思い出したくないことなど

成人向き。二十歳未満の閲覧禁止。家庭の事情でクラスメイトの女子の家に居候することになった僕の性的いじめ体験。

山中独歩

2010-10-29 19:56:24 | 7.夏は恥辱の季節
 一人のお母さんに腕を掴まれた。素っ裸のまま、もう片方の手でおちんちんを隠す僕に、語気鋭く質問が飛んだ。そこには、朝の通学時間帯を騒がせた僕に対する憎しみと同時に、全裸でうろつく僕を保護しようとする大人の静かな意志が込められていた。だが、僕は質問に答えず、ただ曖昧な返事を繰り返すばかりだった。おば様にこんなことが知られたらおちんちんをちょん切られてしまう。
 ヒステリックなお母さんに白状させられる前に逃げたかったが、別の母親が来て、もう一方の腕を取った。左右に並んだ二人の母親は、僕の両腕をがっちりと押さえて歩かせる。しっかり送り届けようとする強い責任感から僕の腕を取っているようだが、おちんちんもお尻も丸出しにさせられ、隠すことができない僕の羞恥は、すっかり忘れているようだった。初めから素っ裸だからおちんちんを隠せなくても恥ずかしくないでしょう、と高を括っているのかもしれなかった。女の子たちはもう大して悲鳴も上げず、代わりに好奇心に満ちた視線をじろじろと向けた。男の子は同情と侮蔑の入り混じった表情を浮かべた。
「自分がこんな目に遭ったら即座に自殺するなあ」
 と、一人の男の子が言うと、他の男の子たちが頷いて笑った。
「恥ずかしいよな。女子も見てるのにフルチンなんて」
 両腕の自由を奪われた僕は、顔を伏せてなるべく顔を覚えられないようにするのが精一杯だったが、池のそばにさしかかった時、ふと思い切って顔を上げて、
「あの、おしっこがしたい」
 と、言った。するりと腕を抜くと、柵を跨いで池に飛び込んだ。服を着ている人たちは水の中まで追っては来れない。足の裏が柔らかい泥にずぶずぶと沈んだ。水面にぎっしりと藻や水草の浮かぶ、首まで水深がある池を泳いで、なんとか向こう岸までたどり着く。岸辺は湿地帯で、沼に足を取られて前と後ろにそれぞれ一回ずつ倒れてしまった。池の前でお母さんと小学生たちがあんぐりと口を開けて、泥と藻にまみれた僕の背中やお尻を見つめていた。とにかく一刻も早く人々の視線から抜け出したい僕は、蔓を伝って山の斜面をぐいぐい登った。山の中に入れば安心だという気持ちが僕を励ました。
 池から上がったばかりの泥まみれの体に、たちまち土が加わった。蔓から決して手を放さなかったが、足が滑って、胸やお腹が斜面の柔らかい土にぺったりとくっ付いた。予想以上に長くて急な斜面だった。苔に覆われて腐りかかった木が倒れている。苔は素足に優しかった。蔓が絶えると、丸太を太腿で挟みこむようにして登った。
 やっとの思いで山道にまで這い上がることができた。ここからは一本道で、人が来たら斜面の下の草とか木の陰とかに隠れるしかない。山の中にも関わらず、割合に平坦な道が続いた。
 樹木の伸ばす枝と枝にぎっしり付いた葉が重なり合って空を覆う。そんなに高くはないけど紛れもなく山の中だと思わしめたのは空気の冷たさだった。何もかも剥き出しの肌をひんやりとした空気が包み込む。腕をさすりながら歩を進めると、突然視界が開けてきた。緑の草が生えている広場には、道案内の看板があった。
 山から山へ散策路が続いている。一番端の山、海淵山まで行けば、そこからは僕が世話になっている家までみなみ川沿いに歩いて帰ることができる。海淵山まで約20km、そこから家までは5kmくらい。そんな長い距離を丸裸の状態で歩けるだろうか。
 不安を打ち払って歩き出した僕は、程なくして非常な空腹と喉の渇きに悩まされた。夕べからはY美に与えられたトマトしか食べていない。脇道に逸れて公園まで下りる。両手に水を溜めてたっぷり飲んで、空腹をごまかした。体に付着した土や泥を水道で洗い落としていると、母親の集団が公園に入ってきた。幸い、母親たちが幻でも見たかのように目を丸くして、「やだ、何あれ」「裸の男の子よね」などと確認し合っている内に立ち去ることができた。追いかけてくる気配は無かった。
