今日も口福 明日も口福 (きょうもこうふく あしたもこうふく)

外食率ほぼ100%、エンゲル係数は優に60%(半分はアルコール代)。そんな私の美味しい話。(おもに大阪の美味しい店)

五臓六腑にしみわたる

2009-11-18 | Weblog
すっかり冷え込む季節となった。
こうなると断然、青身魚が美味い。
やはり青身魚好きの年上の友人と「克献」にお邪魔することにした。

ここでのメインイベントであるお目当ての料理はまだ我慢して、メニューと格闘する。
手書きのメニューには、驚くほど多くの種類の品数が載っている。
この小ぢんまりした店で、よくぞここまで品ぞろえができるものだ。
しかも、どれを頼んでも驚愕的に美味いのだから。

数種が少しずつ盛られたつきだしは、いつもながらどれも手が込んでいて素晴らしく旨い。
危うくこれだけで満足してしまいそうだが、そういうわけにもいかない。

まずは「茹でアスパラ」と「ネギぬた」が登場する。
茹でただけのアスパラが、なぜこんなにも旨く、甘みがあるのだろう。
塩とレモンとマヨネーズが添えてあるが、マヨネーズはおろか塩さえつけるのが惜しまれるほどだ。
レモンだけ絞っていただいてみると、それ見たことかというほどの純粋な味が舌を喜ばせる。

ネギぬたもすごい。
まずネギの緑のあまりの鮮やかさに、目を奪われる。
そして口に入れると、熱を通しているのになお前面に出てくる清冽さに驚かされるのだ。
タコ、イカ、そしてサッと湯引きした鶏ささみが添えられ、それらとの相性は抜群。
しかし主役はあくまでネギなのである。

「上ミノ唐揚げ」もここの名物料理の一つだ。
過不足なく熱を通されたコラーゲンが、魅惑の弾力とかすかな粘りをたたえ、噛みしめた奥歯を楽しませる。
きなこの入った塩が、香ばしさを添える一品だ。

そして次に出てきた皿に、私たちは心を奪われることとなる。
「生湯葉のせいろ蒸し」だ。

「湯葉をこれにつけて召しあがってください」とまず供されたのは、とろみをつけたダシに生姜とネギの薬味だ。
この独特のとろみと質感は、葛を使っているのではないのか。
「そうなんです。片栗粉では思ったようになりませんので」
サラッと答えてくれるものだ。

このダシが、これだけで十分に上等のひと品として通用するだろう代物だ。
ショウガとネギがまた泣かせるほどの相性で、うまみと温かさが五臓六腑まで沁み渡る。

もちろん湯葉をからめたときの美味さときたら桃源郷なのだが、その湯葉の下にはほっこりと素揚げされた里芋まで隠されている。
里芋を箸で割ったときの粗造な表面に、先ほどのダシがからんだ時のたまらなさは、筆舌に尽くしがたいとしか言いようがない。

きれいにダシまで飲みつくした私たちの元へやってきたのは、待ってましたの「〆サバサンド」だ。
香ばしくトーストしたパンに、マヨネーズとマスタードを塗り、シソと一緒に浅く〆られたサバをはさんである。
旬のサバはもう極上の旨みで、一見ミスマッチに見える洋風の食材たちと何の矛盾もすることなく存在する。
私は、これより美味いサンドイッチを生まれてこの方喰ったことがない。

お腹はいっぱいになったのだが、食い意地の汚い二人はまだここの料理が食べてみたい。
そこでオーダーしたのが「大根とからすみ」だ。

この取り合わせ自体は黄金コンビであり、珍しいものではない。
だがその切り方にまず驚いた。
よくある薄切りではなく、拍子切りなのだ。
確かにこの方がからすみのねっとり感や大根の繊維が楽しめる。
「コロンブスの卵」だな。

そしてもう一つ特筆すべきは煎ったゴマがかけられていることだ。
このゴマの香ばしさが、からすみとありえないくらいに合う。
今度から、からすみを食べる時にはゴマは外せない。

すっかり満足して店を出る。
いやいや、やっぱり不満だらけだ。
食べられなかったメニューが、まだいくつもあったのだから。

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本日のお店の予算(一人分・あくまでだいたいの目安)
約4000~6000円

結婚記念日のごちそう

2009-11-10 | Weblog
また少し前のことになるが、日曜日が結婚記念日だった。
今年で11年になる。

入籍した日も日曜日だったが、それからというもの結婚記念日が日曜なのは、私の記憶では今年が初めてだ。
せっかく二人とも休みなので遠出をしようと、長浜まで足を伸ばして、お祝いの夕食を大好きな「京極寿司」さんでいただくことにした。

まずはお勧めでお刺身の盛り合わせをいただく。
名前を失念してしまったが、初めていただく白身に、しっとりしたマグロの赤身、ぷりぷりで甘いエビ、意外にあっさりいただける天然ブリなど、種々の味と食感が口の中で踊る。
ああ、やはりここの魚は美味い。

そして久しぶりに食べる、ここの〆サバはたとえようもなく秀逸だ。
半分を生姜で、半分を、柔らかく固められた土佐酢のゼリーでいただくのだが、何度食べてもこの土佐酢ゼリーの酸味と旨みはこたえられない。
その上、今からが最も旨い時期となるサバの身は驚くほど分厚く、浅めに〆られて、まるでなま物のようなうまみと脂とが、ダイレクトに舌に伝わる。
これだけで、なんという至福なのか。

焼き物はグジ ( 甘鯛 ) の一夜干しをお勧めしてもらった。
サクッと焼きあがった皮目、クセの全くないほっこりとした身。
一くちごとに湯気と口福が口の中に広がる。

もう少しいろんな料理を楽しみたい気もするけれど、目の前のガラスケースに並ぶネタたちがあまりに美味しそうで抗えない。
寿司を頼むことにする。

まずコハダや小鯛といった酢じめのものを。
酢じめのものは、この店の真骨頂だ。
みじんの過不足もない塩加減と酢加減が、素材の旨みを極限まで引き上げる。

貝類も素晴らしい。
私の頼んだホッキ貝は、他の店では見たことがないほどの肉厚さ。
噛みしめた奥歯が喜びに震えそうなほどの魅惑的な弾力と、そこから漏れだす貝のジュース。
これは貝好きにはたまりませんなあ。

ダンナの頼んだ「アカニシ貝」は、このあたりでしか出ないものだそうで、アカガイよりもさらに鮮烈な朱色をしている。
恐らく豊富に含まれている鉄分が参加して味が落ちやすいので、遠方には出せないのだろう。
軍艦にのったそのアカニシ貝をすこし味見させてもらうと、生臭みと紙一重の香りの高さと、独特の濃い味わいが素晴らしい。

他にもいろいろいただいたが、この日一番素晴らしいと感じたのはサヨリだった。
秋のサヨリなぞ初めて食べるし、味も落ちてしまっているのではないかと危惧もしたが、そこはさすがに京極寿司さんだ。いいものしか仕入れるはずもない。

白身独特の脂の乗りと身の弾力とが、なんともいい具合に熟成されたような、ものすごい旨み。
これはすごい。
何度も何度も口の中で反芻していたいような味に、しばし酔いしれてしまった。

記念日だというので、お祝いにサバの押し寿司までお土産にいただいてしまって、帰途につく。
帰宅してから食べたこれも、もちろん怒涛の美味さだ。

私たちにとって最も美味なる寿司屋さんでの祝いの小宴。
やはり今夜も大満足だった。

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本日のお店の予算(一人分・あくまでだいたいの目安)
約5000~8000円