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Flour of Life

煩悩のおもむくままな日々を、だらだらと綴っております。

山岸凉子「牧神の午後」

2008-04-19 00:58:53 | テレプシコーラ関連


実は収録作品のうち「牧神の午後」以外は全部雑誌or単行本で既読だったのですが、まとめて読むことで20世紀のバレエの歴史を一気におさらいしたような気分になりました…って、ちょっと大げさかな?



では、それぞれの作品についての感想を。

「牧神の午後」
20世紀のはじめに活躍した天才バレエダンサー、ニジンスキーの悲劇の物語。バレエに興味がなくても“ニジンスキー”だけは知っている、と言う人は多いのではないでしょうか(競馬好きな人とか?)。

この物語の語り部はニジンスキーの代表作「薔薇の精」「ペトルーシュカ」などを振付けた名振付師のミハイル・フォーキンです。そのほか、ニジンスキーの庇護者でありバレエ・リュスの主催者セルゲイ・ディアギレフ、作曲家のストラヴィンスキーと、豪華な顔ぶれが並んでいます。彼らが単に歴史上の人物として紹介されるのではなく、生身の人間として描かれていることも興味深かったです。

タイトルである「牧神の午後」はニジンスキーが初めて振付けた作品で、私も東京バレエ団のディアギレフ・プロで見たことがありますが、前衛的な作品が数多く作られている現代の目で見てもかなり変わった作品でした。バレエなのに回転も跳躍もないし、ラストは牧神が…だし。でも、翼のある鳥のように宙を舞う事ができるニジンスキーだからこそ、跳躍をいれず極限まで動きを抑えた振り付けを重視したのかもしれません。…って、公演を見たときはそこまで思い至らなかったんですけどね。この漫画を読んだら、そうなのかもしれないという気になりました。

庇護者でありニジンスキーの“秘密の恋人”であったディアギレフに無断で結婚したことから、ニジンスキーはダンサーとして窮地に立たされ、やがて精神を崩壊します。「舞踏の神」から惜しみない愛を享受していた彼には、1人の人間として愛を求めることは許されなかったのでしょう。逆に言えば彼はそれほどまでに神に愛されていたということになるのですが。神から翼を与えられたニジンスキーには、人間が持つべき二本の腕は与えられず、人間としての幸福はつかむことはできなかった…と(注:これらはほとんどフォーキンのモノローグの要約です)。ニジンスキーの人生は悲劇ですが、それゆえに彼が放った強烈な輝きは伝説と成りいまだに語り継がれているのだと思います。


「黒鳥 ブラック・スワン」
ニジンスキーの時代から数十年後のアメリカ。ニューヨーク・シティ・バレエ団に入団したマリア・トールチーフはある有名な振付師と出会います。その人の名はジョージ・バランシン。ちなみに入団前にマリアが師事したのはヴロニスラヴァ・ニジンスカヤ、「牧神の午後」のニジンスキーの妹です。ニジンスカヤは兄と違って、ダンサーとしてまた振付師として成功を収めたそうです。

入団して数年後、マリアはバランシンから求婚されて彼の3人目の妻になりました。マリア21歳、バランシン41歳のときのことです。しかしマリアは自分がバランシンの理想とするダンサーではない事に気がつき、そしていつしかバランシンの関心もマリアから更に若いタナキル・ル・クラークに…。20代なかばにして自分より若い娘に夫を奪われるなんて、気の毒すぎです。しかもそれ以外にも、マリアはバランシンから芸術のためにある大きな犠牲を強いられます。妊娠したマリアに対し、母になる幸福よりもダンサーとしての幸福を追求するよう説いたのです。ロシアからアメリカに亡命し、振付師として成功したバランシンは一見ニジンスキーとは違うように見えますが、やはりこの人も“バレエに囚われて”いたわけです。

物語はこの後、マリアがネイティブ・アメリカンのシャーマンだった祖父の言葉を思い出すところから人間の幸不幸論に話が発展するのですが、これはバレエに関係なく山岸さんがいろんな作品で描いてるので省きます。