 山中の一本道は、路上と比べると人と遭遇する率は低いけども、誰かが来たら隠れるのが難しい。五感を研ぎ澄まして、人の気配がしたら、早めに草の中や木の陰に隠れなければならない。もう三日も素っ裸のまま野外で過ごしているので、通常は衣類で覆われているおちんちんやお尻も、顔や腕と同じくらいに外気に慣れてきたものの、自分が普通はあり得ない格好で外をうろついているという自責にも似た意識は、少しも薄れることがなかった。もちろん人が来たら助けを求めるという選択肢があることを忘れてはいなかった。しかし、その場合は僕の素性が明らかになり、おば様が保護者の責任を問われてしまう。社会的信頼を落とされたおば様の報復は、考えるだけでも恐ろしい。独身寮に住み込みで働く母を性奴隷にする、僕のおちんちんを切る、とおば様が告げたのは冗談ではないような気がする。やはり今の僕は人に見つかってはいけないし、保護の申し出を受けても頑なに断って、朝の時みたいに隙を突いて逃げ出さなければならない。
 苔に覆われた石段を素足で踏みしめて上る。足の裏が心地よかった。山の空気が一層ひんやりして股間を嬲った。神社の横を抜けて小道に入る。しばらく行くと、町を一望できる広場に着いた。
 牧草地に似て緑の草がいっぱいに生い茂り、土は柔らかかった。石ころの多い舗装路よりも山道の方が歩きやすいとは思わなかった。やはり土は、アスファルトよりも足に優しい。広場には、丸太で組み立てたテーブルと椅子が並んでいて、直火厳禁山火事注意の立て看板が幾つも設置してあった。
 草の上に座ると、お尻がかぶれる心配があった。そこで草の生えていない土を選んで腰を下して、目の前に広がる町の景色を眺めた。目指す家は、この町の先の、山の向こうにある。山道伝いに行けば昼間でも真っ裸のまま海淵山まで行けないことはないだろう。そこから先はみなみ川の渓流沿いを進むだけで、暗くなれば人に見つからずに済むかもしれない。いずれにせよ、長い距離だった。暗くならないうちに海淵山まで行きたい。ろくに食事も摂らないで歩けるだろうか。突然、賑やかな声が近づいてきた。
 高齢者の集団だった。山歩きを楽しむサークルのようだった。僕は、急いで草の中に身を伏せ、腹這いのまま後退する。すぐに急斜面になって足元は崖っぷちになった。眼下には木々が枝を広げていた。落ちたら、何一つ覆う物のない肌を木の枝が傷つけるだろう。僕はしっかり草に掴まって息を殺した。足元の土塊が幾つか崩れ落ちた。
 昼食の時間らしい。高齢者たちは持参した弁当を広げ始めた。女の人の甲高い笑い声に混じって、男性の草花に関する蘊蓄も聞こえた。博識らしい男性は、道中に出会った草や花についての講義を、恐らくは誰からも頼まれていないのに開始し、ほとんど付き合い上の義務感から相槌を打つ女の人たちを辟易させていた。女の人たちは終いには勝手に世間話を始めたが、孤独な老教授のぽつぽつ語る声は途絶えなかった。まるで草に掴まって崖っぷちに身を潜めている僕に聞かせているようだった。
 食事を済ませたのか、一人の男性が伸びをしながら崖に近づいた。山からの景色を眺めて煙草を吸っている。煙草の匂いがじっと動かずにいる僕の鼻先に流れてきた。景色を賞美する男性の声に釣られて何人もの人が近づいてきた。あれに見えるのは誰誰のビルだとか、あすこの住宅地の造成もかなり進んだようだ、とか、会話が容易には尽きそうもない様相を呈してきた。高齢者が今一歩前に進み出て下を覗いたら、素っ裸のまま草に掴まって息を殺している僕を認めるだろう。背中やお尻は丸出しで隠しようがない。どこかに場所を移動できないか探したが、下手に動いたら気付かれる危険性が高い。
