失敗。田舎暮らし ブログ

田舎暮らし、出版関係、原発・核などについて書いています。今は、田舎暮らし中です。役立つ情報になればと、書き始めています。

過去からの使者。故郷へ (2)

2022年02月02日 13時11分34秒 | 田舎暮らし

八百八狸(はっぴゃくやだぬき)の話は、江戸末期に創作された講談によって全国に広まったとされている。

 

神通力を身につけた変幻自在のタヌキ・隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)をリーダーとする八百八狸は、藩の守護神として人々に尊敬されていた。

 

ところが、享保のころ、城代家老によるクーデターが起こった。

隠神刑部は、藩のお家騒動に巻き込まれて戦うことになったが、

不思議な杖を使う忠臣派の武士に捕らえられて、洞窟に閉じ込められた。

 

しばらくしてから、刑部狸は、これまでの功績に免じて、罪を許され、

里人たちと仲良く暮らした、という物語だ。

 

江戸時代に創作された講談は、時を経て民話となり、

里のタヌキ信仰へと変化していった。

 

いまでも、タヌキのことを「おタヌキさん」と呼ぶ人がいて、

境内にタヌキの祠(ほこら)がある神社や、

タヌキを祀(まつ)っている祠(ほこら)がある。

 

子どもの頃、タヌキと出会っても、追いかけず、

そっと見守れ、と教えられてきた。

 

私は、いま、そんな里に住んでいる。

 

都会の丘で見たタヌキの親子に会ったとき、

私は、体調を壊していた。

 

体調不調は悪化して、仕事が続けられなくなったので、

故郷に戻ってきた。

 

いくつかの病院で検査をしたが、

体調不調の原因は不明だった。

 

軽い物が持てなくなるほど体調が悪化して

やっと大学病院で原因がわかった。

循環器が悪く、すぐに手術が必要な状態になっていた。

 

二度の手術、数回の入院で、体調は元に戻った。

 

そんなある日、里から山間部に入る道路を走っていた。

そこで、右手に大きなタヌキの石像がある祠(ほこら)を見つけた。

帰りに、その祠(ほこら)に寄った。

 

そこは、八百八狸の長・隠神刑部の祠(ほこら)だった。

地元の人が管理しているのだろう、きれいに掃除されていた。

 

 

それから数日後、私は、夜の道を車で走って

自宅に戻ろうとしていた。

 

自宅近くに、工場を併設した会社がある。

従業員は10人くらい。

夜は無人で、駐車場が広場のようになる。

 

田舎の夜は暗い。

車で走っていても、灯りが少ないので闇が多い。

 

その夜の工場の広場は、いつもと違っていた。

闇の中で何かが動いている。

 

なんだろう?

 

車を止めていると、黒くて動くものは、

驚くほどの速さで、右へ左へと動いている。

 

タヌキだった。

 

子どものダヌキが二匹、走ったり、くるくると回転して

遊んでいるのだ。

 

いかにも楽しそうで、

見ているこちらが幸せになるほど

可愛い様子だった。

 

私は、故郷に戻って

地元の人には虐められたけど、

病気を克服して、いまはここで生きている。

 

もし、誰かが私を呼んだのなら、

それは誰なのか、知りたいと思うことがある。

 

しかし、丸々として健康そうな子ダヌキ見ていると

これも運命なのだと知った。


過去からの使者。故郷へ (1)

2022年02月01日 11時04分14秒 | 田舎暮らし

早朝に目がさめた。

何かの音で起こされた気がしたので、

時計を見たら午前5時30分だった。

 

首都圏とはいえ、真冬の朝なので、気温が下がっている。

そのまま起きる時刻ではないので、

布団を整えて、二度寝しようと思った。

 

「コン、コン」

今度は、はっきりと聞こえた。

誰かが、玄関のドアをノックしている。

 

こんな早朝に? いったい誰が? なんの用で?

私はノックを無視して寝ようとした。

 

私の住むアパートは、丘の中腹にある。

坂道を上がって、ひと息ついたところにある、

典型的な二階建てのアパートだ。

 

道路から敷地に入ると住民用の駐車場があり、

建物に向かって左側に金属の階段がついている。

階段を上がると右側から奥に2階の廊下があり、

201号から206号まで、

1DKの部屋が6つ、並んでいる。

 

安いアパートだから、オートロックなどはなく、

誰でも玄関前までやってくることができる。

 

そんなアパートの205号室の玄関前、

早朝5時30分に誰かが来ている。

 

寒いし、早朝だから、起きるのが面倒だった。

そのまま寝ようと思った。

 

いや、ちょっと待て。

火事だったら大変だ。起きたほうがいいだろう。

 

私は起きて、ジャンパーを羽織り、

玄関のドアを開けた。

 

ところが、誰もいなかった。

玄関から一歩出て、外の廊下を見たが、

誰もいなかった。

 

誰かがノックした。間違いない。

私は、そのままサンダルを履いて、

死角になっている201号室横の

階段入り口まで急ぎ足で歩いた。

誰かが来てたなら、間に合うはずだった。

 

外は、雪が積もっていた。

積雪2センチくらいか。

寒いはずだ。

 

階段入り口にも誰もいなかった。

おかしいいな。

ノックがはっきりと聞こえたのに。

 

1階に降りて駐車場に出た時、見慣れないものがいた。

 

えっ?

 

一瞬、寝ぼけているのでは、と思ったほどだ。

目の前、5メートル先に動物が3匹いた。

タヌキだった。

 

こんな都会にタヌキがいるのか。

それにまず驚いた。

 

三匹とも皮膚病にかかっているようだ。

胴体の毛がごっそりと不自然に抜けていて

タヌキだとわかっても、その姿が異様だった。

 

タヌキは、親が一匹、二匹は子ども。

三匹のタヌキは、じっと私を見ていた。

 

なんとかしてやりたかったが、

野生のタヌキには、手を出さず、静かに見守るよう

子どものころから教えられてきた。

私は、ゆっくりと後ろに下がって2階への階段を上がった。

 

タヌキたちは、じっと私を見つめて動かず、

なにか言いたそうだった。

 

私の部屋をノックしたのは誰だったのか、

まさかタヌキ? そんなことを考えながら自分の部屋に戻った。

 

冬なのに半身の毛が抜けている狸を見た私は、

可哀想だなと思うと同時に、

故郷にいる家族は元気だろうかと、

そんな気持ちになった。

 

八百八狸(はっぴゃくやだぬき)の民話が残る里、

それが私の故郷だった。