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ねをぱぁく

公園みたいにふらっと立ち寄って、ほっと一息して欲しい、そんな演劇ユニットです。

お話その1

2013-04-23 21:35:54 | お話

今より少し昔のお話

山に囲まれたのんびりとしたある小さな町に

一つの家族が住んでいました。

お仕事で遠くに行っているお父さん、朝からずーっと働いているお母さん、

友達がたくさんいる葵お兄さん、髪が長くて色白の楓お姉さん。

それとおかっぱの似合う女の子、桜ちゃん。

大きなお屋敷の門の隣にひっそりと建つ平屋の家に住んでいました。

陽の当たらない薄暗い玄関を開けると二つお部屋がありました。

最初のお部屋はお兄さんとお姉さんがカーテンで仕切ってそれぞれのお部屋にしています。

次のお部屋はみんなでご飯を食べるお部屋です。

白黒テレビがありました。

夜はコタツを端に寄せて、足だけ突っ込んで、川の字になって眠ります。

部屋の隅には、はしごがあって、それを上ると屋根裏部屋です。

お兄さんがお友達を連れてくるとそのお部屋で遊びます。

お部屋の向こうには窓がある廊下があり、お日様に照らされた洗濯機が一つ。

その先は台所です。お勝手口もありました。

部屋の外にはぐるりと廊下があって、その先はお便所です。

夜は真っ暗で桜ちゃんは一人では行かれません。

お屋敷のお庭に面しているので、時々怖い大家さんがやってきます。

お庭には大きな大きなクスノキがありました。

夏になると台所の網戸にたくさんの蝉の抜け殻がつきました。

クスノキの下には楓お姉さんがもらって来た白い犬のコロがつながれています。

いつもはお家の中にいる猫のチャトラがコロの背中で寝ています。

大家さんちの畑にはねぎ坊主が揺れていました。

そんな家に住んでいた家族のお話。

 

第一話『魔法の出来事』

 

保育園から帰って来た桜ちゃん。

葵にいにと楓ねえねはまだ学校から帰っていません。

お父さんが帰ってくるのは毎週土曜日の晩。

お母さんは今日もお仕事です。

お母さんが保育園のお迎えが出来ないので、桜ちゃんはいつも一人で帰ります。

その日も保育園のお庭でお友達と遊んだ後は一人ぼっちで帰りました。

春だというのに家の中はすきま風が入って来て、こたつにもぐらないとがたがた震えてしまいます。

桜ちゃんは、早速こたつのスイッチを入れました。

暗い部屋の中、こたつ布団をめくって、赤いあの灯りを顔いっぱいに浴びるのが大好きなのでした。

何もかもが暖かく見えます。

そしてたくさんの小人さんが出て来て一人でもさみしくなくなるのです。

その日はなぜだか、違う赤い色を見てみたくなりました。

桜ちゃんの5歳上の生まれてすぐに死んでしまった忍ねえねの霊璽(れいじ)の横にマッチ箱がありました。

おじいさまが神主さんだったので、忍ねえねに手を合わせる時はろうそくに火を灯します。

そのゆらゆらとするほのかな灯りも、桜ちゃんの好きなものの一つです。

ろうそくに火を灯すのはおとうさんの係です。

桜ちゃんのお父さんとお母さんは、一人でお留守番している桜ちゃんが、

一人でも何かを作って食べられるようにと、保育園に入った年に、

包丁の使い方とマッチのすり方とガスコンロに火をつける事を教えてくれたので、

一人でもマッチをつけられます。

目玉焼きも袋入りのラーメンだってもう作れちゃうのです。

本当は料理をする時にしか使ってはいけないと言われていたのだけど、

その日はなぜだか、どうしても、たくさんのあの灯りを見たくなってしまいました。

こたつ板の上にお皿を持って来て、その上でシュッ!

