちらも必要最低限のぎりぎりの情報で、読者が想像力を膨らませてそれぞれの人物像を生み出してしまうよう、巧みに描かれていました。アンヌは何者なのか、カミーユが探している人物は、本当に犯人なのか。ちりばめられたヒントと、過去作で学んだルメートルの作風で予想してみるものの、私には当てることができませんでした。くー。これを読む前に過去の2作を読んでおけばよかったなー。それでも当てられない自信はあるけど。

最後まで読んでしまったので、読み返してももう犯人当てはできませんが、1回目に読んだ時は気づかなかったヒントに「これはこういう意味だったのか!」と驚いたり、まんまとはまったミスリードに「あーしまった!ここで間違えたんだ!」と悔しがったり出来るので、1度ならず2度までも楽しむことができて、ルメートルはほんとに良い小説を書く作家です(なぜか上から目線)。ルメートルの作品では「天国でまた会おう」をまだ読んでいないので、こちらも読んでみようと思います。とはいえ「これから読みたい本リスト」はもう万里の長城レベルの長さになってるんだけどな!最近では、本屋に行くと読みたい本が見つかりすぎて収拾がつかなくなるから、なるべく立ち寄らないようにしてるくらいだぜ!おかげで本が買えねぇぜ!へっ!

でもまあ、とりあえず年末までには読もうと思います、はい。その前にフロストシリーズの最終作をどうにかせんとならんのだけど…。


あと、個人的なことですが、強盗に顔をひどく攻撃されたアンヌが、病室の鏡で自分の顔を確認する場面は、自分が頭を怪我して入院していた時のことを思い出してぞっとしました。私の怪我は、目が覚めてすぐはたいしたことなかったけど(その後、顔面の麻痺が進んでじょじょにゆがんていった)、美しかったアンヌにとってはさぞつらかっただろうな、と気の毒に思いました。その場面を読んだ時も、小説を最後まで読み終わった時も。きっとアンヌは、鏡を見るたびにカミーユのことを思い出すんだろうな、誰にとっても残酷なことだけど。



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