 足元を見たら、木の葉の下に道が続いていて、もしかするとお尻丸出しの僕の惨めな姿を見付けられてしまうかもしれなかった。心なしか、高齢者たちの呑気な会話がより近づいて聞こえた。話に夢中になって知らず知らずのうちに崖に近づいているようだ。激しく打つ鼓動が少しでも鎮まるように、断崖の土に体をぴたりと引き寄せた。剥き出しの土が僕の乳首やお腹、下腹部、おちんちんに太陽を浴びて蓄積した熱を伝える。
 危うく声を上げそうになったのは、ぺっと誰かが痰を飛ばして、それが僕のお尻に付着した時だった。気持ちの悪い青い痰がお尻から太腿にかけて垂れる。下品だからと諌める女の人を無視して、その年寄りは再び痰を吐いた。今度は僕の尾骶骨の辺りを直撃した。べとりと粘着性のある痰が垂直に垂れてお尻の割れ目へ入った。おぞましさに鳥肌が立つ。だが、ここで声を出す訳にはいかない。草を掴む手に力が入った。と、出発を促す声がして、景色を眺めていた人たちもきびすを返した。
 一行の賑やかな声が遠のいて、僕はようやく崖から這い上がった。ちょうど最後尾の人のリュックが小道に消えるところだった。長く日に照らされたせいで背中やお尻がぽかぽかした。この分だと、相当日焼けしたかもしれない。
 ごみ箱には弁当の空き箱が大量に捨てられていた。蠅を払いながら開けてみる。食べ残しがたくさんあった。空腹は僕を少しもためらわせなかった。全部の残り物を集めると、ご飯と焼き魚、煮物、卵焼きという品目の、ほぼ一人前の量を食べることができた。
 この一週間で僕が口にした最も美味な食事が、見知らぬ高齢者たちの残飯という事実に心が挫けそうになった。以前、食育を考える会の会長とか言う年寄りが学校に来て、僕たち最近の子どもは食べ物に対する感謝を知らない、好き嫌いが多い、などと苦言を呈したことがあった。嘘ばかりだと思った。圧倒的な年長者というのは、おのれの権威を高めたり保持したりするために、好き勝手なことをほざく。あの山歩きを楽しむとかいう高齢者の団体は、このように弁当を残したまま、そのゴミを持ち帰りもしないでゴミ箱に投げ込んで平然と立ち去った。そのおかげで僕は空腹を満たすことができたのだが、不思議と妙にむしゃくしゃした僕の気分は治まらなかった。
 その後の道のりは、ほぼ順調だった。途中何度も人が通ったけど、その都度、事前に気配を察して山道から外れた草藪や竹林に隠れた。一度なぞは、斜面を転がって沼地に落ちてしまい、水の跳ねる大きな音を立ててしまった。犬を連れた通行人が覗き込んだが、岩の後ろに隠れることができた。
 山と山を繋ぐ散策路の一部が住宅街の中にあった。この時ばかりは大きな杉の根元にしゃがみ込んで様子を窺っていたが、通行人が増えることはあっても完全にいなくなることは、日の出ている限りあり得ない。僕は覚悟を決めた。もう走る気力も体力もなかった。おちんちんを両手で隠し、昼の住宅街へ一歩を踏み出した。
 頭の中でわんわんと蝉の鳴き声が響いた。実際に蝉が鳴いていたかどうかは定かではない。ただ、蝉の鳴き声に似た音が幾つも重なって、頭の中を響き渡った。山道と違ってアスファルトは硬く、細かい石を踏むと、足の裏に異物感があった。歩くことに意識を集中させたのは、そうしないと襲いかかる羞恥の思いに絡め取られて、足が動かなくなってしまうからだった。体が熱を帯びて汗が胸や背中を流れた。
 顔を伏せて歩く僕の目に少なくない数の足が映った。その足はほとんどが動いていなかった。ベビーカーを押すお母さんたちが僕をじろじろ見つめながら、声を抑えて話をしている。小さな子どもが僕を指さして、お母さんに「なんであの人、裸なの?」と問う声がした。笑い声も聞こえた。恥ずかしい思いに全身が朱に染まる。白昼の住宅地を素っ裸で、羞恥に耐えながら通り抜けるのには、何かしら深い理由、興味本位には訊ねられないような、重い、個人的な事情があるのだろうと人々は感じたのだろうか、誰も話しかけてこなかった。
