・テレビの話
イギリスのテレビ(TV)は、3チャンネルしかなかった。その内の2チャンネルは国営放送である。従って民間放送は、1チャンネルだけであった。
それに引き換え日本は、1~12チャンネルまでの間に6~8チャンネルもある。選択幅が出来て見たい番組が多くなったその分、視聴者にとって有益になっているのであろうか。否、逆になって来ているように私には感じられた。
私が会社の寮に入った当時(昭和38・9年)は、食堂に1台TVがあっただけで、そのTVを皆で仲良く見ていた。当然、個々のチャンネル権はないので、現在映し出されている番組を皆で見て楽しんだ。しかし個人的に夜7時から○○がある場合で是非見たい時は、「皆さん、7時から○○があるのでチャンネルを回したいのですが、宜しいでしょうか」と他の寮生にお伺いを立て、皆の意向でチャンネルが変わった。そして、皆でTVを楽しみ、その番組を通して寮生同士の会話がそこに成立していた。
しかし私が寮を出る昭和43年頃は、部屋に各自がTVを置き、個々で見るようになった。当然、食堂での寮生同士の会話がなくなり、食事が終るとサット自分の部屋に引き上げ、閉じこもるようになった。公休日になっても、朝から晩までTVにかじり付いている寮生が多くなった。食堂での寮生同士の触れ合い、会話もない、殺伐とした感じの寮に変わってしまった。
本題に戻るが、チャンネルが多いから良い番組も多いという訳でなく、多い分くだらない低俗番組が多くなって来たのも事実であった。私を始め、多くの日本人は分っているのだが、「その気安と手短に時間が過ごせる」と言う事で、それら低俗番組から逃れられないでいた。
イギリスのTVは、自分の見たいチャンネルや番組が少ない所為か、シーラの家族は殆どTVを見ていなかった。シーラの家に滞在中、一番見ていたのが私でした。
テレビでしか時間を過ごせない日本人(私)は、テレビに喰われてしまったのだ。イギリスにいると、くだらない情報と低俗番組を見て楽しんでいる日本人の末が、思いやられそうな気がして来るのだから不思議でならなかった。
・酒場の種類の話
ロンドンには飲み屋がパブしかないが、東京には養老の滝の様な大衆居酒屋から、赤提灯、小料理屋、割烹料理屋、バー、サロン、キャバレー、スナック等色々な店がたくさんある。飲み方、酒の肴、雰囲気、色気、値段等で我々は飲み屋の行き先が変わる。要するに選択幅が広いのだ。
しかしその反面、歓楽街はサロン、バー、キャバレーの赤い灯青い灯の看板やネオンで、けばけばしさがあった。そしてそこへ行くのは若い人やサラリーマンが結構多かった。
ロンドンの若者がパブで飲んでいるのを殆んど見掛けなかった。何故ロンドンの若者は、酒で憂さを晴らす事をしないのか、不思議であった。飲む金がないのであろうか。ビールなんて安いから金ではない、と思うのだ。
そして、彼等の飲み方(スタイル)は、ワンパターンで酒のツマミも無く地味であった。
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