明澄五術・南華密教ブログ (めいちょうごじゅつ・なんげみっきょうぶろぐ)

明澄五術・南華密教を根幹に据え、禅や道教など中国思想全般について、日本員林学会《東海金》掛川掌瑛が語ります。

紫薇の花が紫薇の郎に対す 「紫微花」紫微は略字で北極星も紫薇  

2024年08月04日 | 五術
紫薇の花が紫薇の郎に対す
紫薇花 対 紫薇郎

有名な白居易の詩、「紫薇花」です。

   紫薇花 
糸綸閣下文書静  糸綸閣の下 文書静けく
鐘鼓楼中刻漏長  鐘鼓楼中に刻漏長し
独坐黄昏誰是伴  独り黄昏に坐すれば誰か是れ伴なうや 
紫薇花対紫薇郎  紫薇の花が紫薇の郎に対す


糸綸-王の言葉・詔。糸綸閣は中書省のこと。
鐘鼓-時刻を告げるかね・たいこ、刻漏は水時計。
 対 - 応対する、相手になってくれる。
紫薇郎-紫薇省の役人。ここでは白居易自身のこと。




 唐の中書省に、紫薇の花が多く植えられたので「紫薇省」と呼ばれた、という説がありますが、実際には、開元元年(713年)に、中書省を「紫微省」と改めたと『新唐書』にあり、その五年後には、中書省に戻したと言います。
 白居易(772~846)の時代は、そのはるか後の800年代前期ごろのことですが、「紫薇省」という名称が、通称として残っていたらしく、同じ唐の褚朝陽の詩にも、「中禁仙池越鳳凰,池辺詩客紫薇郎」とあります。
 また、杜牧(803~853)の詩「贈別宣州崔群相公」には、「衰散相逢洛水辺、却思同在紫薇天」とあり、「紫薇」と「紫微」が混同されてきた例は、古くから数多いものです。
 さらに、『康煕字典』の「薇」の項には、『唐書·百官志』からの引用として、開元年間に中書省を「紫薇省」と改めたとしています。
 

 中には『新唐書』の表記を根拠に、「紫薇」と「紫微」の使い分けに拘る人もいるようですが、もしかしたら、『康煕字典』を見ていないのかも知れません。
 ただし、多くの中国人は、ほとんど区別なく、好きな方を使っています。

 「紫微」という言葉は、天文用語の「紫微垣」から出たものと思われますが、北宋時代に編纂された『新唐書』(1060年)以外に、「紫微」という文字を使った古典があるかというと、『史記』の「天官書」には、これらの用語はなく、「紫宮」という、少し範囲の異なる意味の用語しかありません。
 実際に、「紫微」という言葉が出てくるのは、隋の丹元子に依るとされる「歩天歌」ですが、南宋時代の『玉海』に収められたほか、それほど古い版本や資料が残っているわけではありません。


国立天文台図書室 中国の星座―歩天歌を中心に―

 日本で作られた星座の基になったのが中国の星座である。西洋の星座は黄道座標で定められるが、中国の星座は赤道を基準とし、二十八宿上で位置が示されている。星座は、天子が地上で暮らしていたように、天上に昇っても同様な暮らしが出来るようにと創られ、名付けられている。

 最初の中国星座はB.C.2世紀頃の前漢時代に書かれた史記の「天官書」に見られ、その後、甘徳(かんとく)(斉)、石申(せきしん)(魏)、坐威(ふかん)(殷時代)の三人によるそれぞれの星座が出来上がった。それらの星座は、A.D.310年頃、陳卓(ちんたく)(呉)によって集大成された。後世にこの陳卓の星座を詩に歌いこんだのが、『歩天歌』である。
 近世になり、星座や星が測天儀などを用いて観測されるようになると、星の位置は赤経・赤緯で計られ、示されるようになった。
 

「歩天歌」は、隋の時代(A.D.6世紀末)に丹元子(たんげんし)が、星座、星を読み込んだ詩である。「歩天歌」では、天球上での星座の位置を紫微垣・太微垣・天市垣と二十八宿に分けられた赤道座標で示している。その後、中国の星座の位置はこの体系に習っている。


