中村如水随想録

身体論、体癖論、潜在意識、NLP、アレクサンダーテクニーク、インナーゲーム、引き寄せの法則、音楽。今、ここ。

125. 自分の小さな「箱」から脱出する方法

2011年06月26日 00時50分14秒 | スピリチュアル
久しぶりにめぐり合った名著である。Arbinger研究所による Leadership and Self-Deception: Getting out of the Boxの和訳で『自分の小さな「箱」から脱出する方法』という邦題がつけられている。



此処に書かれていることはこのブログでも再三に渡って取り上げてきた、「エゴの壁」の話とまったく同じものである。本書ではこれを「自己欺瞞 self-deception」と定義し、「」に例えている。

自信満々のバリバリのビジネスマンである主人公トムが新しい会社の管理職に転職して1ヵ月後、会社の重役バドたちと面接をして研修を受けるのだが、そこで次々と目からウロコが落ちるような話を聞かされ、自分が「箱」の中にいたことに気が付き、どうやって人は箱に入るのか、どうやって箱を持って歩くようになるのか、箱から出るにはどうすれば良いのか、箱から出たままでいるにはどうすればいいのか、について学び、家族や同僚との人間関係を見直していく、というストーリー仕立てで、大部分は問答形式で語られていく。

本書は、どうすればこの「自己欺瞞」あるいは「箱」の概念をもっとも抵抗なく、分かりやすく伝えることができるか、たいへん知恵を絞って書かれた物だと推測する。内容的にも近いものはあるが、ベストセラーの「鏡の法則」に、形式がよく似ている。

人は「自分の感情に背いた」とき、すなわち「自分を裏切った」ときに、箱に入る箱に入った状態とは、自己正当化のために、自分または他人の認識が歪み、また他人を物扱いしてしまう状態である、という。一方、箱の外にいるときは、人は他人を人間として素直に見ることができる。諸悪の根源はこの箱に入ることであるが、箱に入っている人は認識が歪み(私の従来の表現ではSF用語で、知覚フィルターperception filterの影響ということになるが)、自分が箱に入っているという事実をまず認識できないというところに難しさがある。


さて、ここまではだいたい以前に私の理解してきたとおりである。私にとって新しい点としては、箱に入るきっかけは自分の感情に背くことである、と明言していることがある。箱に入ることと、自分の感情に背くことの両方に関心を持ってはいたが、両者がそこまで表裏一体の関係であるとは認識していなかった。経験としては、箱に入っている人はすべからく己の感情を偽っているものなので(私自身もそうであったし、今でもしょっちゅうそういう瞬間がある)、なるほどなあ、と納得する。

しかし、このテーマに関して、私が再三悩んできた問題は、壁を作って中に閉じこもっている人(本書の言葉なら、「箱の中に入っている人」)にどうやって外部から働きかけることができるのか、というジレンマであった。なぜならこの壁は、本人が内側から作っている物であり、外側から無理に壊そうとすると、防御の必要性から余計に壁が厚くなるだけだからである。壁を除去することは、本人にしかできないが、周囲で見守る我々は本人ではない。したがって、普通のやり方ではこの壁についてどうすることもできない。

本書はこの問題についてどのように答えているのだろうか。すなわち箱の中に入っている人を箱から出すにはどうすればよいのか?

厄介なのは、箱の中に入っている人は、「自分が箱の中にいることによって、他の人たちをも箱の中に入れてしまう」ことである。したがって、ミイラ取りがミイラになる危険性が非常に高い、ということを認識する必要がある。

こうしてお互いに箱に入ってしまったら、もう「普通のやり方」は通用しない、という点では本書も私と同意見のようである。

1 相手を変えようとすること
2 相手と全力で張り合うこと
3 その状況から離れること
4 コミュニケーションを取ろうとすること
5 新しいテクニックを使おうとすること
6 自分の行動を変えようとすること

