今日も口福 明日も口福 (きょうもこうふく あしたもこうふく)

外食率ほぼ100%、エンゲル係数は優に60%(半分はアルコール代)。そんな私の美味しい話。(おもに大阪の美味しい店)

塩と素材と「焼きの腕」と

2012-12-19 | Weblog
私が最近お気に入りの焼き鳥屋がある。
福島の路地裏でひっそりとたたずむ「」がそれだ。

こちらは夫婦お二人ですべてを切り盛りしている店。
なので、最初に訪れる客には
「うちは料理をお出しするのに時間がかかりますが、よろしいでしょうか」
と念押しされる。

だがここでひるんではならない。
確かに料理が供されるのを待たねばならないが、待ちさえすれば極上の品々に出会えるからだ。


仕事帰りの土曜日、まず目の前に並べられたの付きだしの盛り合わせ。
ちぢみほうれん草の白和え、堀川ゴボウの甘辛煮、乾燥枝豆のポタージュ。
どれもこれも手が込んでいて、素材の味が濃い。
特にポタージュの自然な甘みと言ったら。温かい液体が胃を悦ばせる。
私の経験上、旨い付きだしを出す店にハズレなどない。


ここで頼むドリンクは、1人で来るときでもいつもボトルワインと決まっている。
お代わりを頼んで、ただでさえ忙しい彼らの手を取らせたくないからだ。
手酌で、ゆっくりと次の品を待つ。

まずやってきたのは「ソリレス」。
股関節部分近くの肉で、モモ肉に似ているのだが、それとは非なる繊維の太さと味の濃さが持ち味だ。
その太い繊維を奥歯で噛みしだくと、肉汁があふれ出す。
そして、その肉汁のうまみを引き出すのにまったく過不足ない塩が、表面に施されているのだ。

次に出てきたのは「松葉」。
鎖骨のことで、ささみの付け根の肉がたっぷりとついている。
肉を食べ終わった時の骨の形からその名がついたものだ。
ごく淡白な肉をパサつかせないよう、絶妙な火加減で焼かれている。
もちろん塩加減は申し分ない。

そして「背肝」。
腎臓のことだが、肝に似ている食感からこう名付けられたものの、肝よりもずっと脂がのっている。
しかし臭みがまるでない。
ここの店の素材の良さがしれようというものだ。

串の最後は「玉ひも」。
とろりと半熟に仕上げられた「玉」の部分と歯ごたえがうれしい「ヒモ」の部分のコントラストの見事さ。
美味くないわけがない。


ここの串は他もどれも美味いのだが、この日はここでぐっと我慢。
なぜなら「今日のイチオシ一品」だという「蝦夷鹿モモ肉のロースト」を頼んでいるからだ。

かくして供されたのは、一流フレンチはだしの美しすぎるロゼに仕上げられたモモ肉。
ほぼ生でありながら、中までちゃんと火が通った理想的な焼き加減だ。

その肉を塩とわさび漬けで食す。
もう、めまいがしそうに旨い。
新鮮で上質な素材の味が、待ったなしのストレートに襲い掛かってくる。
それを邪魔することなく素直に持ち上げるのは、焼き加減と塩加減。

なんというシンプルさ。
故に、なんというごまかしのきかなさ。


これまた特選素材のジャンボマッシュルームもぺろりと平らげて、この日の幸せな夕食は終わった。
こんな口福を味わえるのならば、待つことなどいかほどの苦痛だろう。
更なる再訪を心に誓った。


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本日のお店の予算(一人分・あくまでだいたいの目安)
約3500~5000円