西鎌倉地域教育懇話会では、年に3回、各自治会・町内会や地域活動団体等の代表者、学校の先生方、そして私たち懇話会役員が一堂に会する「代表者会」を開催しております。代表者会では、地域の方々が学校教育の現状を知り、また懇談を通じて地域と学校が顔の見える関係を作り、地域ぐるみで子どもたちを育てていく意識の醸成を図っています。その様子を以下のとおりレポートいたします。
第1回
日時:平成26年7月5日(土) 場所:西鎌倉小
話題:「盲目の手広中学校の教員として」
講師:江口 大輔(手広中学校教員 社会科担当)
第1回は、手広中学校教員の江口大輔先生にお話をいただきました。江口先生は、生まれつき目が不自由という障がいを乗り越え、大学では主に歴史学を学び、現在は中学校で社会科担当として、お二人の先生に支援を仰ぎながら教鞭をとっています。
全国的に見ても、盲目という障がいを持ちながら、学校の先生として活躍する例はとても珍しく、そんな江口先生が如何にして先生としてやっておられるのか、また日頃先生として中学校で感じておられることをお話しいただきました。
まず学校の様子ですが、とても落ち着いていて、子どもたちも素直で、教えている、教えていないの枠を超えて普通にあいさつもしてくれて、先生のことを特別視することなく受けて入れてくれる環境だったようです。授業は、最近では江口先生に限らず、子どもたちに隅々まで目が行き届くよう、複数の先生で授業を行う体制をとることが増えてきていて、その一環で江口先生も、二人の先生とともに授業を行っています。複数の先生が機能するためには、工夫が必要のようで、常に三人が話し合って、授業の計画を立てています。また教科書などの資料は、市内のボランティアにより3ヵ月かけて20巻に及ぶ点字訳を作っていただいたそうで、そういった方々に支えられて、先生として活動できるとおっしゃっておりました。
その様子は、実際に授業を聞いていただいたほうが分かりやすいだろうと、約30分ほど江戸時代を例に子どもたちに教える時と同じように、三人で模擬授業を行っていただきました。教科書を基にして始まった授業は、江口先生が点字をたどりながら私たちに丁寧に語りかけ、それを河田先生が黒板に丁寧な字で整理し、随所に後藤先生が写真や図などの資料の説明を補う、といったようにお互い支え合うかたちで進み、結論から申すと、恐らく一人で授業を行うよりも、分かり易かったのではないかと思いました。語りかける言葉の説明と、説明の内容を整理して黒板に書く作業が分担されることにより、先生もそれぞれに対して集中できるということもあり、むしろ語り口は、ゆっくりとしていましたが、すごく濃密に説明を受けたような気がしました。実は家に帰ってから、昨年中学校を卒業した自分の息子にも先生の授業の感想を聞いてみたのですが、やはり、分かりやすかったよ、と言ってましたので、今日は特別に授業を受けたからそのように感じたわけでもなかったようです。
そんな授業を受けた後、参加者が1グループあたり7、8人の5グループに分かれて今日のお話を聞いて感じたことなどを話し合いました。そこで出た感想は、まず先生の並々ならぬ努力の様子としっかりとした授業を聞いて、これから中学校に子どもを預ける親の立場としてとても安心した、という意見をいただきました。そして、もちろん歴史の勉強も大切だけど、先生の存在そのものが、子どもたちにとってとても高い教育効果がある、という意見をたくさんいただきました。こうして人へのやさしさ、人と人とが支え合うことのすばらしさを目の当たりに体感できることは、子どもにとてもいい影響があるのだと思います。手広中学校の子どもたちが特別視することなく江口先生を迎え入れ、そのこと自身が子どもたちの心を育てることにつながっている。そのような相乗効果を感じました。江口先生を「先生」として迎え入れることは、市の教育委員会としてとても勇気のいる決断だったと推察するのですが、今回江口先生の様子を詳しく知り、地域としてとても喜んでいる、ということを、声を大にして伝えたいと思います。
第2回
日時:平成26年11月29日(土) 場所:西鎌倉小
話題:「父さん母さん世代が、まちとつながる場」
講師:山崎 民男(手広中おやじの会代表)/税所 由紀子(主任児童委員)
第2回は、手広中おやじの会代表の山崎民男さんと、主任児童員の税所由紀子さんより、それぞれの活動について報告をいただきました。まず手広中おやじの会ですが、文字通り手広中学校に通う子どものお父さんの有志約20名による団体です。活動内容は、グランドの草刈りをしたり、文化祭でお汁粉などを販売し、その収益で学校の備品を提供したり、子どもたちのために様々な活動を行っています。それだけではなく、お父さん同士が親睦を深め、楽しむ場となっています。お父さんたちは、子どもが小さい頃は学校行事や習い事などを通じて交流する場が多少なりともあるのですが、子どもが中学生ともなると、自分たちもちょうど働き盛りになる頃と重なって、地域の中で交流する機会が少なくなってしまうのが現実的です。そうした状況の中で、中学校の中で「おやじの会」という場があることはたいへん有意義だと思います。また、地域同士の交流は、多彩な顔触れになりやすいので、それぞれの仕事や特技などを活かして様々な化学反応が起きやすい可能性を秘めていると思います。例えば「おやじの会」では、デザインの得意な方が素敵なオリジナルのTシャツを作ったようですが、これもその可能性の一つだと思います。参加者が20名と、まだまだ生徒数の1割に満たない数なので、ぜひ存在を知っていただき、参加者数が増えることを期待しています。
次に、主任児童委員の取り組みとして、子育てサロン「ぽっけ」についてご紹介をいただきました。小さい子どもの育児に悩んでいるお母さんたちが悩みを発散したり、あるいは交流を深めたりする場として、手広中学校で毎週金曜日に開催しています。こうした子育てサロンの場が認知され始めて、公園デビューならぬ、サロンデビューも増えてきてはいるようですが、まだまだ存在の認知度は低いようです。「行けば楽しい」という声はよく聞こえてくるようですので、こちらも地域の中で広まるといいですね!
