中村如水随想録

身体論、体癖論、潜在意識、NLP、アレクサンダーテクニーク、インナーゲーム、引き寄せの法則、音楽。今、ここ。

131. 生産性とは

2011年09月30日 00時41分07秒 | いろいろ
「イシューからはじめよ」安宅和人著を読んでいる。といっても、半分くらいのところで止まっているのだが、これも前回紹介した「失敗の本質」と並んで、非常によい本だと「思う」。というのは、この本も、かなり落ち込ませてくれるからだ。



脱・犬の道」というのが著者のメッセージなのだが(犬の道の対極として「イシューからはじめる」がある)少し説明しておくと、下の図の通りである。イシュー(issue, 解くべき問題の価値)と解の質という二つの軸をまず考える。仕事をする際に、誰でも最初はへたくそな初心者で、何も分からずに手を付けるので、価値の低い問題を低い質で解こうとするところからスタートする。図の左下の角である。ここから、右上のとてもつもなく重大な問題を圧倒的な質で解決するというところへ行けば、成功者である。で、どうやって右上に行くか?ほとんどの人は、ともかく努力を注ぐことで技術を磨き「解の質」を向上し(左下から真上に移動し)、その後で問題の質を高めて行こうと考える。しかし著者はこの道を「犬の道」と呼んで、きわめて危険であり決して成功しないので絶対に避けるべきだという。解の質を上げるのには、問題の質が悪かろうが関係なく、膨大な労力と時間が必要であり、まず真上に進んで行くだけで疲弊してしまい、それから右へ「問いの質の向上」を目指すところまでたどり着けない、と説く。


「イシューからはじめよ」安宅和人

私自身、今までの仕事を振り返っても、今正に進行中の仕事にしても、ともかく努力を惜しげなく投下して「解の質」を上げては来たが、「問い(issue)の質」については、いつも後回しで「困ったね」と言ってばかり。汝の道は「犬の道」なり、と言われると「仰る通り!」と土下座でもしたくなる。ここが落ち込ませるところだ。

そして著者の推奨する方法は、本の題名の通り、「イシューからはじめる」、すなわち「解の質」の向上を後回しにして、質はグダグダでよいから「重要きわまりない問題、イシュー」を見極めるところから始めることなのである。問題さえよいものを最初に選んでおけば、後で質を向上させるための時間は十分に確保できる、というわけである。というより、こうするより他に時間を浮かせる方法はない、と言っている。


ところで、この本は「圧倒的に生産性が高い人の研究スタイル」というブログ記事が下地になっている。生産性とはそもそもなんだろうか?それによって、よいイシュー、解くべき問題の選び方というのも変わってくるだろう。

著者は本の中で、生産性を、アウトプットをインプットで割ったものとして定義している。つまりどれだけ効率がよいかという尺度が生産性そのものだというわけだ。

ひょっとすると私の考えがまだ浅いのかもしれないが、この定義は十分に便利な気はするものの、生産性あるいはproductivityというより、「効率」とはっきり言った方がよいような気がする。私のイメージしているものとはちょっと違うようだ。生産性の定義として割り算を使うのはちょっと違うというのは、極端な例を考えてみれば分かってもらえるかもしれない。

「相当にくだらない小さな仕事を、驚異的な手抜きでやってのけたら、生産性がよい、productiveだ。」どうだろうか?効率は確かに良いのだろうが、結局小さい仕事をやったにすぎないのだから、生産性も小さい、というほうが自然ではないだろうか?

あるいは偉大な仕事を成し遂げたが、その完成を見る前に無理がたたって命を落としてしまったとしよう。その人の命をいったいいくらと計算するかという問題になるが、命を注ぎ込んだ、命は値段のつけようがない、したがって無限大だ、と考えたら、偉大な業績であっても無限大で割り算をするので、生産性はゼロだ。ちょっと直感的理解と違っていないだろうか?

最近私が気に入っている生産性の定義は、やった仕事がどれだけの変化と影響を周囲に引き起こすか、という結果論に頼るものだ。命を削ってやろうが、遊び半分で怠けながらやろうが、その仕事によって、広い範囲に大きな影響を及ぼし、その仕事の有無によって世界が変わってしまったとすると、それは生産性が非常に高かった、と言えないだろうか?どんなに高い質でどんなに犠牲を払って成し遂げられた仕事であっても、それによって誰も影響を受けなかったなら、それは小さい仕事だったと言うことで、生産性も小さかったと考える。どうだろうか?


