失敗。田舎暮らし ブログ

田舎暮らし、出版関係、原発・核などについて書いています。今は、田舎暮らし中です。役立つ情報になればと、書き始めています。

過去からの使者。故郷へ (1)

2022年02月01日 11時04分14秒 | 田舎暮らし

早朝に目がさめた。

何かの音で起こされた気がしたので、

時計を見たら午前5時30分だった。

 

首都圏とはいえ、真冬の朝なので、気温が下がっている。

そのまま起きる時刻ではないので、

布団を整えて、二度寝しようと思った。

 

「コン、コン」

今度は、はっきりと聞こえた。

誰かが、玄関のドアをノックしている。

 

こんな早朝に? いったい誰が? なんの用で?

私はノックを無視して寝ようとした。

 

私の住むアパートは、丘の中腹にある。

坂道を上がって、ひと息ついたところにある、

典型的な二階建てのアパートだ。

 

道路から敷地に入ると住民用の駐車場があり、

建物に向かって左側に金属の階段がついている。

階段を上がると右側から奥に2階の廊下があり、

201号から206号まで、

1DKの部屋が6つ、並んでいる。

 

安いアパートだから、オートロックなどはなく、

誰でも玄関前までやってくることができる。

 

そんなアパートの205号室の玄関前、

早朝5時30分に誰かが来ている。

 

寒いし、早朝だから、起きるのが面倒だった。

そのまま寝ようと思った。

 

いや、ちょっと待て。

火事だったら大変だ。起きたほうがいいだろう。

 

私は起きて、ジャンパーを羽織り、

玄関のドアを開けた。

 

ところが、誰もいなかった。

玄関から一歩出て、外の廊下を見たが、

誰もいなかった。

 

誰かがノックした。間違いない。

私は、そのままサンダルを履いて、

死角になっている201号室横の

階段入り口まで急ぎ足で歩いた。

誰かが来てたなら、間に合うはずだった。

 

外は、雪が積もっていた。

積雪2センチくらいか。

寒いはずだ。

 

階段入り口にも誰もいなかった。

おかしいいな。

ノックがはっきりと聞こえたのに。

 

1階に降りて駐車場に出た時、見慣れないものがいた。

 

えっ?

 

一瞬、寝ぼけているのでは、と思ったほどだ。

目の前、5メートル先に動物が3匹いた。

タヌキだった。

 

こんな都会にタヌキがいるのか。

それにまず驚いた。

 

三匹とも皮膚病にかかっているようだ。

胴体の毛がごっそりと不自然に抜けていて

タヌキだとわかっても、その姿が異様だった。

 

タヌキは、親が一匹、二匹は子ども。

三匹のタヌキは、じっと私を見ていた。

 

なんとかしてやりたかったが、

野生のタヌキには、手を出さず、静かに見守るよう

子どものころから教えられてきた。

私は、ゆっくりと後ろに下がって2階への階段を上がった。

 

タヌキたちは、じっと私を見つめて動かず、

なにか言いたそうだった。

 

私の部屋をノックしたのは誰だったのか、

まさかタヌキ? そんなことを考えながら自分の部屋に戻った。

 

冬なのに半身の毛が抜けている狸を見た私は、

可哀想だなと思うと同時に、

故郷にいる家族は元気だろうかと、

そんな気持ちになった。

 

八百八狸(はっぴゃくやだぬき)の民話が残る里、

それが私の故郷だった。