マリアは結局バランシンのもとを去り、再婚して家庭を築くのですが、ダンサーとしてどうなったのかは描かれていません。しかし人を激しく呪いながら踊った黒鳥が彼女にとって生涯最高の踊りだったのなら、果たしてダンサーとして成功する事こそが幸福なのかどうか、難しいところです。これが漫画だったら、主人公は両方の幸福を手に入れられるんですけどね~。現実は厳しい。


「瀕死の発表会」
タイトル通り、山岸さんのバレエ発表会レポート。これが描かれたのは2004年ですが、その後も発表会はしたのかな?でもレポートがないということは…。山岸さんが参加したバレエ教室の発起人のM氏は、おそらくあの有名なバレエ評論家の方でしょうね。この人が声をかけて集めた先生&助っ人ダンサーが誰なのかが気になります。

山岸さんの発表会の演目は「ドン・キホーテ」。しかも山岸さんはドルシネア姫!こんな重要な役を踊るのだから、なんだかんだ言いつつ山岸さんは結構お上手なのかも…?似顔絵はアレだけど、実は山岸さん美人だしね。音楽も内容も有名な「白鳥」や「ジゼル」じゃなくてなぜドンキなのか気になりましたが、やっぱり衣装の関係なのかな…?素人が白鳥の衣装着たら絶対志村けんになっちゃうし。

この発表会レポートにも名前だけ出てくる「漫画家のM氏」は「パタリロ!」のあの人のことですね。山岸さんとM氏がコラボしてバレエ漫画を描いてくれたら面白いだろうなぁ。画風違いすぎるけど。


「Ballet Studio拝見」
お次は元東京バレエ団プリンシパル、首藤康之さんのバレエ教室見学記。扉絵にも描かれてますが、首藤さんは東京バレエ団のディアギレフ・プロで「牧神の午後」を踊ってらっしゃいます。見学記の内容はニジンスキーと全然関係ありませんが、この単行本は「牧神の午後」にはじまって「牧神の午後」で終わるんだなーと、不思議な感じがしました。

首藤さんのスタジオ、その名も「THE STUDIO」のことは小林十市さんの日記に良く出てくるので知ってましたが、なんとなく“セミプロもしくはプロ志望者向け教室”をイメージしていたので、初級者向けクラスもあることにちょっと驚きました。教える首藤さんはバリバリ現役なのに、そこまでやるのか…と。

バレエを習いたくてもこの年じゃ…としり込みする人への山岸さんの言葉“今日より明日のほうが1日年を取っている、つまり今が一番若い”が印象に残りました。よーし、それじゃ私も柔軟体操から始めるか!…ってスタート地点低っ!!

…ところで山岸さん、首藤さんのことを「和製キアヌ・リーブス」だなんてそれは持ち上げすぎなんじゃ?「動きが俊敏な段田安則」ってところが妥当だと思いますけど?(ファンの人ごめん)

山岸凉子と行く「ローザンヌ国際バレエコンクール2007」珍道中記
最後は、山岸さんがローザンヌ国際バレエコンクールを取材した際のレポート(書いてるのは山岸さんじゃないけど)。この旅にはローザンヌだけでなく、フィレンツェやロンドンでのバレエ鑑賞もついてました。この時の旅のエピソードが、いまダ・ヴィンチで連載中のテレプシコーラ第2部に活かされてるんでしょうか?うーん、でもこのレポートのどこにも「雪で欠航」「ロストバゲージ」「飛行機の中でトイレに行けない」って書いてないぞ~?

ちなみにこのツアーは11日間でフィレンツェ、ミラノ、ローザンヌ、ロンドンを巡るツアー。お値段はいかほどだったんでしょうね。コンクールと公演以外に、山岸さんは各地のバレエ学校の見学(取材?)もされたそうです。…学校を見学したということは、これから六花はヨーロッパのバレエ学校に入るんでしょうか?六花がどこの国に行くのか楽しみですが、話がそこまで進むのにあと何年かかるのか考えるとちょっとめまいが…。



4 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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知ってますよ~◎ (なおみ)
2008-04-19 12:10:00
もちきちさん、こんにちは。
山岸 凉子のチープな絵もエゲツナイ物語も苦手なんですが、彼女の「バレエ」に寄せる想いは分かる気がします。