130. 「失敗の本質」

2011年09月22日 23時52分38秒 | いろいろ
「失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)」(戸部 良一 , 寺本 義也, 鎌田 伸一, 杉之尾 孝生, 村井 友秀, 野中 郁次郎 共著)を読んだ。




これは、良い本だと思う。思う、というのは、とても落ち込む本でもあるからだ。1984年の本なので、もう27年も前になり、書かれている内容はすべて第二次大戦の日本軍の負けっぷりの下手くそさを辛辣に指摘しているものなので、もう66年以上前の話であるのに、書かれていることの大半に「身に覚えがある」のだ。これはかなり落ち込む。この数十年、高度経済成長も遂げ、日本社会はすっかり変わったかのように見えるが、どうやら大戦中と同じ問題が、姿を変えただけで身近にまだ潜んでいるらしい。文化というのはなかなかに手強い。胡散臭い表現を選ぶなら「集合無意識」を書き換えるのは難しいということだ。

誰かがアマゾンの書評欄に書いていたが、原発の安全対策や避難訓練をするのは、原発が安全でないといっているようなものだからそんなものはしない、という最近話題になった話が、悪名高き帝国陸軍のインパール作戦と恐ろしいほど重なって見える。

遠くはなれた過去の、遠くはなれた国での失敗の筈が、実はすぐ隣で繰り返されている(しかも誰も言われるまで気がつかない)というのは何とも恐ろしい。

後半の分析では、陸軍の白兵戦主義と、海軍の大艦巨砲主義に過度に適応し、しかも実戦の中から学んでこの基本方針を大胆に帰ることが出来なかった硬直性が批判される。どちらも過度に精神主義的側面をもち、個々の兵士の能力に多大に依存するという点で、そもそも戦略と呼べるものなのかどうか定かではないが、似たような精神構造は今の日本社会にも脈々と受け継がれているのではなかろうか。高度経済成長期から見られる「スポ根」は、軍隊の白兵戦主義精神の生まれ変わりではなかろうか。企業戦士が残業に残業を重ねて滅私奉公するのは海軍の「月月火水木金金」の生まれ変わりではないか。

人ごとではない。私自身の仕事の仕方も、戦略的に最も有効な一点に効率的に集中した努力を注ぐというよりは、ややあいまいな目標設定で何となく走りながら、普通の人なら避けるであろう面倒な労力を惜しみなく注ぐことで個々の仕事の質を高めている。極めて日本軍的な努力の仕方なのである。それもあって、この本は、とても落ち込む。それだけ、とてもよい本だ。

129. Zotero 3 beta + Dropboxで同期失敗

2011年09月22日 22時30分19秒 | いろいろ
半年悩んだあげく、ついにDropboxの有料版利用に踏切り、Zotero 3 betaと組み合わせて文献管理をしようとした。初日は同期もうまくいったようだっただが、二日目になって、PC での変更がMac から見ると反映されておらず、Mac 側での変更がPCから見ると反映されていないという事態が発生。おそろしく不快だ。調べてみると、追加したファイルはちゃんとDropboxの中にあるが、Zoteroがそれを見つけられない、というか変更したデータを全然反映できていない様子。

おおおお、この上、Zoteroの有料サービスにも金を払うのか!なんという阿呆臭い。


追記:結局、Zoteroの有料同期サービスを利用し始めた。今のところ快適である。なお、MendeleyもZoteroも共に新しいヴァージョンでは重複文献の検索機能が備わったようで、Zoteroもmobile に対応しつつあるようだし、どちらも正しい方向に進化しつつあるようだ。

128. Zotero and cloud

2011年09月07日 14時23分11秒 | いろいろ
クラウドサービスの料金を調べると現時点は以下のようになっている。

Zotero
100 MB Free
1 GB $20 ($1.67/month) (年間~1500円) 
5 GB $60 ($5.00/month) (年間~4600円)
10 GB $100 ($8.25/month) (年間~7600円)
25 GB $240 ($20.00/month) (年間~1万8000円)

Dropbox
Basic 無料
Pro 50 US$9.99/月またはUS$99.00/年 (年間~7600円)
Pro 100 US$19.99/月またはUS$199.00/年 (年間~1万5300円)

Apple iCloud
+10GB 年間1,700円
+20GB 年間3,400円
+50GB 年間8,500円

文献データがすでに5GB を超えているのでZotero内蔵の動機機能を使うと年間7600円以上。同じ値段を払うとDropboxが50GB使えて、これはZoteroの仕様が大きく変わらない限りZoteroとの組み合わせて使えるので、こちらのほうが遥かに便利。

今のところZoteroと連動できるのかどうか不明のApple のiCloud は10GBしかいらないとすれば格安であることが分かる。ハードディスク上にコピーが保存されない限りZoteroがデータを見に行くことができないので、利用できるかどうかはiCould がどういう挙動をするのか次第。

127. Zotero 3.0b1

2011年09月06日 22時26分09秒 | いろいろ
少し前に紹介した文献管理ソフト Zoteroですが、最近 version 3のベータ版が公開されたようです。

https://www.zotero.org/blog/announcing-zotero-3-0-beta-release/

http://www.zotero.org/blog/major-upgrades-underway/




少し前から開発されていた独立のアプリケーションとしてのZoteroがほぼ完成に近づいている模様で、もはやZoteroを利用するためにFirefoxの利用者である必要はなくなります。また文献情報を1クリックで取り込むための機能も Zotero Connector とよばれる機能拡張としてFirefoxのみならずChrome やSafariでも利用できるようになるようです。

ほかに実用面で重要な改善点としては重複文献の自動検索機能が備わるようです。


iPubMedMaker が OS X Lion で動作しないままであり、更新の発表予定も不透明だというので、今度こそ移行の潮時なのかもしれません。それでも5 GBのPDFをどう管理するかという問題(Dropboxの有料サービスを利用するか)と、過去のコメントをどうやって維持するかというもっと痛々しい問題は残ります。


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