703 ~NAOMI’s Room~

舞台「ハムレット」を観て。

2014年の夏頃から、待ち焦がれていた
「ハムレット」

2月21日(土)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
18時公演にて、観劇してきた。

約3時間25分(一幕1時間40分/休憩15分/二幕1時間30分)




藤原竜也が蜷川幸雄に直接懇願し、
氏が80歳を迎える2015年に、彩の国さいたま芸術劇場を皮切りに、
梅田芸術劇場、そして台湾、ロンドン公演まで実現した

12年ぶり2度目となる、2015年版、藤原竜也の「蜷川ハムレット」。

そしておそらく、蜷川ハムレットの集大成になるのではないか。


こんな奇跡的な公演でオフィーリア役を務めるのが、
満島ひかり。私が憧れて止まない女優さん。

そして興味深いのが、
オフィーリアの兄・レアーティーズを演じるのが、
満島ひかりの実の弟・満島真之介。


蜷川氏は、これまでに7度も、「ハムレット」の演出を手がけてきたが、
毎回、オフィーリアとレアーティーズの兄姉演出に苦労したという。

満島さんに舞台出演の話をした際に、
「弟がレアーティーズをやるのはどうですか」と、
満島さんの方から提案があったそうだ。

実の血縁関係にあるからこそ、
魅せられる兄妹愛があるのでは、と。

弟・真之介も、その考えに同意した。

蜷川氏は「出てくれるのか」と驚かれたそう。


満島真之介は、これまでにも蜷川作品に2作出演している。
自転車での日本一周旅行をしている間に、
姉の活躍を目の当たりにして、自身も役者の道に歩もうと決心した。
最近はさまざまな映画やドラマ、CMでも活躍している。

満島姉弟は、二人で話し合いを重ね、
自分達だからこそできることや
補い合い、高め合えることがある、
それが「ハムレット」を良い方向に導けるかもしれない、と
最終的に、出演を決めたそうだ。


(稽古中の満島姉弟)




藤原竜也と、満島姉弟の脇をかためるのは、
現在の蜷川作品を共に創り上げてきたベテラン俳優たち。


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「ハムレット」

演出・芸術監督/蜷川 幸雄
演出補/井上 尊晶

作/W.シェイクスピア
翻訳/河合 祥一郎
美術/朝倉 摂、中越 司
舞台監督/小林 清隆

ハムレット/藤原 竜也
オフィーリア/満島 ひかり
レアーティーズ/満島 真之介
ホレイシオ/横田 栄司
フォーティンブラス/内田 健司
ポローニアス/たかお 鷹
ガートルード/鳳 蘭
クローディアス/平 幹二朗


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蜷川氏は、舞台稽古が開始する直前の昨秋、
病で倒れた。

しかし、稽古当日に、入院先の病院に外出許可をとり、
徹底した演技指導を行った。

役者も、氏の演劇にかける情熱と想いに応え、

新しい「蜷川ハムレット」を、全身全霊で創り上げた。


2015年、いま、この時に、ハムレットを観に行けたのは、
幸せとしか言いようがない。



ーーーーーーーーー


会場に着き、座席に座ると、
舞台には、長屋風のセット。

スクリーンには、日本語と英語で、
以下の様な内容の文章が綴られていた。


「このセットは、ハムレットが日本で初めて翻訳上演された
明治時代の貧しい民衆が暮らしていた長屋です。
2015年、私たちはここから、新たな稽古を始めます。」




18時過ぎ、開演。
今思い出しても身震いするほどの
圧倒的な役者全員挨拶。

宮廷役者の衣装は、西洋と東洋が融合したような、
それでいて日本の伝統的衣装にも通じるような
気品と絢爛さを併せ持つ艶やかな装い。

満島さんは、深紅の羽織物を纏っていた。美しかった。
藤原竜也は、ハムレット特有の漆黒の衣装。


ーーーー
物語の内容は割愛するが、

私は今までシェイクスピアを知らなすぎた。

実は今回、開演前に公式パンフレットを買うまで、
「ハムレット」の大筋さえも知らなかったド素人。

ストーリーを読み、人物相関図を見て、
初めて作品の舞台と全体像を知った。



しかし、
「藤原竜也」という俳優の凄みを改めて思い知った。


ハムレットが狂気に染まってからの、鬼気迫る後半は、
会場にいた全員が固唾を飲んだ。

朝日新聞論説委員の山口宏子さんは、
ハムレット役に必要とする素質について
蜷川氏の言葉で、以下のように記している。


深い憂愁と内省、豊かな情感、そして激しい葛藤を、
鋭い知性としなやかで強い身体で表現できなくてはならない。
加えて、3時間以上、観客の心をつかんで離さない魅力も不可欠だ。



