Jerk

2020-11-19 23:27:51 | 随筆
jerk (ジャークと発音する。)とは俗語で、「嫌なヤツ」という意味である。 概して、男性に対して使われることが多い。 嫌なヤツらは男女の区別なく存在するが、私が最も忌々しく思う男のタイプ、というのがある。 

女を女であるがゆえに、バカにする連中だ。 以前のブログにも書いたが (「金物屋での出来事」の記事参照)、あの店のマネジャーと、横からいらぬ口をはさんできた見知らぬ男の二人は、明らかに私が女であるということで(おそらくそれだけではなく、東洋人の年寄り、という事もその要因であろう。)、あのような態度をとったのだ。 

私は熟年離婚をするかなり前から、一般的な「夫の仕事」をやった。 亭主は、年がら年中不在であったので、草刈り、薪割り、ペンキ塗り、トイレのタンクの水漏れ修理、電気のスイッチとコンセントの付け替え、息子たちが喧嘩で開けた壁の穴修理、屋根裏の断熱材設置と数えきれない。 酒飲みで金銭感覚ゼロの夫は、無い金まで使う男だったので、人を雇う余裕はなかった。

私は現在ピアノを教えながら生計をたてているが、昔ギターも弾いた。 毎週、教会の日曜礼拝で、賛美歌を演奏する時に楽器担当の奉仕活動をしていた。 ある時アコースティックギターの弦が切れたので、ギター専門店へ出向いた。 モヒカン頭や長髪の兄ちゃんたちでいっぱいの店内にはいり、弦の売り場はどこかと聞くと、店員の若い男は驚いたように言った。

「あなたが、アコースティックギターを弾くのですか!?」

ムッとした。

「おばさんがギターを弾いたら、あかんのかね!?」

と、怒鳴りたい衝動をぐっと抑え、仏頂面でイエスと答えた。

こんなことは些細な出来事で、もっと腹の立つこともあった。 今から3年前、20年住み慣れた壁続きのタウンハウスを売却し、現在地へ引っ越しをした(新しい隣人に、ピアノの音で苦情を言われた為)。 新居は一軒家でだだっ広い庭がある為、最初の一年間は荒れた庭の管理に費やした。 フロントヤードに隣家とのプライバシーを保つため、常緑樹が3本植えてある。 直径20センチそこそこの樹なのでそれ程大木ではないが、高さが5メートル以上ある。 昔ノースカロライナの田舎に住んでいた時に同じものが庭にあったが、この種類はほおっておくとぼさぼさになり、伸びるのが早い。 今のうちに何とかしておかないと、ハリケーンが来た時にお隣の車の上に倒れるかもしれない。 背丈を短くする為、チェーンソーを買った。 

まずお隣の車を全部(大家族なので車5、6台)離れた場所へ駐車してもらう。 脚立を立て、チェーンソーを担いで、よじ登った。 専門家のやることを眺めていると、上部から少しづつチョンチョンと切っていくようだが、そんなに高い樹ではないので、地上1.5メートルほどの部分でいっぺんに切ることにした。 一番細くて簡単そうなやつから始めたが、道具が重くて閉口した。 まっすぐに切ればいいんだ...。 そんなに難しいわけがない。 

ところが、やはり素人細工の悲しさで、チェーンソーの刃が中心点にたどり着いたころ、なんと樹の重さが刃にのしかかり、動かなくなってしまった。 押しても引いても駄目だ。 こういった事態を防ぐため、少しづつ切り目を上下に入れ、間を開けながら切るべきなのだ。 

しまった! どうしよう...。 道具を真ん中に挟んだままの樹を後ろに、数歩下がって眺める。 そこへ近所に住む人であろう、白人の中年男が散歩をしながら歩いてきた。 彼は無言で私のすぐそばを通り過ぎたが、はっきりとわかる smirk(にやにや笑い、嘲笑いという意味で、スマークと発音する。)を浮かべていた。 

「女のクセに、チェーンソーで樹を切ろうとするなんて、身の程知らずだ。 バーカ!。」

一言もしゃべらずとも、こいつの言いたいことはわかった。 この時、私の体の中でぼこぼこと血が沸いた。 やってやる! 全部やってやる! 今に見てろ...。 まず祈った。 イエス様、あなたの御力を貸してください。 アーメン。 そしてチェーンソーのハンドルに手を掛け、ぐいと引っ張った。 すると見よ! するりと抜けたのだ。 ハレルヤ! 主、イエスの御名を褒めよ!

それから一時間ほどもした後、あのおっさんがわが家の前をまた通った。 その時、3本の樹は背丈が低くなり、tree から shrub (低木)と変化していた。 これを見て口を半分開けた jerk に向かって、私は朗らかに話しかけた。

「あーら、良いお天気ですわね! お散歩はいかがでした? おほほほほ!」

男は、また無言のまま去って行った。







コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 赤っ恥 | トップ | Life Coach (その1) »

コメントを投稿

随筆」カテゴリの最新記事