映画なんて大嫌い!

 ~映画に憑依された狂人による、只々、空虚な拙文です…。 ストーリーなんて糞っ喰らえ!

ジャン・ルノワール エッセイ集成

2008年07月19日 | 映画の本
     ■「ジャン・ルノワール エッセイ集成」 ジャン・ルノワール著/野崎歓 訳 (青土社)


 陶芸の将来を早々に見切った後、新興芸術への可能性を信じて映画製作へと足を踏み入れて行ったジャン・ルノワールの孤軍奮闘ぶりが、文面からひしひしと伝わって来ました。エリッヒ・フォン・シュトロハイムやチャールズ・チャップリンに憧れ、どうにかしてフランス的リアリズムを確立できないものかと修練を積む日々の中、無理解な批評家や、商業主義へと傾倒していく同業者への反発などが皮肉たっぷりに語られています。ハリウッドのような大量生産/大量消費型の映画製作を批判し、家内制工業型の映画製作にこそ、フランス映画の芸術性は担保されると、1930年代には言及しています。まだ作家の個性が作品に強く反映できた時代の、又、映画の可能性が未知数であった時代の熱気が伝わって来る内容です。ナチスの影響が拡大し、ドイツやオーストリアから逃れて来た同業者への温かい眼差しや、彼らが齎した合理的な映画製作への信頼など、素直な喜びや驚きも綴られており、大戦中やむなくハリウッドへ製作の場を移した経験も踏まえ、より一層フランス的リアリズムへの追求を強めていく様子が伺い知れます。更には、アドレ・バザン(「カイエ・デュ・シネマ」編集長)の批評が精神的な支えとなっていた事の告白や、それ故に、彼の早すぎる死への悲嘆が追悼文として収められていたりもします。晩年、メロドラマの製作へと至り、それが正統を歩んできた者だけに許された集大成の花道のようにも思われ、変遷を辿るようなエッセイの数々は、まるで飛石の上を歩くような楽しさのままに終焉を迎えます。
 それにしても、どれも短いエッセイとは言え、精力的な執筆活動には驚かされました。中でも印象深かったのは、チャップリンとモリエールに対する全身全霊を込めた擁護の姿勢です。勿論ジャン・ルノワールが、時代と闘ってきた偉大な芸術家たちの姿に、自分自身を重ね見ていた事は言うに及ばずです。
 「ス・ソワール」紙への連載をはじめ、政治・文化・芸術など戦前の世相を多岐にわたって素描しており、当時のパリを再現する資料的条件も充分に備えた内容になっていると思います。


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