この文章を読んで、
私は昨日観た演技をそのまま象徴したように思えた。




藤原竜也は、2003年にも弱冠21歳という若さでハムレットを演じている。
舞台後に、当時の動画をネットで観たが、
昨日観た彼とは、何かが違った。

それが何なのか、ド素人の私には解らなかったが、
確実に、何かが違った。

「日本を代表する俳優」という言葉は巷に溢れ返っているけれど、
実際の、本物の“ソレ”に触れられた気がした。




そして大好きな満島ひかりについては、
これが、私の正直な感想。

満島さんらしい、ものすごく満島さんらしい
オフィーリアだった。




今までハムレット作品を知らなかった私が言うのは、
烏滸がましいにもほどがあるけれど、
私は、正直にそう思った。


一般的に、オフィーリアは、
意思をもたない純情で無垢な女性像として描かれている。

これまでも、
荻野目慶子、松たか子、篠原涼子、鈴木杏など
蒼々たる面子が演じて来た。

鈴木杏が演じたオフィーリアは、少し観たことがあるけれど、
昨日観た満島さんのオフィーリアは、
私が想像していたオフィーリアとは、
全く異なる女性だった。


「確かに言葉は放っているのに、何を考えているんだろう?と
思わせる。彼女の心が乱れていたことや、苦しんでいたこと、
心臓の鼓動だけは漠然と観た人の記憶の中に残っているけれど、
顔や声は思い出せないー。そんな風にできたら理想です。」

「私の中では、“のっぺらぼう”のイメージです。」


彼女自身がそう語っているように、
満島さんの中に、「満島さんのオフィーリア像」が宿っていた。




もしかしたら、ものすごく意思の強さがあるのに、
父や兄に従順な女性を“演じて”いただけなのかもしれない。など

オフィーリアの心情や立場を
苦しくなるほど掘り下げて、尊重して、自分なりに解釈し直した
演技だったのかもしれない、


こんな風に、
実際のオフィーリアと満島さん自身の
葛藤とアンダーストーリーに対して、
さまざまな想いを巡らすことができた。



また、満島真之介の演技は初めて観たけれど、
想像以上に素晴しかった。

日本人離れした精悍な顔つきや、しなやかな肉体。
外見だけでも、役者として魅力的な風貌だけど、
若者らしい勢いや疾走感にあふれていて華やかさがあった。

それに、最年少とは思えないほど、
レアーティーズの、兄としての正義感や男の強さが感じられて、
終盤の、藤原竜也との擬闘も素晴しいの一言だった。

ものすごく、考えているな、鍛えられているなと感じさせる
頼もしい俳優だった。



劇中では、雛人形をモチーフにした豪華絢爛な演出や、
日本の伝統芸能を組み込んだ劇も登場して、

これからの海外公演でも、確実に高評価を得るだろう。

5月末まで続く長丁場。

確実に成長する日本の舞台芸術と
役者陣に、これからも注目していきたい。



ハムレット。

初体験だったけれど、心から感激した。
シェイクスピアの奥深さは底知れないけれど、
今回の舞台をきっかけに、少しかじっただけで、
ものすごく興味が湧いてきた。

ネットを開いただけでも、
莫大な数の解釈本や論説、書籍、論文などが存在している。

けれど、本当の解釈なんか、どこにもないのだろう。

当たり前のことだけど、
日本でもそうであるように、
世界中の英文学者や芸術家、演者をはじめとする
多くの人々によって、語り継がれ

考え、感じ、演じ、
表現の対象として存在し、世界を魅了し続けることが
どれほど素晴しいことなのか。

そして、それを、
命をかけて全身全霊の思いで、
日々、続けている人間がいるということが
どれほど尊いことなのか。


この世界に少しでも触れられて、
感じることができたことを幸せに思う。




舞台の一言。
「全身全霊の尊さ、難しさ。」

 

 

 


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