 中学の制服を着た男子や女子ともすれ違った。地元では指折りの名門私立の中学生だった。彼らの、しっかり勉強に専念したことで得られる精神的な充実感に充ち溢れた顔つきには、利発さと同時に一種の威厳が備わって、普通の公立中学生には近づき難い雰囲気があった。母は以前、僕がこの中学に入学するのを望んでいた。家が借金を抱えて母と離れて暮らすことになり、その夢もむなしく潰えたが、こんな借金がなければ、もしかすると僕と同級生になったかもしれない生徒たちだった。おちんちんを隠す手が恥辱でがくがくと震える。
「ねえ君、洋服はどうしたの?」
 女生徒が素朴に、まるで町で困っている人を見かけて助けを申し出るような、自然な感じで話しかけてきた。僕を見下ろす目つきにも侮蔑の感情は宿っていなかった。その代わり、僕を遠慮なくじろじろと見つめる。今まで会ったこともないような整った顔立ちの美少女なので、全身から汗が噴き出る思いだった。
「川て泳いでたら服がなくなったんです」
 とりあえずこう答えた。事実を言えば大きな問題に発展してしまう。Y美の「男の子なんだからアクシデントで裸んぼで歩く羽目になることもある」という言葉を思い出して、当たり障りのない理由をでっち上げた。鞄の名札に「一年F組」とあったから、この美少女は恐らく僕と同い年だろう。でも多分、小柄な僕は年下と思われている。
「へえ、それは大変」
 軽く驚いて目を丸くする。僕としては構わずに先へ行かせて欲しくて、その場で足踏みするのだが、その美しい顔立ちの女生徒は、通せんぼするかのように前に立って動かない。真っ裸の恥ずかしい体を見られている時間を一刻でも短くしたい僕は、女生徒の横を通り抜けようとしたが、彼女の横に男子生徒が来て、行く手を塞いだ。
「お尻も背中も腕も同じ色に日焼けしているね」
 銀縁の眼鏡が光を鋭く返した。観察能力の高そうな男子生徒が僕の体をじろじろ見ながら、言った。僕は何も答えられない。早くこの場から立ち去りたい気持ちでいっぱいだった。銀縁眼鏡の男子生徒の指摘を受けて、美少女も不思議そうに首を傾げた。
「ほんとのことを言えよ。たった一日でそれだけむらなく日焼けできるもんじゃない。何日も前からずっと素っ裸のままじゃないのか? 体中が泥の跡で汚れているのも普通じゃない。虐待されてるんじゃないのか。誰に服を没収されたんだよ」
 同じ年代からの力強い助けの手が差し伸べられたのかもしれない。が、残念ながら、いかに彼らが名門私立の中学生で優秀な知能を誇ろうとも、おば様の社会的な力には全然及ばない。おば様を怒らせたら、おちんちんを切られてしまう。この恐ろしさを彼らは知らない。
 首を横に振って通り抜けようとした僕は、強い力で両腕を掴まれ、万歳させられた。銀縁眼鏡の優れた推理と親切な申し出を無視したことが彼のプライドを傷つけたらしい。彼の怒りが、ずっと隠していたおちんちんを美少女の前に丸出しにさせた。
 銀縁眼鏡の仲間の男子生徒が僕のおちんちんへ手を伸ばし、持ち上げて、裏側もしげしげと観察した。
「ほら、おちんちんの裏も表もよく日焼けしてる」
 そう言って皮を引っ張る。呻き声を上げて悶える僕を見て、美少女も他の女子生徒も男子生徒も銀縁眼鏡も、屈託のない笑い声を上げる。最初に示した僕への親切などは、どこかへ吹き飛んでしまったようだった。
 僕が中学一年で、彼らと同い年であることを白状させられると、彼らの行動は一気にエスカレートした。同い年と聞いて、彼らはもう僕を保護すべき対象とは見なさなかった。僕を学校も行かずに真っ裸のまま住宅街をうろつく、馬鹿な奴として、いじめの標的にするのだった。
 美少女が銀縁眼鏡に勧められるままにおちんちんの袋をしげしげと手に取って観察した。他の女子生徒と男子生徒には、おちんちんの皮を剥かれて、過敏なところを乱暴に触られた。やめるように涙を流しながら哀願しても、白昼の路上に群がる中学生は聞く耳を持たない。
「男の子はこうやってやるんだよ」
 銀縁眼鏡が美少女に説明しながら、おちんちんの根元を指で支え、振動を加える。別の男子生徒が僕の手首を掴んで、抵抗する僕の動きを封じている。今朝、何度も射精させられたにもかかわらず、おちんちんは再び僕の意に反して大きくなりつつあった。
