琵琶湖に浮かぶ沖島の対岸、近江八幡市の堀切新港に近い近江八幡市白王町の飛び地に、完全予約制の料理店「湖国料理やまじん」は、もともと湖魚のつくだ煮を製造販売してきた山甚水産が、15年ほど前に始めた。
看板はなく、口コミで評判に。新型コロナウイルスの荒波を受け、湖の恵みを凝縮した弁当を考案した。


↑写真:中日新聞より
料理店を始めたきっかけは、取引先の金融機関から「琵琶湖の魚料理で、顧客をもてなしてもらえませんか」という依頼だった。代表の奥村正次さんが「できる範囲で」と応じた。
沖島出身の奥村さん。30歳で脱サラし、湖魚に携わって30年余になる。沖島の漁師はみな知り合い。湖から揚がったばかりの新鮮な魚が手に入る。
料理を出すのは自宅の座敷。1日1組限定で、最大30人ほど。滋賀県外客が多くを占める。これまで湖魚のつくだ煮をはじめ、ふなずし、モロコの昆布巻き、アユの一夜干しといった本業の加工品が、テレビや新聞で取り上げられるたび、対応しきれないほどの注文が入った。だから、座敷料理の取材は一切断ってきた。
それでも口コミで評判が広がった。予約は2、3カ月待ちが当たり前。奥村さんは「つくだ煮か、座敷料理か、どちらが本業か分からなくなっちゃって…」と苦笑する。
新型コロナの感染拡大で影響を受ける飲食業界。「やまじん」も例外ではない。加工品は、得意先の旅館やホテルへの打撃が響いた。座敷も人数制限しており、奥村さんは「売り上げは8割減ですね」と明かす。
年度初めの会合が多い4月、近江八幡市内のある自治会は毎年、役員会の後に宴席を設ける。今年はコロナ禍でテークアウト弁当での対応となり「普通の幕の内ではなく、変わった弁当をできないか」と依頼した。奥村さんは、座敷のコース料理を詰め合わせた「湖国弁当」を考案した。
ホンモロコの炭火焼き、沖島の漁師料理の皮がついたままのニゴロブナの刺し身、アユの稚魚「氷魚」の釜揚げ、ワカサギとテナガエビのてんぷら。国産ウナギのかば焼き以外は、琵琶湖でとれたての素材ばかり。地元産のカボチャやタラノメのてんぷらも。デザートのイチゴは、近くの大中産だ。
座敷の気分も味わいながら、湖の恵みを満喫できる弁当は3780円。「湖の魚は『生臭い、泥くさい』と思われがちだが、鮮度が良ければ問題ない。利益はほとんど出ないけど」と奥村さん。「地元でPRしてこなかった分、コロナ禍を機に、こんな楽しみ方もできるんだと知ってもらえたら」と語る。
問い合わせ:山甚水産
<中日新聞より>