第3回
日時:平成27年2月14日(土) 場所:西鎌倉小
話題:「教育支援の現場から見える鎌倉の子どもたちPART2」
講師:滝田 衛(七里ヶ丘こども若者支援研究所)
第3回は、七里ヶ丘こども若者支援研究所主宰の滝田衛さんをお迎えし、「教育支援の現場から見える鎌倉の子どもたち(PART2)」という演題で、お話をいただきました。「PART2」とあるように、代表者会にお招きするのは、昨年度に引き続き二度目です。前回とても心に沁みるお話をいただいたのですが、代表者会に参加するメンバーの大半が一年で入れ替わるため、昨年度お話をいただいたとしても、実は初めてお聞きするという方が多く、ぜひたくさんの方々に滝田さんのお話を聴いていただきたいと思い企画いたしました。
滝田さんは、NPOや教育センターの相談員等の立場として、様々な子どもたちの相談に乗ってこられました。たくさんの事例をご紹介していただきましたが、今の子どもたちにとって将来は、楽しみというよりも不安に思うことが多いこと、その中で追いつめられるように日々を過ごしている子が多いんだなあ、と思いました。
グローバル化という名のもとに進む競争社会。人を平均化し、数値で評価する傾向が強まり、それになじめない子たちが「不登校」という現象を生み出している原因の一つのようです。また競争社会の中で生じる経済格差。貧困率が高い地域ほど不登校が多いという現実もあるようです。
では私たち大人はどうすればいいか。大人はとかく子どもたちのために、という思いで子どもたちを追い詰める言葉を投げかけがちですが、そうではなく、かといって単にやさしくすればいいということではなく、そうした悩みを理解しようと努め、それを受け止める度量と寛容さが必要なのではないか、ということが滝田さんの提言でした。確かに滝田さんには、その悩みをあたたかく包み込む包容力の大きさが滲み出ていました。さらにそれを個人単位ではなく、地域ぐるみで包容力を育てていくことが大事なことではないか。だとすれば懇話会の役割は、そうした土壌を作っていくことなのだということを再認識しました。
滝田さんのお話のあと、一グループあたり六人程度の、五つのグループに分かれて感想を出し合いました。三十分という時間があっという間に感じるほど、各グループの話し合いは盛り上がっていました。その後各グループで話し合ったことを発表していただきましたが、参加者の皆さんにとってたくさんの気づきがあったようです。
・子どもの悩みに向き合い、寄り添って解決していこう、
・孤立しがちな現代、地域社会が大切
・親のえがおが大事
・「子どもを理解する」ということの本質を理解する必要がある
・ 親になると、子どもの頃を忘れるなあ
・あるべき論からこぼれた子どもたちに、地域内で滝田さんのような人が寄り添ってくれるといい
など、実に様々な意見が出たようです。
中でも私のいたグループでとても興味深い提案がありました。グループに滝田さんもいらしたのですが、滝田さんによると、町内会で会館等を利用して、学習支援しているという例があるようです。一方で、子どもたちが気軽に立ち寄る先に面倒を見てくれる「みんなのお母さん」のような人がいる「たまり場」っていいよね、という話が出ました。そこで現在、このまちでもそうですが、空き家が目立ち始めています。それを町内会などが、その「たまり場」として活用してはどうか、という提案がありました。地域ぐるみで子どもを育てる取り組み、というだけではなく、空き家活用策にもなるので、とてもよいと思いました。今回は町内会・自治会の代表者もいらしていたので、参考にしてくだされば、と思います。
グループ討論発表の最後のグループがおっしゃっていたように、この地域は本当にいい人が多い。この人たちをつなげ、地域の力として活かしていくことができれば、さらにまちの包容力を高めていくことができると思います。徐々に徐々に、でいいから、懇話会がそうした取り組みを醸成できればと思います。