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中村如水随想録

身体論、体癖論、潜在意識、NLP、アレクサンダーテクニーク、インナーゲーム、引き寄せの法則、音楽。今、ここ。

86. 「ストックデールの逆説」と「引き寄せの法則」2

2010年01月04日 06時59分08秒 | 体癖
前項で「ストックデールの逆説」と「引き寄せの法則」についてその両立する点を求めた

しかし、その後でエイブラハムの引き寄せの法則を読み直してみると、やはり非常に難しい問題が残っているようだ。

ベトナムで8年間の捕虜を経験したジェームズ・ストックデールの言葉をもう一度引用しよう。

「わたしは結末について確信を失うことはなかった。ここから出られるだけでなく、最後にはかならず勝利を収めて、この経験を人生の決定的な出来事に し、あれほど貴重な体験はなかったと言えるようにすると」

この部分は、エイブラハムの主張とよく一致する。願望が実現したときの姿をありありと思い浮かべることは、「内なる存在」の波動と、現在の思考の焦点の波動とを一致させる有効な手段として何度も推奨されていることである。ストックデールは拷問を繰り返し受ける最悪の状況にあって、自然にこの考え方を実行していたことが分かる。

捕虜から解放された未来への自分へと飛躍して、そこから現在の状況を振り返って眺めようとしている。さらに、現在自分の身に起こっている悲惨な状況が、未来のその時点においては「最も貴重な体験」としてむしろ感謝されていることにも注目したい。「人間万事塞翁が馬」式思考であり、時間が逆転しているので「逆行性の思考」である。

ストックデールは続けた。

(捕虜生活に堪え切られなかった者たちは)
「楽観主義者だ。そう、クリスマスまでには出られると孝える人たちだ。クリスマスが近づき、終わる。そうすると、復活祭までには出られると考 える。 そして復活祭が近づき、終わる。つぎは感謝祭、そしてつぎはまたクリスマス。失望が重なって死んでいく」

ここでの「楽観主義者」たちは、一体どこで間違えてしまったのだろうか。ストックデールと何が違ったのだろうか。引き寄せの法則の観点から納得のいく説明は得られるだろうか。

ストックデールが違うところは、彼は自分がクリスマスまでに出られるとは期待しなかったことである。最後に出られることは確信しているが、それがクリスマスだとは思わなかった。

期待をするから、裏切られる。期待をしていなければ、裏切られることもなく、落ち込むこともない。つまり、期待をすることで精神が不自由になってしまう。本来、人は生じた物事をどのように感じるかという点に絶対的な自由を有しているが(ヴィクトール・フランクル「態度価値」)、何かを強く期待してしまうと、今度は期待通りになるかどうかという外部状況に自分の感情が支配されてしまい、精神の自由が奪われてしまう。おそらくストックデールの言いたいことはこのような意味ではないだろうか。これだけで一冊本が書けてしまいそうな気がする。私自身も決して他人事ではないが、自分に無茶を要求して、それが叶わないために自分を責めるという負のサイクルを繰り返す人が世の中に一体どれだけいるだろうか。

「クリスマスまでには出られる」という考えは積極的ではないか、ならばよい結果を引き寄せる筈だ、という指摘はあり得る。しかし、この考えの弱点は「現在否定に基づいた未来肯定」であることだ。現在私は悲惨な状況にあるという結論を強く支持しているため、波動としては明るい未来への憧れと悲惨な現在への絶望が混じっており、見せかけの積極性に過ぎないのではないだろうか。「最後にはかならず勝利を収めて、この経験を人生の決定的な出来事に し、あれほど貴重な体験はなかったと言えるようにする」というストックデールの言葉は、未来の視点に立てば、絶望的な現在でさえ肯定できるという「逆行性思考」の強みを表しているようだ。引き寄せの作用点は現在の波動にあるため、現在の状況をどのように捉えるかが決定的に重要なのである。


「これはきわめて重要な教訓だ。最後にはかならず勝つという確信、これを失ってはいけない。だがこの確信と、それがどんなものであれ、自分がお かれている現実のなかでもっとも厳しい事実を直視する規律とを混同してはいけない」


この逆説的命題の中の「最も厳しい事実を直視する」が、やはり、引き寄せの法則の立場からは問題である。「最も厳しい事実を直視する」限り、心の焦点は願わざる事実へと向けられる訳であるから、必然的に、「内なる存在」の願望との間に非常に大きな不一致が生じる。その不一致は否定的な感情として体験される。そしてその否定的な波動が引き寄せの原点になるため、望む願望が実現されることはない、とエイブラハムは説く。

エイブラハムはむしろ、厳しい否定的な事実を直視することは避けて、少しでもよい気分になる(ホッとする)考えを探すことを推奨している。よい気分になることは、「内なる存在」の波動と、自分の波動がより一致するようになったことを示しているからだ。引き寄せの法則は我々の波動に対して作用するので、よい気分になれば、願いが実現しやすくなるとされる。

しかし現にストックデールは生還して、副大統領候補にまでなったのだから、それを引き寄せたと考えるべきだろうし、「最も厳しい事実を直視する」結果、意気消沈して暗い気分になっていたのでは、クリスマスなど関係なく、捕虜生活と拷問に堪えられそうもない。

ここから先は、ストックデール自身の考えを伺い知る資料もないので、私の空想に過ぎないが、あり得そうなことはこれくらいしか思いつかない。

実現不可能な甘い期待(「クリスマスまでには出られる」)を抱くことによって精神的に不自由となることは、生存上危険であるため避けねばならなかった。そのために彼は事実に基づいて思考を調整する必要があった。もっとも厳しい事実を直視することで妙な期待に縛られる危険は減らすことができる。しかし、その暗い事実を見ているだけでは、絶望的な感情に襲われるため、彼はエイブラハムのいうところの波動の調節を行ったのではなかろうか。これは、ナチスの強制収容所での捕虜経験のある ヴィクトール・フランクルの主張する「態度価値 Einstellungswerte」にも通じる考え方である。すなわち、事実は直接変えようがないが、態度や解釈はいつでも自由である。このことを利用して、「内なる存在」の波動と一致するように波動を調整して行く。事実は事実として否定しないが、その上で可能な限りの解釈を考えて、自ら納得できてホッとする考えを探して行く。同時に、最終的に解放されて、あれほど貴重な体験はなかったと、言っている姿を思い描く。そうして、絶望的な事実の中にあっても(クリスマスに関係なく)積極的な波動を維持し、解放を引き寄せることができたのではないか.......。

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