 上の説明にもあるように、そもそも、「紫微垣・太微垣・天市垣」、という名称は、天上界にも地上と同じように、天子の生活のための、花園や菜園や市場などがある、という思想に基づくものと、考えられます。「紫微垣・太微垣」とは地上で言うとどんな場所でしょうか?「天市垣」なら、文字通り「天の市場」と読めるでしょうから、「紫微垣・太微垣」も具体的な意味があてはめられないと、整合性が取れません。つまり「歩天歌」だって、最初は、「紫薇垣・太薇垣」などと書かれていたとしても、全然不思議はありません。
 また「歩天歌」には「少微」という星の名があり、「太微」と対応するかのようですが、「太微」は星座の位置や範囲を表わすもので、必ずしも対応する概念とは言えません。或いは、「少微」があるために、意味の違う「太薇」が「太微」になってしまったのかも知れません。

 特に、こういう学術的な分野で「歌」を作るのは、リズムに乗せて憶えやすくするためと、守秘のために出来るだけ書物を残さないのが目的と考えられます。つまり、発音さえ合っていれば、多少違う文字であっても復元が可能であり、あまり支障がないものです。初期の「歩天歌」に星座図がなかった、と言われるていることも頷けるでしょう。
 
             中国星座(二):紫薇垣

 実際に、「紫薇垣・太薇垣」という記述は、「紫薇省」と同様に、中国の文献でも、少なからず見受けられるもので、「歩天歌」の「紫微垣・太微垣」という表記が誤記、乃至は略字であった可能性も否定はできません。

 もうひとつ、「歩天歌」の原文には、「三垣 中元北極紫微宮 北極五星在其中・・・」とあり、「紫微垣」はあっても、「紫微」という星の名称はありません。「紫薇垣」は、赤道座標で表わす、天球上の位置であって、星の名前ではないのです。
 中国で北極星を表わすのは「太乙星」であり、現在の小熊座α星(ポラリス)ではなく、小熊座のβ星(コカブ)を天球の中心と考えていたと言われます。つまり、「紫薇星」も「紫微星」も、正式に北極星を表わす用語ではなく、通称に過ぎません。
 
 北極星を「紫薇星」や「紫微星」と呼ぶようになったのは、いつ頃からの事かは分りません。あるいは、紫薇(紫微)斗数の成立以降、とも考えられます。
 

 唐代の作とされる『推背図』には、「紫薇星明」という表記がありますが、必ずしも「紫薇星が明るい」という、日本語的な読み方が通用するとは限らず、正しい漢文の読み方としては、「紫薇・星明」と区切って読まなければなりません。
 つまり、北極星など特定の星を指すとは限定できず、ただ「紫薇垣」あたりの星という意味にも取れます。
 なお、『推背図』が「偽書」だから字も間違っている、という考えは妥当なものではなく、『本草綱目』や、「平成」という年号の典拠とされる『尚書』なども偽書と言われていますし、諸葛亮や劉伯温などの名を冠した風水や五術関係の古典などは、ほとんどが偽書と考えられています。もちろん、陳希夷の作とする『紫微斗数全書』も偽書と言えます。 

 いずれにしろ、中国人による「紫薇」と「紫微」の混同や代用は、非常に頻繁(ひんぱん)で、中には「紫薇花」というべきところを「紫微花」と字を宛てている例さえ数多く見られます。試しにグーグルで
「紫薇花」を検索すると、 
 約   9,680,000 件(0.47 秒)
「紫微花」を検索すると、
 約 215,000,000 件(0.28 秒)
 と、圧倒的に「紫微花」のほうが多くヒットし、「紫微」という略字が多く使われていることを証明しています。
 
ついでに「紫薇星」を検索すると、
 約 7,220,000 件(0.39 秒) 
「紫微星」を検索すると、
 約 4,090,000 件 (0.47 秒)
 
 こちらは「紫薇星」の方が多くヒットします。
 つまり、星が「紫微」で花が「紫薇」などと言う説明は全く成り立たず、まして造語である「紫薇斗数」が正しいか、「紫微斗数」が正しいか、などということは、誰にも断定できるわけもなく、現実にどちらの表記も使われてきたことが、文献上も証明されています。それに、発音が同じなら、他の字を代用で使う中国人の習慣からしても、気にするほうがどうかしているでしょう。

 門派の門人であれば、自分の属する門派のテキストに従うべきなのは当然ですが、「紫薇」と「紫微」の違いは、専ら「文学的」な課題であり、他門派のことにまで口出しできるような問題ではありません。
 況してや、どこの門人でもない、「研究者」などと称する「門外漢」が、門派で伝承されたテキストに対し、ケチを付けるなどということは、到底許されるものではありません。
 

 

 

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