これらの「普通の方法」はいずれも「箱の中にいるときにしても無駄なこと」として本書に明記されている。とりわけ我々は誰しもなにか問題を発見したとき、すぐにこの「相手を変えようとする」誘惑にかられる傾向があり、全く油断禁物、常に注意が必要である。対策はこれら以外ということになる。これ以外、ということはすなわち、箱に入っている相手からの、「お前も箱に入れ」という誘惑に打ち勝って、箱から出たままで相手に接することであろう。

どうすれば箱の外に出られるか、という問いに対して、本書は極めて明解な答えを用意している。「誰かに対して箱の外に出ていたいと思ったその瞬間、君はもう箱の外に出ている」(p. 206)というのである。なぜなら、「相手を人間として見ていればこそ、外に出たいと感じることができるんであって、人間に対してそういう感情を抱けるということは、すでに箱の外に出ているということなんだ。」

また、「他の人々に抵抗するのをやめたとき、箱の外に出ることができる」、「箱の中に入っていると言って他人を責めるな。自分自身が箱の外に留まるようにしろ。」とも言っている。このうち前者はすなわち、相手に逆らうのをやめて、自己防御、自己正当化をやめることがすなわち、箱から出ることである、と言っているわけだが、これはまあ、箱自体が自己正当化と自己防御のために存在しているものなので、当然と言えるかもしれない。「自分が間違っているかもしれない」という発想を持つことがこのために重要であるとも言っている。


そう、やはり引き寄せの法則の通りなのだ。本書によれば、「自分への裏切り」とは「自分の感情に背くこと」に外ならないが、「自分の感情に背く」とはエイブラハムの引き寄せの法則でいうところの、内なる存在との不一致に等しい。よい気分とは内なる存在との一致を示しており、悪い気分とは内なる存在との不一致を表すものなので、感情は優秀なナヴィゲーション・システム(自動航行装置)なのだ、というのがエイブラハムの主張である。

最初に内なる存在との乖離があり、それが箱を自分の周りに作ってしまう。引き寄せの法則は常に働くので、別の人が、箱の中に入っている人に向かって、「お前は箱の中に入っている、けしからん」と、ただ箱の中に入っていることを指摘し、変化を要求するとき、彼も箱の中に入ってしまう。関心と感情を「箱に入っている」という問題に集中するため、自らも相手と同じ状態に引き寄せられるのだ(ミイラ取りがミイラ)。この結果、お互いに箱の中に入ってしまうと次は、「箱の中にいると、互いに相手を手ひどく扱い、互いに自分を正当化する。 共謀して、互いにはこの中にいる口実を与え合う。」この状態は似たもの同士が引き寄せ合っているだけにすぎない。

そして、対策として提唱されている「自分自身が箱の外に留まるようにしろ」というのも、同様に説明できるだろう。自分自身が箱の外にいる状態でのみ、他人に対して箱から出るように影響力を及ぼすことできるのである。なぜなら、引き寄せの法則があなたの思考と似た状態を引き寄せるから。自分自身が内なる存在とつながっている状態であれば(自分の感情に背かなければ=よい気分でいることができれば)、相手にも同じ状態を誘導することが可能なのである。

そして「箱の外にいる」状態とは相手を人間扱いする状態だというが、これはつまり相手の「存在を認める」ことであり、行為や業績など以前のもっとも根源的な問題である。存在をガッチリ認められてしまうと、人は箱に入りづらくなる。自分を正当化する必要がなくなってしまうから。

なので順序としては、まず己が内なる存在とつながっていること、すなわちよい気分でいること、自分の感情に背かないことが最初にある。これらがすべて同義であり、内なる存在とつながるというのだから、自らの存在を大いなるものとしてがっちり認めている状態である。内側と外側は鏡の関係にあるため、このときほぼ同時に、他者の存在を認めることができる、すなわち箱の外に出ている。そして他者の存在を認めていくことは今度は逆に自らの内なる存在をより信頼して認めていくことにつながっていく。存在が危うい時に箱が必要となり、箱が現れるのであり、存在を認めているとき箱は必要がなくなりやがて消えるだろう。