バレエは詳しくないんですが『主催者セルゲイ・ディアギレフ』が率いていた『ロシアバレエ団』のことは良く(でもないか)存じております。
「牧神」はドビュッシーの作曲ですね。関連書物持ってますよ、確か。あの時代のフランス近代音楽が好きなんです。

そうそう確かにニジンスキーとディアギレフは愛人関係にあったようですが、ディアギレフだって女房がいたのにね。
ま、そのせいかどうか(痴情のもつれか?)ニジンスキーが精神病に収容されるようになってしまったのも確かです。

ワタシこの「ロシアバレエ団」の記事を一度書いてみたいんですが、なかなか資料がなくてね~。でもすごいですよね、
プロデユーサーがセルゲイ・ディアギレフ(まずコイツの資料がないんだ)
脚本がジャン・コクトー(コイツもゲイだ)舞台美術がピカソ(コイツは女好き)衣装がココシャネル・・・音楽陣がラヴェル(多分ゲイ)ドビュッシー・ストラビンスキー・サティ・ミョー(確か)・ファリャ・・・他にも沢山いそうですが。(ファリャの「三角帽子」がいいですね)
今なら小国の国家予算並みのギャラが発生しそうですね。

あ、「白鳥」ですけどね、何年か前にマシュー・ボーンの振り付け(?)で「ザ・スワン」ってのをやってましたよね?
「白鳥」がオトコなんですよ!で、その白鳥に恋した王子って・・・多いよね~欧米には(><)
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芸術家はゲイ術家…? (もちきち)
2008-04-19 23:51:38
なおみさん、こんばんは。

>ディアギレフだって女房がいたのにね。
ディアギレフには何人も男の恋人がいたそうですからね。
その中には後に名振付家になったのレオニード・マシーンもいたそうです。
(漫画の受け売りですが)

>今なら小国の国家予算並みのギャラ
そうそう。でもそんな彼らも当時はまだ今ほど評価が定まってなかったんですよね。今でこそ猫も杓子も名曲だとほめそやす曲でも、当時は不評だったものもありますし。そのへんが面白いところです。

>マシュー・ボーン
私「ザ・スワン」のDVD持ってますよ~。舞台も何度か観に行ったし、アダム・クーパーが白鳥を踊るシーンのある「リトル・ダンサー」のDVDも持ってます♪(というか、この映画が先)

「ザ・スワン」の王子と白鳥は冷静に考えるとキモイのに、舞台で見てるときは妙に美しい関係に見えるのが不思議です。
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バレエ話にウッキウキ (チロリンマン)
2008-04-20 11:56:47
こんにちは。
もちきちさん、子供の頃からずっとバレエを習っている人だと、勝手に思い込んでいました。
『machimotoya』で拝読させてもらっていた時、自分の知識のなさに落ち込んでました…

T団の団員だった友人も、もちきちさんほどの知識はないと思う。絶対!退団後は「もうヤダ」とか言って稽古もしなくなってたし。

マンガを教えてくれてアリガトウ!
10年くらい前、若い頃に「牧神…」を踊った経験のあるバレエの先生(今60代)に、聞いた事があるんです。
「先生、何で日本ではロシアバレエみたいな公演やらないの?」
「踊れる人がいないから…」
チーン

今年のお正月、午前中に映画「バレエ・リュス」を観て、午後は昔舞台で一緒に踊っていたメンバーとアイススケートを楽しみました。そしたら「モロ師岡」一家が大はしゃぎで滑走。
俳優だから、リンク内に声が響く響く。
幸せそうでした。
あぁ、脱線した終わり方でスミマセン
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私はリズム破壊王なのですよ… (もちきち)
2008-04-20 22:56:40
>チロリンマンさん
こんばんは~。コメントありがとうございます。

>子供の頃からずっとバレエを習っている人
いえいえそんな、とんでもない!!
私は昔から破壊的なリズム音痴で、体育の授業の創作ダンスでもいつも1人だけワンテンポ遅れてたくらいですから!
コールドなんかやった日にゃあもうエライコトに…

>「踊れる人がいないから…」
ほんとにチーン、ですわ…。ボリショイの来日公演なんか見たら、もう日本のバレエ団のコールドには満足できなくなりますものね。
ソリストなら海外で活躍している人もいるんだけどなぁ。数ではまだまだ敵いませんね。
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