ぼわっと火が点きます。

まわりは薄いオレンジ色で真ん中の芯の近くが青色です。

なんだかお父さんが帰ってきた時のような気がします。

桜ちゃんはとっても嬉しくなって、なんべんもマッチをすりました。

お皿の中は燃えかすのマッチ棒がいっぱいです。

桜ちゃんはもっと大きな火が見たくなりました。

燃えかすの上に新聞紙をちぎって乗せました。

すると、真ん中が黒くなったと思ったらぽっと赤い炎があがります。

桜ちゃんはもっと嬉しくなって、新聞紙をまたその上に乗せました。

火は桜ちゃんの背より高くなって、今にも天井に着くくらいです。

桜ちゃんは急に怖くなりました。

すぐに台所に行って、すくえるだけのお水をその小さな手にすくってその上にかけました。

大きくなった炎は、桜ちゃんがすくってきたお水では消えません。

今度は洗濯機の横のお水の入ったバケツをうんこらしょと持ち上げました。

そのバケツのお水をこたつの上にかけました。

辺り一面が水浸しです。

新聞紙の燃えかすが、ふわふわと部屋中を舞っています。

外はもう日が暮れて、お母さんが帰ってくる時間もせまっています。

電気を点けて、部屋を見渡した途端、自分のした事にびっくりして、もっと怖くなりました。

泣きながら雑巾でその辺りを拭きました。

でも真っ黒い新聞紙も、こたつ布団も、全然きれいになりません。

桜ちゃんはもっともっと悲しくなりました。

その時です。

玄関からお仕事で疲れたお母さんの「ただいま」と言う声が聞こえました。

慌てて、玄関に走りました。

そしてお母さんの背中に抱きつきました。ここまではいつも通り。

「お母さん、あのね、今日はおさむくんと遊んだよ」

「お母さん、あのね、保育園のおやつに美代子先生が干しぶどうをくれたよ」

「お母さん、あのね、あのね」

出来るだけお母さんに話しかけて、少しでも時間をかけようと思ったのでした。

「桜、今日はどうしたの?保育園で何かあったの?」

とお母さんは優しく聞いて下さいます。

「お母さん、あのね、ちょっといたずらしちゃったの」

と勇気を振り絞って言いました。

あ母さんはお部屋に入って行きます。

桜ちゃんは怒られると思って顔があげられません。

ところが、お母さんは部屋に入っても何も言いませんでした。

桜ちゃんはびっくりして部屋に入りました。

するとどうでしょう?

部屋の中は何もなかったようにきれいです。

こたつ布団に触ってみても濡れていません。

空っぽのバケツが転がっているだけです。

真っ黒ふわふわの新聞紙もどこにもありませんでした。

桜ちゃんは驚いて、ついお母さんに今日の出来事を話しました。

怒られるより、この魔法のような事を話したかったのです。

お母さんは笑いながら

「そんなことをしたら部屋中水浸しで、母さんきっと怒っていたよ。でもお部屋は全然汚れてないよ」

と言いました。

そのうち、葵にいにと楓ねえねが帰ってきました。

桜ちゃんは興奮しながら、今日のこの不思議な出来事を話します。

にいにもねえねもやっぱり笑いました。

「おこたつの中で寝ちゃって夢をみたんだよ、さくは」

桜ちゃんはとっても悔しくなりました。

ほんとうにほんとうの事なのに、誰も信じてくれないからです。

そしてなお、泣きたくなりました。

お母さんは優しく頭を撫でながら

「今日はさくの好きなオムライスを作るから、お手伝いしてね」

と言いました。

「わかった!じゃあ、さくはにんじんを切る係と、卵をまぜる係と、マッチをする係!」

さっきまで泣きそうだったのに今はにこにこ。現金な桜ちゃん。

そしてマッチをするのもちっとも怖くないみたいです。

部屋のはしごの上で、ぺろっと舌を出した小人さん達が桜ちゃんを優しく見ていました。

 

第一話はおしまい。

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