猫の音

君の言葉を借りてみた  ~ 心のお天気 覚え書き ~

ナンセンスに挑む

2009-10-28 | 心のお天気


更々願わず十代の最後を過ごし
助手席が一番と豪語できた二十代。

三十歳をカウントしてからは、逆に持たずして生きることの楽チンさを覚え
お年頃に突入し、今日を数えるまで一度も不便を感じることもなく生きてきた。


ただ、いつの時もライセンスを問われ回答する行為はとても億劫で
ナンセンスに思えてならなかった。


自己最高速度、自転車な私が過ごした無職の夏。
突如思い立った。

免許を取ろう!
レッツゴー免許!

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甥っ子に続きお世話になった教習所は合宿生が多く、
見渡す限りヤングな中、たった独り珍入した中年アルジは入校式の翌日
生まれて初めてジツギなるものを体験した。

指導員たる者、けっしてため息などつかない。
しかし往復する大きな胸の上下は隠しようもない彼の苛立ちを物語っている。
が、構わずお初のジツギはユルリユルリとクリープ現象で場内を走行し続けた。


翌日も、その翌日も
教本とそして水筒を持ちお迎えバスに揺られて教習所に通った。
そして帰宅すると気絶したかのように疲れ果て眠った。


日の暮れ時限の授業で坂道発進が出来ず、指導員に叱られ涙が滲んだ。

悔しかった。
情けなかった。


そんな苦節の日々にもめげず、送迎バスに揺られて毎日通った教習所。

授業は容赦なく進み、実感のないまま迎えた見極め。
仮免前検定ではあまりの厳しいご教示にとうとう人目も構わず泣いてしまう。

再度挑むも今度はこれまで難のなかったS字でポールに接触してしまい退場を命じられる。
この場面では自分のあまりの不甲斐なさに涙も出なかった。


入校式から16日目。
三度目にしてようやっと合格点数に達し
そして第二段階に進むことになる。


精一杯に溺れそうになりながらも、とにもかくにも頑張ったつもりでいたけれど
待っていたのはその後の更なるブルーな展開だった。

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ツイテない。

はじめての路上は雨の予報でしかも11時限目で夜。

小降りで持ちこたえてくれた雨が、授業開始のベルが鳴ったとたんに本降りと化する。
それは意地悪な程の降り様で、おまけに持参したはずの傘が傘立てにない。

用意のなかった誰かが差して行ってしまったのだろう。
心細さが倍増する。


指導員から初路上に際した指導を受けるも正念に入るわけがない。
教習車に乗った瞬間から私の頭の中は【絶対しぬ】の恐怖で占有され
そして、路上に四輪を滑らせた瞬間に【絶対しんだ】に切り替わった。


塗ったはずのリップも、早や唇はカラカラに乾燥状態で
やっと発せた『せんせー怖い。』の言葉はいつもの私の声じゃなく
まったく別人のような発声で、声というより息で話すに近かった。

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完結まで不定期に追加更新の予定