 ぽかんと開いた口を手で覆った美少女が大きく息を吸い込む。初めて見たと言う。銀縁眼鏡の振動が更に速くなった。おちんちんの袋の裏側から波がせり上がってくる。このままでは精液を出してしまう。一体いつまで僕は晒し者にされて、会う人会う人の性的な好奇心を満たす実験台にさせられるのか。両手を頭の上で押さえられていた両腕を激しく揺すると、するりと腕が抜けた。僕はすかさず駆け足で逃げた。
 柵をよじ登り、山の斜面を蔓や木に掴まりながら進む。山の暗がりに入ると、もう追ってくる気配はなかった。膝小僧やお腹をまた土で汚しながら、草を握って、ようやく山道に合流した。
 山道をずんずん歩いた。途中、何度も人が通ったけど、その都度、木の裏側や岩の後ろに隠れた。曲り道からいきなり高齢の男性が出てきた時は、隠れようがなく、おちんちんに手を当てたまま、うつむいてすれ違った。その人は何も言わず、黙って僕をじろじろと眺め回した。
 おばさんの集団に行き遭った時も、周囲に丈高い草がみっしり生えているところを通行していたため、隠れることができなかった。おばさんたちは、何故かげらげら笑いながら僕に「頑張って」と言った。両手でおちんちんを隠しているため、丸出しになったお尻をぴしゃりと叩かれた。通り過ぎてもおばさんたちは立ち止まってじろじろと僕を見るので、お尻を手で隠しながら歩くと、前方からまた別のおばさんの一行が来た。同じ仲間らしい。丸出しのおちんちんを見て、先のおばさんたちよりも一層激しく笑った。誰も僕が衣類をまとっていないことを不審に思わなかったようだ。布切れ一枚でも譲ってくれたらありがたかったけれど、おばさんたちは「やだよ、素っ裸だよ。かわいいおちんちん出して歩いてるよ」と言って、笑うばかりだった。
 通り過ぎる時におばさんに運動靴で踏まれ、足の指の付け根の部分が赤くなっていた。風が少し冷たく感じられた。太陽が大きく西に傾いている。木の枝の間から、棚田が西の方角に広がっているのが見えた。海淵山まで後少しの距離だった。
 少しペースを速めて歩き、海淵山までなんとか暗くならないうちに辿り着くことができた。しかし、災難はこの先にあった。山の中の広場を通り過ぎる時、僕と同じ中学校で、校内で暴力を振るい先生を骨折させたことで有名な人を中心に、不良生徒が酒盛りをしているのが見えた。据え付けのテーブルにビール瓶が並んでいた。
 広場に面している道を通らなければならない。この道の反対側は断崖で通行できない。普通に通れば、まず間違いなく酒盛りの集団に見つかるだろう。ダッシュしても100mほどの距離を走り切る自信はなかった。酒盛りの集団は広場の中央よりもやや奥に座していた。道沿いの草は少し丈が高く、道も窪んでいるので四つん這いで進めば、見つからずに済むかもしれない。
 どきどきしながら、道沿いの草に沿うようにして、腹這いになって進む。ゆっくりと体が草の上に出ないように気を遣う。これが最後の難関だと自分に言い聞かせながら、温度を急速に奪われつある硬い土にお腹や膝を付けて、じりじりと前進する。真ん中まで来た。ここからは道がやや上りになっていて、草から少し体がはみ出てしまう。引き返すか迷ったが、進むことにした。酒盛りのねちねちした会話が聞こえてくる。先生の悪口を言って、時々憎々しげに唾を吐いたり、笑ったりしている。
 自分の親の話に夢中になっている女の人もいた。このままだと気付かれずに通り過ぎることができるかもしれない。残りわずかな距離だった。
「ねえ、あれ、なんだろう」
 と、話に夢中になっていた筈の女の人が話を中断して、ぽつりと呟いたのだった。
「裸のお尻が動いている」
 女の人がそう叫ぶが早いか、男の人たちがすぐに駈け出して来た。僕は頭が真っ白になってすぐに立ち上がり、走り出す。しかし、山道は下り坂、両側はブロックが積み上げられて、どこにも隠れる場所がない。ひたすら長い一本道を走るしかなかった。全裸裸足の身では、スニーカーの彼らに到底敵わない。
