江分利満氏の優雅な生活

山口瞳に関する覚え書き
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『父の晩年』

2007-02-27 | 山口瞳
 河出書房新社から、山口瞳の単行本未収録短篇集『父の晩年』が刊行された。収録12篇とその概要は以下の通り。

「履歴」

 生まれてから26歳までの「履歴」を小説化したものである。のちに『江分利満氏の優雅な生活』の「昭和の日本人」に昇華された。

「野守は見ずや」(『EQMM』1963.2)

 小学校の同級生で後にプロ野球投手として活躍した黒尾重明のエピソード。のちに「天地衰弱説」という小説に昇華された。

「菜萸」(『別冊文芸春秋』1967.9)
 
 前半は山口瞳の甥、姪と息子の正介の関係、後半は義弟ジェリー伊藤と山口瞳の関係を書いた私小説。

「庭の千草」(『オール読物』1970.10)

 家を建てるまでの経緯。小説と言うより長めの随筆である。

「少年」(『小説新潮』1973.5)

 戦中の援農の思い出。1972年の『酒呑みの自己弁護』ですでに触れた援農の体験を小説化したものである。従軍体験にも少しふれている。「卑怯者の弁」とともに、山口瞳の戦争観を知る上で重要な文章である。

「馬券師」(『オール読物』1974.12)

 馬券で生活する男のエピソードである。年に一二回数百万買うだけで、そのほかはずっと競馬新聞を読んで慎ましい生活を送るという。「男性自身」にすでにみえる話柄である。

「温室の苺」(『週刊小説』1975.1.24)

 競馬の話である。随筆と言っていいかもしれない。

「妻の死」(『小説新潮』1975.4)

 妻を亡くした小説家と演出家志望の息子。小説家は低迷気味で、息子が死ねば小説がかけるかもしれない、と考える。小説家の残酷さを表す。山口瞳自身、母が亡くなってから小説を書き始めていることを思い起こすと、この小説の言わんとしていることが重く感じられる。

「満貫」(『オール読物』1975.5)

 麻雀の話である。

「友達」(『別冊文芸春秋』1975夏)
 
 初めはかわいがって面倒を見て、そのうちにイヤになってしまう山口瞳の性情を小説化したものである。

「父の晩年」(『文学界』1981.2)

 『家族』の概要および調査始末記。これを読むと『家族』がより理解しやすくなる。

「同胞」(『群像』1982.7)

 山口家の法事の時のエピソード。『血族』『家族』にも同様の話柄がある。