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さいとうゆたか法律事務所(新潟県弁護士会) 労働災害(労災)ブログ

新潟市の弁護士齋藤裕のブログです。労働災害(労災)に関する記事を掲載しています。
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台風で通勤中の労働者が負傷などした場合と安全配慮義務違反(労災)

2018-09-07 11:34:10 | 損害賠償

 この間の台風21号では、労働者を自宅待機としたり、早引けさせたりした使用者も多かったと思います。

 この点、逆に自宅待機などとせず、その結果労働者が負傷などした場合、労働者は法的責任を負うのでしょうか?

 労働者が業務が原因で傷害などを負った場合、労災保険から支給がなされるのみならず、安全配慮義務違反があれば賠償責任が発生することになります。

 他方、労働者が通勤が原因で傷害などを負った場合、通勤災害として労災保険から支給はなされますが、賠償責任があるとは通常されません。

 この点、過労のため帰宅途中にバイク事故を起こした労働者から会社に対する損害賠償が問題となった事件で損害賠償を認める和解勧告がなされています(横浜地方裁判所川崎支部平成30年2月8日決定)。同決定では、使用者には適切な通勤方法を指示などする義務があったとされています。つまり、通勤のあり方自体について安全配慮義務を認めているといえます。

 しかし、この事案は、業務について過労させるという安全配慮義務違反があったという事案であり、この和解勧告をもって通勤についても使用者の安全配慮義務違反が一般的に認められるかどうかは疑問があります。

 思うに、労働者は、有給休暇などの行使をしない限り、労働を提供する義務があります。そして、出勤は労働に必然的に伴うものです。また、特に多忙な職場では、労働者の方から、「今日は台風だから休みます」とは言えないという事情もあるでしょう。よって、使用者が労働者の通勤中の安全に配慮しなければ労働者の安全が害されるという関係にあり、使用者としては通勤時間帯において暴風警報が発令されることが確実な状況などにおいては自宅待機・途中退社を指示するか、少なくとも自宅待機・途中退社をしても構わないということを周知すべきではないかと思います。逆に、労働者が暴風警報発令が確実な状況下において使用者において出勤を強く求め、その結果労働者が負傷などすれば、安全配慮義務違反として使用者に賠償責任が認められる可能性はあるように思います。

 なお、

ⅰ 出勤ができない事情がないのに使用者が出勤をしないよう指示した場合、労働者は賃金を失わない

ⅱ 出勤ができない事情がないのに労働者が出勤をしなかった場合、労働者は有給休暇を利用しない限り賃金を失う

ⅲ 出勤や勤務がおよそ不可能な場合に出勤をしなかった場合には労働者は有給休暇を利用しない限り賃金を失う

ということになると思われます(就業規則などで異なる定めがあればそれに従うことになります)。

 問題は出勤や業務が不可能ではないものの、安全に配慮して自宅待機などさせることに合理性がある場合ですが、使用者の責に帰すべき事由があるとして給料の60パーセントの休業手当が支払われるべきではないかと考えます。

 実際には判断が難しい場合が多いと思います。予め、「○警報発令が見込まれる場合については自宅待機とする。その場合の賃金は○とする」というように就業規則で明確に定めておくべきだと思います。取り決めに当たっては、安全配慮義務の存在及び労働者のモチベーションを考慮し、なるべく有給となる方向で考えるべきだと思います。