「おい、待て」
「そこの真っ裸の奴、待て」
 もう少しで沢に下る斜面に入るところだった。そこまで行けば水の中に入って逃げ切る自信があるのだが、その手前であっけなく捕まってしまった。背中に回された腕を曲げられ、下手に動けない。おちんちんまる出しで歩かされる僕を二人の男が冷やかした。
 酒盛りをする中学生たちは、引き立てられた僕に気をつけを命じた。手を伸ばして体の側面にぴったり付ける。おちんちんを隠すことは許されなかった。そのままの姿勢で、教師への暴力事件で名前を知られたヘッド的存在の男の人の質問にいろいろと答えさせられた。三人いる女の人の中に、僕と同じ学年で小学生の時にクラスが一緒だったこともあるEさんが混じっていたのに気づいた時は、咄嗟に手で前を隠してしまい、力いっぱいお尻を叩かれた。
 素行の悪いことで知られたEさんだったが、学業を放棄して反抗的な態度を常に取り続けることを義務とするかのようなグループにいて、お酒を飲んだり煙草を吸ったりしているとは知らなかった。Eさんは学校では滅多に見せないような笑顔で、質問に答えさせられている僕を見つめている。
 ヘッドの質問にはすべて正直に答えた。彼らは、僕の置かれている状況を正しく知ったとしても、決してそれを社会的な問題として大人たちに知らせることはないだろう。面白おかしく仲間内で語る程度だろうから、もう嘘をつく元気もない僕は、何もかも洗いざらい話した。Eさんは、
「かわいそうじゃん、ナオス。Y美ってなかなかえぐい奴なんだね。私はあいつ、あまり好きじゃない」
 と、僕に同情する素振りさえ見せた。Eさん以外は全員、お酒を飲んで、酔っ払っている。「まあ、お前も同じ中学のよしみだから」と、僕にEさんが飲んでいるのと同じジュースを渡してくれた。彼らは別に僕に対して危害を加える雰囲気はなく、時折じろじろと僕の汚れた体を眺めることはあっても、普通に酒盛りの続きを楽しむのだった。
 彼らの態度が変わったのは、僕の一言がきっかけだった。
「何か着る物を貸してください」
 と、お願いしてしまったのだった。夕暮れが近く、吹く風も少し涼しくなって、裸では肌寒く感じられるのだった。今までもずっと野外で素っ裸のまま過ごしてきたのだが、やはり標高のある山の中は気温が低い。更にジュースで体を冷やしてしまった。丸太の、直接お尻を乗せると座り心地の悪さが際立つ椅子に腰を降ろして、剥き出しの肩や腕をさする僕に、男の人が口を尖らせた。
「着る物だと? ふざけんな。お前初めから、素っ裸だろうが」
「ごめんなさい。少し寒いから」
「まるで俺たちがお前の服を奪ったみたいな言い草だよ」
 不安げに辺りを見回しながら男の人が、なお怒りの感情をはらませつつ、言った。僕は素直に謝ったが、彼は満足せず、土下座を命じるのだった。椅子に座ったままの謝罪など受け入れることができない、と彼はかぶりを振った。
 命じられた通りに土の上に正座してから、土下座をした。何度も土下座をさせられる僕をヘッドやEさんはお酒の席の余興のように受け取った。ヘッドの彼女がヘッドに、僕のおちんちんから精液が出るところを見たい、とねだった。
 仰向けのまま、大の字に両腕と両足を押さえ付けられた僕のおちんちんを、三人の女の人が代わる代わるしごき、Eさんの番の時に精液を出してしまった。
「同級生の手がやはりいいのか」
 と、ヘッドが笑った。


1 コメント

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Unknown (Gio)
2010-12-02 22:44:01
更新お疲れ様です。お忙しいと思いますが、体調だけは崩さないようお気を付け下さい。
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